2013年12月30日月曜日

2013年の読書

 今年は151冊の本を読んだ。目標が108冊(一ヶ月に9冊)だったので、上方修正でクリアだ。しかし、どれだけの本が本当に自分の血肉になっているかと振り返ってみると甚だ心もとない。本当にきちんと取り組んだ本となると一桁だ。来年は熟読する本を増やしたい。頑張って来年は200冊読了、そして熟読本を12冊を目標とする。

 今年、特に印象に残った本は次の通り。

「ウェブ社会のゆくえ」
 社会生活を営む上でどんどんウェブが侵食してきており、筆者はそのことを「現実の多孔化」と捉え、従来型のコミュニティの存立パラダイムを揺るがしていると見る。


「レイヤー化する世界」
 「ウェブ社会のゆくえ」と分析しているところは似ているが、本書はコミュニティではなく、個人のこれからの世界との向き合い方について前向きな提言をしている。


「㈱貧困大国アメリカ」
 三部作の完結編。三部作のどれを読んでも明るい気持ちにはなれないが「奴らは本気だ、だから自分達も本気で対応しないと」という気持ちを喚起してくれる。


「詩歌と戦争」
 詩歌が大衆の間に及ぼす「空気」感と、戦争への道について、北原白秋を中心に検証した作品。そう、軍部の暴走だけの責任ではないのだ。全ての責任を、そういう形で擦り付けてしまったら、同じことが繰り返される。

「ウルトラマンが泣いている」
 円谷一族による身内の恥晒し暴露本。今、円谷プロには円谷一族の血はもうないらしい。そのことに全く寂しさを感じないわけではないが、正直、どうでもいい。円谷の子孫がウルトラマンを守り、その世界を全うできなかったのであれば、普通の法人としてマトモな組織になっていってくれればよいとさえ思う。

「記憶をコントロールする」
 面白いが、果てしなく恐い。光信号で記憶の改ざんができてしまう!

・あと、今年発刊ではないが、特別枠として「ストレスフリーの整理術」 
 仕事のタスクをスマートにさばけない自分にとってのバイブル。何度も読み返しているが、読み返す度に発見がある。本書が他のライフハック系や仕事術本と一線を画すのは、背骨がきちんと通っているという点。他書が帰納的とすれば本書は演繹的。著者のD.アレンがその思想的バックボーンを構築するには多分に帰納的なプロセスを経てはいるが、彼からのアウトプットであるGTDについては完全に演繹的だ。
 アレンさんの本は3冊、翻訳されているが、まずは基本書、そして「実践」。中古でえらく安く売られている「仕事術」だが、基本書と「実践」を読んだ後で読めば、アレン的GTDを応用するワークブック的にも使える、中身の詰まった本なので、是非。

2013年12月25日水曜日

戦場から女優へ サヘル ローズ (著)

・イラン生まれの著者が、イラクの空爆で家族を失い、孤児となった後、今の義母に引き取られてからこれまで歩んできた自伝。戦災孤児ではあるが、戦争の悲惨さということをクローズアップしたわけではなく、幼い頃に来日してからの軌跡についてがメイン。

・本人よりも、戦争孤児だった本人を引き取って育てた義母さんがすごい。何がすごいって、裕福な家庭のお嬢様だったのが、孤児を引き取ったっというのが世間体が悪いというので勘当同然の扱いをされ、日本にいたフィアンセを頼って来日したら「他に好きな娘ができたから出て行って」と言われホームレス化。しかも日本語は不自由なまま。だからと言ってお涙頂戴的なストーリーになってないのは、本人があとがきで書いた通り「同情してほしいわけではなく、ただ、起こったことを知ってほしいだけ」というポリシーによるものか。

・本書に興味を持ったきっかけは、前の職場で流れていたFMで、サヘル・ローズがやってる「japanふるさとネットワーク」という番組を聞き、珍しい名前だが、どんな人なんだろうと興味を持ったのがきっかけ。もう随分と前の話だが。

2013年12月23日月曜日

自衛隊の仕事術 久保光俊 (著), 松尾 喬 (著)

・先日、仕事の関係で自衛隊の駐屯地に行く機会があった。そこでは三等陸佐の方に作戦=情報フローの構築について色々と教えてもらったのだが、その素晴らしい仕事ぶりと謙虚な姿勢、そしてオープンな姿勢に深く感銘を受けた。そんなわけで、自衛隊における作戦の立て方についてのノウハウをGTDに応用できないかと思って本書を読んでみたが、残念ながら、その辺りのことが体系的に書かれた本ではなかった。

・著者は北海道で偵察隊の教官を務めた人で、冬山での厳しい訓練を指導してきて、教え子は1000人を数える「伝説の教官」とのこと。1トピック2ページで自衛隊での考え方なり行動規範について簡潔に書かれているという構成で、読みやすく、分かりやすい。イギリスの特殊部隊であるSASの教官の本を読んだ時に、当たり前過ぎるような些細な基本から積み上げていくという考え方が印象的だったのだが、本書でもそれに通じるものを感じた。

2013年12月22日日曜日

成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書) 天野 祐吉 (著)

・広告にずっと関わってきた著者が、広告を切り口として社会の動きを分析、解釈して見せながら、これまでの経済成長を至上命題とする社会から、豊かさこそをよしとする成熟した社会へ、と提言する。ただし、それは分かりやすく言えば、「金持ち暇なし」と「貧乏暇あり」のどちらがいいかという選択でもあると著者は突きつける。

・世界的なムーブメントを作った海外の広告も紹介しつつ、国内では開高健、糸井重里などの著名コピーライターが出てくる。糸井さんは今や「ほぼ日」で大ブレイク中で、彼の言動やブログを読むと、深いことを易しく語っているという印象がある。その「深い」の根底には、本書で示されている、社会に対する観察の作法のようなものがあるように感じる。糸井さんは吉本隆明と懇意で、彼に関する本やCDなんかも出版しているが、本書の中でも吉本隆明の言葉が出てくる。

・正直なところ、かつてはコピーライターなんて、クライアントを喜ばせるへ理屈だけを考えている詐欺師みたいな職業だと思ってた(これはもちろん偏見であり、やっかみだった)。実際のところ、彼らが紡ぎ出すシンプルな言葉の後ろには膨大な思考があり、糸井さんクラスになると、その思考は、社会の動きと日本語の両方を深く掘り下げたものになっている。そうでなければ人びとの心に働きかけることはない。広告に対して、絵画や映画に対するのと似たような鑑賞の視点というものがあるとは初めて知った。面白いなと感じる広告、つまらんと感じる広告はあるけど、その後ろに、社会やスポンサーや視聴者に対する批判的視点が存在しているなんて、考えたこともなかったし、もちろん、感じたこともなかった。

・ところで、全体的に面白く学びながら読ませてもらった本書ではあるが、最後はどうしてもいただけない。「政治家の人たちも、憲法をいじったり原発の再稼働をはかったりするヒマがあったら、経済大国や軍事大国は米さんや中さんにまかせて、新しい日本の国づくりに取り組んでほしいものです。 (P211)」 こういう「上から目線」的ニュアンスが強い、左翼的な物言いはもういい加減、辞めたらどうだろう。言わんとしている内容に対して反感を持つものではないが、こういうことをこういう表現で行うことによって、一体、誰にどうしてほしいんだろうと思う。これを読んだ「政治家の人たち」がハッと気づくことを期待して書いたんだろうか?ここで、ステレオタイプな表現が出てくると、急激に白ける。

スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー) 三上 修 (著)

・カラスほどではないが、スズメも結構好きだ。一時期、札幌の街中からスズメの声がほとんど消えた時期があり、どうやら伝染病だったらしいのだが、大変寂しかった記憶がある。

・そんなわけで期待して読んでみた本書だが、ハズレ。岩波科学ライブラリーでもこんなレベルの本があるんだと学習した。確かにスズメやカラスってのは、なかなか難しい研究対象だと思うが、この本では、知りたいことのほとんどが「だと思う」「分からないが」「多分」ばかり。サイエンス本と言うよりはスズメを題材にしたエッセイといった印象。

・また、本書の最後に、6枚の写真を掲載して、そこにスズメの巣があるのかを当てるクイズがあるのだが、正解の写真が見づらさ全開。スズメがどんな場所に巣を作ることがあるか、多分、自分は一般の人よりはよく観察してる方だと思うが、それでも分かりづらかった。編集者もイマイチ?帯は「愛すべき隣人のすべて」。岩波で、しかも科学ライブラリーでも、こんなあざといコピーを付けることがあるんだな。

・ただし、スズメに関する雑学というレベルであれば悪くない。スズメの出自はアフリカであるとか、日本では古事記にスズメに関する記述があるなんて、面白い。つまり、「岩波科学ライブラリー」から出版されているというのが、自分にとっては引っかかってるポイントなのかも知れない。

2013年12月15日日曜日

世界と闘う「読書術」 思想を鍛える一〇〇〇冊 (集英社新書) 佐高 信 (著), 佐藤 優 (著)

・ここのところ傾倒している佐藤優の対談本。相手は佐高信。

・幾つかの分野に分けて二人が放談しているという構成。各分野毎に必読本リストを挙げているので、参考に転記しておいてもよいかも、という感じ。

・佐藤さんの博覧強記ぶりが印象的ではあるが、それだけ。読みやすいし、読んでて面白い箇所もあるが、「読書術」についての本では絶対にないので騙されないように。帯だけならともかく、タイトルでここまで煽るってのは少しあざとくないか?

・佐藤さんの読書本ということであれば「読書の技法」がベストだと思う。

インターネット術語集〈2〉―サイバーリテラシーを身につけるために (岩波新書) 矢野 直明 (著)

・2002年の出版でありながら、意外と自分が知らないことも散見された。不勉強のいたり。「こんな本に書かれてる内容ぐらい、自分は全て知ってる」などと奢った先入観を持たずに、こういう本もきちんと読むようにしなきゃと思った。

この本の出版された時からレッシングの「CODE」は有名だったんだな。また、マーク・ポスターの「現実世界のエンティティであるはずのデータベースの文法が現実世界を規定する」との知見にはとても興味をひかれた。「グーグル・アマゾン化する社会」で述べられている危惧も、同じことを表現を変えて述べているということなのではないかと感じた。読んでみる必要がありそうだ。

・なお、「グーグル・アマゾン化する社会」は松岡正剛さんの「千夜千冊」でも取り上げられている。一読の価値アリ。