2013年2月27日水曜日

混迷するシリア――歴史と政治構造から読み解く 青山 弘之 (著)

【要約】
・現在のシリアの状況は、アサド政権が残忍な弾圧者として報道されているが、事態は単にアサド政権が退陣すればよいという単純な問題ではない。トルコ、パキスタン、イスラエルからロシアまでの周辺諸国との複雑な地政学的観点から見た時に、現政権からバトンタッチされるに足りるだけの勢力がないのも事実。アラブの春以降、アサド政権は、それまでに反対勢力が掲げていた要求をある程度は認めて法律も施行しているという事実もある。

【ノート】
・10年来、アレッポの石鹸を愛用している。洗顔洗髪から体を洗うのまで、全てこれ一つでやっている。アレッポがシリアだというのは知っていたが、シリアがどこにあるかは知らず、何となくイタリアの近くにあるのかと思っていた。これは多分、アレッポの石鹸がオリーブからできているのと、シチリア島と語感が似ていたからだと思う。だからというのも変だが、シリア内戦のニュースを聞いた時から気になっていた。それと同時に、そこまで国民を弾圧、虐殺したと報道されているアサド大統領や現体制について、果たして、本当に、そんな映画に出てくるような分かりやすい悪者なんだろうかというのが気になり始めた。

・本書では決してアサド政権の弾圧姿勢を容認してはいないが、反対勢力が分裂、批判し合い、周囲のきな臭い国々に対抗できるだけの体制像を描けているわけでもないという状況を伝えている。お隣りのトルコやレバノン、イラクに加えてすぐ近くにはイスラエルもあるわけで、そうなるとアメリカの影もチラつく。反対勢力の中でも、シリア国内だけでケリをつけるべきだとするグループと、国外からの支援も取り入れて、現政権の打倒を実現するべきだとするグループもある。加えて、アラブ民族主義、マルクス主義、シリア民族主義、クルド民族主義、イスラム主義と、イデオロギーだけでも5つの勢力が対立し合っている。何か、アサド大統領、思ってたより大変なんじゃないか。少なくとも市民を虐殺して、その上にあぐらをかいて宮殿で毎日パーティー、というわけではなさそう。

・10年以上も前にやった初代プレイステーションのゲーム、メタルギアソリッドで、クルド人であるスナイパー・ウルフというキャラクターがいた。彼女は内戦の中を生き抜け、スナイパーになったのだが、そんな彼女が死ぬ間際に言ったセリフ、「世界は我々(の惨状)を無視した」。この言葉が今になって心に響いてきている。

・本書の著者は「シリア・アラブの春(シリア革命2011)顛末記」というサイトで日々、状況を伝えてくれている。これからずっと注視したい。

2013年2月24日日曜日

武士に「もの言う」百姓たち: 裁判でよむ江戸時代 渡辺 尚志 (著)

・江戸時代の農民と言えば、強権的な武士に対して無力で、「生かさぬよう、殺さぬよう」搾取されるだけの惨めな存在。そんな印象を持っていたのだが、そうではなかった。江戸時代のどの時期かにもよるが、農民は決して「物言わぬ」存在ではなかったし、農民が公的な場で自分の利害を主張をするだけの社会的環境も整えられていた。

・具体的には、農民にも訴訟は認められた権利であったということ。現代以上に訴訟が盛んだったらしい。本書は、ある訴訟の記録を紹介することで、当時の様子を垣間見せてくれる。質問状やらそれに対する回答状などのやり取りがあったため、当時の様子を知ることができるわけだ。これらの訴状や質問状なども全て現代語訳してくれているので読みやすい。「自分に悪意はなかったんだけど、お騒がせしたことについては申し訳ない」なんて言う、本当に謝ってんだか謝ってないんだか分からないような言い方が、この頃から使われていたのが分かるのもまた面白い。ちなみにこの裁判、足かけ5年というから、当時に対する先入観も変わる。

・郡奉行から職奉行、評定所とヒートアップして周りを巻き込んでいくこの訴訟で、巻き込まれる側の武士達が、判決前に、藩の威光を保つためにどのように決着させればよいかを示し合わせている過程まで分かるのが面白い。帯刀という形で暴力の行使を許されてはいるが、やってることは官僚。なお、意外だったのだが、彼らの基本的な方針というのは、明確な判決を下すことではなく、関係者(この場合は農民)全員が納得して円満に解決することが重視されたという点。判決を一方的に言い渡しておしまい、ではなかった。意外と農民が大事にされていた事実が見えてくる。

・それにしても、何で、江戸時代の農民は搾取されるだけの惨めな存在というイメージが教育的に採られたんだろう?

ウルトラマンマックス 視聴記-18(第27〜28話)

第27話 「奪われたマックススパーク」

 タイトルからはセブンの傑作「盗まれたウルトラアイ」を連想させるけど、特にそういうことはありません。ミステリードラマっぽい冒頭。アパートの一室の不気味な生物、エレキングの幼体。ちょっと気持ち悪いぞ。これが、色々なご家庭所で飼われている兆候が示される。「(街全体で)どれだけのエレキングが育てられてるんだ」とは、恐い想像。今回はスタート時からライティングとBGMが不気味。ちょっと不快なアンバランス感を醸し出してる。一瞬、実相寺さんかと思うぐらい。

 あれ?今回、ミズキとカイトが主軸の話?と思わせる序盤の展開。カイトに対する挙動がちょっと不審なミズキ。一緒に見ていた家内が「告りたくなってんじゃないの」と。

 怪しげな空間では銀のお皿の上にエレキング幼体。ちょっとグロいです。そこで、「地球人の男性は可愛い女性に弱い」ことをセブン時代に学習したピット星人。そんなピット星人に見事にやられてマックススパークを奪われてしまうカイト。傍らでは昏倒するミズキ。ミズキはエレキング幼体に魅入られていた!この辺り、金子監督ならちょっとしたエロスを感じさせる映像にするんだろうけど、今回はそんなこともなく、健全に気持ち悪いだけ(?)。

 取り憑いてるエレキングをはがして、身体を張ってミズキを助けるカイト。ちょっと演出が安っぽいのが残念。幼体エレキングを無力化する方法は他に幾らでもあるでしょ、という感じなんだが。せっかくのカイトの頑張り、現場に向かうミズキの決意が、この辺りの演出のため、ちょっと安っぽくなっちゃったな。

 ダッシュバード3に乗り込み、月を背負って登場するミズキ、カッコいい!しかもエレキング1体を倒した!

 一方、映画並みの無謀なアクションで円盤に乗り込むカイト。序盤で「あの頃は無謀だったからなあ」とミズキに語ってるが、今でも十分無謀ですから!
 円盤の中で変身した(と言うより元の姿に戻った)ピット星人相手に強いぞカイト!ってか、何でピット星人、女性に擬態しないでわざわざ変身を解いたんだろ。

 今回のマックスのアクションはみどころいっぱい!エレキングの光線攻撃を手刀で叩き落す力強さ。そして、側転からのキック攻撃の時のカメラのローアングル、カッコいい!見たことないアングルでの巨大ヒーローの戦いっぷりを間近で見せてもらったという感じ。

 何だかマックス=カイトに気付いちゃったミズキ?
 自分の感想としては、1. カイトがエレキング幼体からミズキを助ける時、もっと説得力のある描写をする 2. その上で、マックスがミズキを助ける時にも、単に空を飛びながら機体をつかむのではなく、体を盾にしてエレキングの攻撃からミズキのダッシュバードを守る、というような流れが王道だとは思う。でも、今回のように、ちょっと端折ってる感のある流れでも、ミズキの表情できちんと語ることができているのでいっか。ちなみに、自分はミズキ・ラブなのであって、長谷部瞳・ラブではありません。誤解なきよう(笑)。


第28話 「邪悪襲来」

 いきなり星ごと滅ぼしてしまう怪獣(凶獣)登場。スターウォーズのデス・スター並みの破壊力を持つルガノーガー。見た目も鳴き声もちょっとアレなんだけど破壊力は凶悪。ちなみにデザインは一般公募で、8歳の子供からのものが採用されたらしい。

 お正月休みなカイトは自分が縁のある孤児院へ。そこには冒頭で故郷を滅ぼされた異星人、リリカの姿が。どこかで見た顔だなと思ってたら、映画版ガイアで、訳あり少女を演じてた斉藤麻衣だった。

 ルガノーガー、地球に襲来!キーフの時と同じく、リリカもカイトがただの人間ではないことを見抜く。合流したミズキに避難誘導を任せて攻撃のサポートにまわるカイト。ダッシュ・ドゥカで、まるで仮面ライダーばりのバイクアクションってか、星をも滅ぼすほどの凶獣が、ダッシュ・ドゥカからのミサイル攻撃程度を気にするかなあ?

 今回のマックスもアクションの見所がいっぱいサマーソルトキックだって出しちゃうぜ!もしやと思われたリリカちゃん死亡フラグも発動することなくハッピーエンド。何か、それほど苦労することもなく、マックスに普通に倒されてるルガノーガー。リリカちゃんはマックスに文句ないのかな?何で地球は守ってるのに自分の星は守ってくれなかったの?って。安保条約が結ばれてなかったのか。

 「邪悪襲来」だなんて思わせぶりなタイトルだった割りには小粒な佳作だった。ラストシーンでリリカちゃんがカイトの耳元でささやくのがちょっと微笑ましくてよかった。カイトの慌てっぷりも相まってリリカちゃんのコケティッシュな一面をうまく引き出してる。

リスクセンス ―身の回りの危険にどう対処するか ジョン・F・ロス (著)

・「人はなぜ逃げおくれるのか」のカバーの「関連本」の中にあり興味を持ったが、ちょっと外したかなというのが正直な読後感。リスクに関する科学的アプローチなり実践的な手法を期待したんだが、本書ではリスクの概念を様々な事象に適用し、それらの現象にまつわる科学的知見について調べたことを開陳しているにとどまってる印象。

・リスクという概念がどのように発展してきたという歴史的な部分については少し面白く読めた。しかし、遺伝子から原発事故まで、様々な事象におけるリスク的観点からの解説については冗長な印象があり、自分にとっては退屈で頭に入ってこなかった。更に言えば、それらについてのまとめがあまりにも平凡かつ漠然としている。これなら「アダプト思考」の方が、簡潔にバランスよくまとめられていたと思った。

2013年2月17日日曜日

アメリカは本当に「貧困大国」なのか? 冷泉彰彦 (著)

・堤未果の「ルポ貧困大国アメリカ」はⅡも出てるみたい(未読)だが、本書は、堤さんの捉え方が一面的で、取材も恣意的ということで反論を行っている。

・反論の根拠は、主として「機会均等」についての紹介がなく、それがあるからアメリカ社会は比較的、ポジティブでいられる、というもの。なお、堤さんへの反論的な部分は第1章のみで、それ以降は冷泉さんのアメリカレポートという構成。それも、オバマさん寄りのアメリカの「チェンジ」の検証という内容で、オバマさんへの評価が大変高い。

・アメリカの二大政党のパワーバランスの構成やここ数年の変遷なども解説されているので理解が深まる。相変わらず主観を強めに感じてしまうアメリカ社会の空気感の記述は玉石混交な印象。あぁ、そうなんだなあと思う箇所もあれば、ホントにそうなの?と思う箇所もあり。

・「貧困大国アメリカ」がダークサイドばかりに目を向けており、ポジティヴな側面もあるということを補足してくれる本ということになろうか。ただ、冷泉さんも指摘している通り、堤さんの視点は、そのダークサイトが日本に影を落とそうとしていることに対する危機意識によるところが大きいように思える。その意味で、日本は大丈夫と安心している場合ではない。

ウルトラマンマックス 視聴記-17(第26話)

第26話 「クリスマスのエリー」

 予告映像とタイトルの音楽からしていつもと違う!「ペテン師博士」こと古理博士役が何とクレージーキャッツの犬塚弘!ユニコーンみたいな幻獣ユニジンを追う科学者という役柄。定期的にしか地球に近づかないというユニジンの設定は、スター・トレック「ジェネレーション」のネクサスを思わせるが、ソラン博士ほど狂信的でもはた迷惑でもない。

 古理博士が過去を悔恨と共に回想するシーンで「何か、何か...」と言って目が潤んでいるエリー

 ミズキ、エリーを連れ回していると勘違いして古理博士に食ってかかる。この時のミズキのセリフ、ドスが効いてて恐いぞ!「うちの子連れ回して何してんのよ!」って感じ。モンスターペアレントっぽくておっかないけど、いい演技!しかも、誤解だと分かった時の逆豹変っぷりも面白い。高低差ありすぎて耳、キーンってなるわ!

 ユニジンは破壊行為をはたらくわけではないので、今回のマックスは裏方的役割。そんな回があってもいいべさ(北海道弁)。前回と同じく、もっと盛り上げてくれてもいいのに、という残念感はあるものの、楽しくて夢のあるお話しの回だった。犬塚弘というキャスティングで、既に伝わってくるものがある。

 ところで前回からショーンが存在感を増してきてる印象。他の隊員がきちんと描写されるのはいいことだ。

2013年2月11日月曜日

ウルトラマンマックス 視聴記-16(第25話)

第25話 「遙かなる友人」 ウルトラヒーローを超えた宇宙人

 思わずサブタイトルをつけてしまった。なにげに大傑作なんじゃないか。

 突然、不時着してきたネリル星人キーフの来訪を受けた普通の少年カケル。キーフが姿を現そうとした時にカケルが「癒し系でありますように」って祈るのがちょっと面白い。

 公園での人々の姿や「こんにちは」「ありがとう」のやり取りに感動するキーフ。「命の惑星なんだ」と早々にまとめを語ってしまうキーフ。こういうのって、最後の泣きクライマックス向けなんじゃないのと思いつつ、期待はふくらむ。帰るべき星が滅びてしまったというキーフの話に共感して思いやるカケルの姿がサラリと描かれているのもよい。それにしてもキーフの言語の習得能力、メチャ高いな。

 自ら宇宙人研究の実験台になることを望み、捕獲される、いや、この言い方は劇中に出てきた嫌味な科学者と同じになっちゃうな、自ら協力するキーフ。キーフのことを宇宙人としか呼ばない官僚的科学者に「宇宙人じゃない、キーフだ」と強めの口調で諌めるショーン、カッコいいじゃん!やはり初代マンのイデDNAは健在ということか。

 DASHとキーフとの間にも絆ができる。せっかくだから少しでも交流シーンがあるとよかったな。ショーンやコバの立ち振る舞いでも分かるっちゃ分かるんだが。

 「命の惑星」に感激して地球を好きになった、というレベルを上回るキーフの構想。宇宙人=侵略者では必ずしもなく、地球のことを好きになる宇宙人だってこれから出てくる、だって、自分はこんなに地球のことが好きになってしまったんだから。だから、宇宙人=侵略者じゃないという前例が地球には必要なんだとキーフは淡々と語るが、この発想は今までのウルトラシリーズにはなかったのでは?個人レベルでの友情や愛情が描かれたことはあったのだが、こんな壮大なビジョンを持ったキャラクターというのは思いつかない。ウルトラセブンの傑作の一つ、「盗まれたウルトラアイ」のマヤとダンの対話シーンで、地球のことを大好きなダンが「共に宇宙人としてこの星で生きていこう」と語りかけるシーンがあるが、これも、あくまでも「地球人の姿で」=「宇宙人であることを隠して」という前提。これから地球を好きになるであろう宇宙人の中には、自分のように地球人に擬態できない者もいるだろう。だから、彼らが、その姿のままで地球の人と仲良く暮らせる礎に自分がなりたいと語るキーフ。「僕はね、カケル、その最初の一人になろうと決めたんだ」。淡々と語っているが、実はウルトラシリーズ屈指のパラダイムが示されていると感じた。

 キーフの気持にはウルトラヒーロー達が地球を守るモチベーションと通底している部分がある。だからか、その正体を初対面時に看破していたキーフはカイト/マックスと相通じるものを感じていたように見える。だが、ウルトラヒーローにとって地球はPKO的な任務で赴く「任地」に過ぎない(ちなみにセブンはちょっと違う)のに対して、キーフにとっての地球は、正体を隠して幸せに暮らすだけでは足りないほど愛してしまった星、文明なのだ。

 ゴドレイ星人。ただの悪役として登場。その割にはちょっとイケてるデザイン。マックスでは夜間の戦闘シーンが多いのだが、これはライテイングの妙による「巨人感」を強調したいからではないかな。炎上する街の照り返しがマックスとゴドレイ星人に映える。いいなあ。

 キーフが遺していったネリル語の「サー・ヌーシュ」、憧れ。「憧れが僕らの手足を動かす」。まるでネイティブ・アメリカンの言い伝えのような香りを放つこのセリフ。

 もっと盛り上げて感動巨編にできたような気もするが、意外と淡々と進んだ今回。しかし、提示されたもののスケールは大きかった。

検証 福島原発事故 官邸の100時間 木村 英昭 (著)

・リーブルなにわで目について興味を持った。岩波だから、あまり無責任な煽り本ではないだろうというブランドへの信頼もあった。ちなみにこの本の著者は朝日新聞の記者。

・3.11発生後の100時間=約5日間の官邸での原発事故への対応の様子が克明に描かれている。「描かれている」とひとくちに言ってもその信憑性が大事なわけだが、本書では菅元総理をはじめとする関係者へのインタビュー、そして彼らのメモやプレスリリース等を照らし合わせることでその裏付けとしている。もちろん、そのインタビューなりメモの中身すらデタラメ、あるいは巧妙に口裏を合わせたでっち上げという可能性もゼロではないが、今は本書での記述を信用して以下を続けることにする。

・東電、保安院などの無責任、と言うより無能ぶりに呆れると同時に、このような事態が起こった時の対処が手探りに近い状態で行われていたということに慄然とする。また、本書で描かれている東電首脳陣の無策、無責任っぷりが本当であるならば、そのことに対する責任が問われていないという現状に憤りを感じる。菅さんが怒鳴ったというのも、よっぽどの状態だったというのも本書を読むと分かる。と言うより、東電や保安院などの使いものにならない連中に対して、思わず声のトーンが上がらなかった関係者なんているのか?

・この本を読む限り、管さん、かわいそう過ぎない?

・災害発生時に必要なこととして、何が起こっているのかの状況把握はもちろんだが、それ以外に本書を読んで大事だと思ったことを列挙しておく。今、災害関連のプロジェクトにも関わっているので、結構参考になった。

 -何があるのか
 本書での例はSPEEDIなわけだが、つまり状況判断や予測などのために活用できる既存のシステムについて、どんなものがあるのかを知っておくこと。ちなみに放射能の拡散予測システムであるSPEEDIは文科省の管轄。だが、誰も官邸にその存在を進言することはなく、活用したのは外務省経由で打診を行った米軍のみ。

 -誰がいるのか
 その分野での専門家は誰か。本書では東電や保安院が頼りにならない状況で菅元総理が個人的な人脈でブレーンを組織した様子が書かれている。北海道だと北大、道工大、室工大と言ったところか。どこにどんな専門家がいるかを把握しておくことも重要。

 -各部署で把握できる情報は何なのかを知っておく
 例えば道内で災害が起きたら道庁辺りに対策本部が設置されることになると思うが、その時、関連部署でどんな情報を集約できるのかを、意思決定者が把握しておく。もちろん、その部署の責任者もそのことは知っておく必要がある。そして常に「◯◯についての情報は△△に集約されている」という状態がブレないようにしておく必要も。

 -記録係の設置
 一貫した記録係の不在により、いつ、何が起こり、誰が何を言ったかというのが把握しづらくなっている。対策本部などでは記録、それも書くだけではなく録音、できれば映像での記録があるべきなのではないかと思った。ただし、そこまで記録してしまうと、その場にいる関係者が後での責任追及を恐れて闊達な意見交換ができなく可能性もある。

 -通信インフラの確保
 携帯電話もさることながらインターネットなどのネットワークの確保、そして、そこにアクセスするためのデバイスの確保。菅さんが個人的に読んだブレーンの人は、あまりにも急な話だったので官邸にPCを持ってきておらず、調べものをするのに自分のケータイのiモードだったという記述があった。道庁なり各自治体は、災害が起こった時に対策本部が設置されるであろう部屋における通信インフラの確保を今から行っておくべきだ。

2013年2月3日日曜日

領土問題、私はこう考える! 孫崎享、山田吉彦、鈴木宗男ほか識者たちの提言 畠山 理仁 (著)


・孫崎享、鈴木宗男を読みたかったのだが、YouTubeに中国船体当たり映像をアップした一色正春なんかも載っていた。加えて、尖閣に国旗を掲揚した右翼団体も登場しており、色々な立場の人の意見が概観できる。ただし、それぞれ、談話レベルの話で、サラッと読めるが、現状に対する理解が深まるというものでもなかった。

・中国とビジネスをしている会社の社長の話で、中国のレアアース禁輸、実は国(商務省)が禁輸措置をしたわけではないと初めて知った。
「今回は北京は何もしていません。中国がレアアースを人質にしたわけではありません。(略)しかし、これまでにこうした話をマスコミで書いた人は一人もいません。みんな『中国政府がまた輸出を禁止した』とまことしやかに話し、根拠もなく信じています。」(P144)


札幌の名店60選 行きつけにしたい西洋麺屋 (MG BOOKS)

・図書館で見つけた。AGRIOが載ってない辺り、料金取って掲載してる?と思わないでもない(ちなみに、自分のAGRIOに対する評価はあまり高くないので、載ってないから文句を言ってるわけではない)。

・発売が2008年ということもあり、既にない店や、リッチみたいに街中に進出してきた店もある。あまり参考にはならないかな。それでも数店、興味を持ったところをメモはしておいたが。

・札幌のエムジー・コーポレーションという会社が出版してるということだが、最近は元気がないような...。

BACKPACK CATALOG (ホビージャパンMOOK 399)

・図書館で目に入って借りてみた。iPadを収納できる、使い勝手のよいワンショルダーバッグがあればと思ったが、かねてより知っていたMAGFORCE以外では、特に見るべきものがなかった。

別冊PEAKS みんなの山道具

・図書館でたまたま目に入った。シカクマ対策のヘルプで出動する時用に、どんなブランドのものがどんな機能でどんな価格帯であるのか、概要だけ把握するために購入。やっぱりフリースよりメリノウールか。

知的トレーニングの技術 花村 太郎 (著)

・高校〜大学の頃に持っていた。この本に書かれているトレーニングを実践したということではなかったのだと思うが、なぜか急に思い出して読みたくなった。もう絶版で、amazonの中古では¥4,000ほどの高値がついてる。

・読み返してみると、昨今のライフハックの先駆け的な内容も散見される。志の立て方から資料の集め方、書物の読み方、文章の書き方と幅広い。読書術の紹介としてのレーニンノートの存在はこの本で知った。他にも言葉の習得について南方熊楠の文章を引用してみたり、芥川龍之介のテキストをまるまる書写した自身の体験についての記述があったりで、その時々でちょっとした発見がある。ちょっと手元に置いておきたいが、高いなあ...。

【目次】
第1部 準備編
・志を立てる 立志術
・人生を設計する 青春病克服術
・ヤル気を養う ヤル気術
・愉快にやる 気分管理術
・問いかける 発問・発想トレーニング法
・自分を知る 基礎知力測定法
・友を選ぶ師を選ぶ 知的交流術
・知的空間をもつ 書斎術
・文房具をそろえる 道具術、保管術
・本を並べる 配架法
・事典をそろえる 知的工具術

第2部 実践編
・論文を書く 知的生産過程のモデル
・あつめる 蒐集術
・分類する、名づける 知的パッケージ術
・分ける、関係づける 分析術
・読む 読書術
・書く 執筆術
・考える 思考の空間術
・推理する 知的生産のための思考術
・疑う 科学批判の思考術
・もうひとつの科学的思考 エコロジー思考術
・直感する 思考術
・さまざな巨匠たちの思考術、思想術 発想法カタログ

ハーモニー 伊藤 計劃 (著)


・「虐殺器官」の後日譚。平和になった世界。そこはハーモニーが取れたように見える世界。「自分を律することの大半は、いまや外注に出されているのだ」。そんな世界に馴染めない女子高生の視点から語られる世界の異常性。物語はそこから始まる。日本SF大賞だけでなく、アメリカでP.K.ディック賞まで取った作品。

・一見ユートピアに見えるディストピアということで、ウォルター・テヴィスの「モッキンバード」というSF作品を思い出させる箇所も散見される。だが、「モッキンバード」のような暖かく血の通った人間復権が描かれることはない。「虐殺器官」が救いのない物語だったのに対して、本作は、救いを求めてたどり着いたところが、とんでもなく救いのない世界(と言うか「救い」という概念を必要としない世界)だったという物語。何とも言えぬ後味の悪い読後感。これ、中学ぐらいで読んでたらトラウマになってたかも知れない。

・秘密を知り、トリガーを引き得る存在となった主人公が、そのトリガーを引く必然性がイマイチ伝わってこない。実はそのことが、「虐殺器官」と「ハーモニー」で自分が最も戦慄した部分かも知れない。

・本書は、初めて電子書籍で読んでみた(iPad版のKindle)。ページを繰る感覚や、以前のページに戻ってちょっと確認する、というのがやりづらい。あまり気にせずにマーカーをつけたり、挿入したコメントを後から一覧的に見ることができるのは便利。


2013/02/21(木)追記
・「救い」を求めて行き着いたのが「救い」が意味を持たない場所。これはもしかしたら、作者が自らの死と対峙せざるを得ない状況の中で、その苦しみや恐怖をじっと見つめたからこそ出てきた想念だったのかも知れないということに気付いた。ちなみに、本作は作者が34歳という若さで亡くなった2009年の翌年、発表された。





※モッキンバードは大好きなSF作品の一つ。残念ながらもう絶版だけど。


2013年2月2日土曜日

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より 岡田 斗司夫 FREEex (著)

・「いつまでもデブと思うなよ」が大ヒットした岡田斗司夫の本。朝日新聞で悩み相談を受け持つ彼が、回答を出すまでの思考の道すじを解説している。タイトルを見た時は「世の中にはこんな不可思議な相談がある」という、例えば「プロ野球珍プレイ好プレイ集」というような、笑いをメインとした内容かと思っていた。実際は全くそんなことはなくて、岡田さんが真摯にプロとして相談者に向かい合った軌跡を著したものだった。

・「悩み」というのは無限ループのように、同じところでぐるぐる回って(回して)いることが多い。そこで彼が提示するのが

 悩みの書き出し(ジャグリング禁止)→分析(仕分け)→理由の解明→解決手段→追い込み(環境の強制)

 というフロー。なお、「追い込み」というのは「株式会社・自分」という考え方からきている。自分の中にはたくさんの人格と言うか社員がいて、その上位にいる「社長」格の統合的自分にできるのは、それを行動に移さざるを得ない環境に自らを「追い込む」ということ。

・岡田さんが相談者への回答を出すために使ったフレームワークは次の通り。
 1.分析
 2,仕分け
 3.潜行(深く、なぜ?なぜ?と潜っていって、底にタッチ)
 4.アナロジー(喩えてみる)
 5.メーター(今、100◯◯だから40◯◯まで減らそう)
 6.ピラミッド(自分の相対位置、ピラミッドのどこに位置しているのか)
 7.四分類(とりあえず4つに分類する)
 8.三価値(二極対立プラス1、とりあえず「今日」の解決のために)
 9.思考フレームの拡大(twitterしている社員説教するべき部下なのではなく、同じネットの一員、という例)
 10.共感と立場(上から目線じゃなく、相手と同じ温度の湯に入る)
 11.フォーカス(可能な行動に絞って結論)

・やはり最初は「書き出し」から始まるんだな。「その科学が成功を決める」という本でも、まずは書きだしてみることの有効性が書かれていた。書きだして分析して仕分けして、というのはGTDにも通じるアプローチ。

・実際の回答時に、これをどう適用したかというのも解説されており、分かりやすい。だからと言って、著者がサラッとやっている(ように見える)フレームワークの適用を、自分でも簡単にできるかと言えば、決してそうではないんだけど。加えて、例えば「どうしても共感できない時は、もらった相談内容をそのまま書いてトレースしてみる」など、独自の工夫が凝らされていることも見逃せない。いかに自分を使うか。「株式会社自分」の社長は、やっぱり会社の動かし方を知ってなきゃ。

・あれあれ?中2の女の子相談のメイキング読んでてちょっと涙ぐんでしまった。ちょうどかけてたBGMがColdplayのParadiseだったからかも知れないけど、岡田さんの意外な(?)誠実さ、心意気に打たれたからか。

・「まず、原稿をちゃんと完成させる。それからしばらく置く。できれば3日ほど置く」というのは、今、こうやって読書記録を書いてる自分も同感。読了後に一気呵成に感想を書いても、その後、発酵と言うか熟成が進み、新たに気づいたり、違う観点が生じてきたり、ということが結構ある。これは外山滋比古さんの「思考の整理学」でも書かれていたことと通じるものがあると思うんだけど、そちらを読んだ頃にはあまりピンと来なかった。最近になって実感できるようになってきた。

・意外と気になった言葉、「プロとは『納得できなくても締め切りを、約束を守ること』だ。」(P276)

松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。 松岡正剛 (著)


・昨年後半から松岡正剛という人に興味を持ち始めた。知ってる人からすれば今更感が強いだろうが、大変な読書家で、知の巨人的な扱いをされることも多い。本人は自分のことを編集者だと言っている。自分が学生の頃、ニューサイエンスの本を多く出版していた工作舎を立ち上げた人でもある(ラブロックの「ガイア理論」の翻訳本も工作舎)。

・そんな松岡さんが企画・運営した本屋、松丸本舗。昨年(2012年)9月に閉店したらしいが、3年の間、丸善と組んで、丸の内店のショップ・イン・ショップという形で運営してたらしい。これからの(あるいは本来の)本屋とはどうあるべきかを考えた上で構築されたその空間が、どのような立ち振る舞いであったのか、残念ながら体験はできなかったが、この本で少し垣間見ることができた。しかも舞台裏の解説付きで。

・平たく言えば、タイトルにもある「奇跡の本屋」の3年間のヒト、コト、モノについてまとめた本。結構なボリュームなんだが、意外とスルスル読めてしまうのは、全体の2/3が資料的というのもあるのだろうが、松岡さんの「編集」の妙なのかな。

・ただ、閉店に至った事情がいまひとつ分からなかった。閉店は松岡さん達の意志に反してのことらしいので丸善側の理由が知りたい。単純に赤字だったからなんだろうが、それは松丸本舗の箱、つまり店舗什器等にかけた初期投資なのか、各種企画にかかった原価なのか、それとも松岡サイドへの支払いを含む人件費の部分だったのか。

・松岡さんは「捲土重来を期すつもりだ」とtwitterでつぶやいた。「奇跡の本屋」は、果たして「あれは奇跡のようなものだった」で終わるのか、それとも、その奇跡の種子がタンポポのように各地に散らばっていき、芽吹くのか。

・余談だが刊行前に予定されていたサブタイトルは「65坪、10万種・各1冊、1074日間 人と本をつないだ奇跡の本屋の挑戦」だった。