2014年1月25日土曜日

考具 ―考えるための道具、持っていますか? 加藤 昌治 (著)

【要約】
・脳を動かすための助走として、まずは手を動かす。そのためのツールが、考えるための道具ということで「考具」。

【ノート】
・「考具」というタイトルから期待したのは、文房具屋ガジェットを中心としたツールの紹介と使いこなし術。その意味では少し肩透かしをくらった感じ。企画業向けに、アイデアや企画ということの中心概念を明らかにしながら、それに寄り添う考え方やちょっとしたツール、及びその使い方についての工夫が書かれているという構成だった。

・もし、GTDの関連本やサイトに触れたことがなく、マインドマップやマンダラートも知らないという人であれば、本書を読んで得るところがあるだろう。しかし、既知であれば、本書を読む意義はあまりないと思う。その意味で、自分的にはあまり得るところがなかったが、それでも初見だったのは「カラーバス」という考え方。街を歩くときに色を決めておき、その色のものを見つけていくという、ちょっとしたゲーム感覚の観察法。実際はそれぞれの職業に応じた視点で、風景や町並みを観察するというのはやっているものだが、その基準を「色」だとか「形」というようなものにしてみる、というのはやらないものだ。今度、実際にやってみよう。

・筆者は博報堂勤務とのことだが、広告代理店の人間は、こういう文章がフォーマットなのだろうか?糸井重里臭が至るところから漂ってくる。これは先日読了した天野祐吉の本でも少し感じたので、業界特有の匂いなのかも知れない。それは、よく言えば、日本語のことを考え抜くポジションの職業の人たちが、分かりやすい文章を考えた時、必然的にたどり着く文体であるということなのかも知れない。


※ド直球のマインドマップ入門本よりも、「読書術」の方が使い方のイメージが分かりやすい。

2014年1月14日火曜日

子猫と権力と×××~あなたの弱点を発表します 五百田 達成 (著), 堀田 秀吾 (著)

・ハズレだった。「(自分が)弱いとは、なんだかよく分からないけど、心が動かされてしまうこと」。この一文が「はじめに」に書かれており、それを掘り下げていくのかという期待で読み進めてみた。ハンディでキャッチーな事例ごとに数ページ。各事例毎に処方箋的なことが書かれているが、それがあまりにも表面的でガッカリ。

・自分的には「他人の収入が気になる人」という事例に期待したのだが、その回答が「人は人、自分は自分(P44)」って、ちょっと安易じゃないか。結局、「はじめに」に書かれている一文が本書のコアであり、それをきっかけに自分で考えて掘り下げていく方がよほど有用だろう。ただし、そういう解きほぐしには、いわゆるライフハック系の考え方に多少なりとも馴染んでおいた方がいい。

2014年1月12日日曜日

新書百冊 (新潮新書) 坪内 祐三 (著)

・引き続き読書ガイドだが、実はこういう「必読書◯◯選」みたいなものが昔から好きだ。中学の頃、OUTというサブカル雑誌に高千穂遙というSF作家が書いていたSFガイドが自分にとってのSF読みの始まりだった。そこで取り上げられていた本を読み進め、また、「初心者を卒業したらハヤカワ海外SFノベルズ」という一文が、高価なハードカーバー本に対する強烈な憧れをインプリントしたものだった。これは今でも拭い去ることができなくて、ハヤカワSFは文庫よりハードカバーこそが「通の証」という思い込みから逃れることができない。

・「新書365冊」に比べると本書は出版時期が2003年ということで3年早い。本書も「365」と同様、新書レーベルの創刊時の1冊。著者が自覚している通り「新書本のガイドブックのような体裁をとりながら、品切れ本や絶版本ばかりを紹介(P220)」しているので、実用性という点では「365」の方に軍配が上がる。しかし、本書では、思春期を中心とした著者の読書遍歴が、当時の状況や心境、興味の広がり方と共に語られており、しかもそれがとても正直で素直なので、好感と共感を持って読み進めていける。読書ガイドでありながら、読書をテーマにしたエッセイでもあり「365」とは少し趣旨が違う読書本だと言える、ちなみに「365」には本書が取り上げられており、「こんな本を書きたいと思っていた」と述べられている。なお、本書では人文、それも文学系統に対する比重が高く、それが今の自分の興味とは少し合わなかったのが少し残念。しかし、いつか重宝する時がくるだろう。

・清水幾多郎の「本はどう読むか」からの引用が特に印象深い。いわく、気になった本は、その時に読まなくても積ん読用に買っておくこと。また、読み方にはスピードが大事で、蕎麦と同じで一気に読んだほうがよい。「のどごしが大事」ということか。

新書365冊 (朝日新書) 宮崎 哲弥 (著)

・佐藤優の「読書の技法」を、読書法のみならず参考図書リストとしても重宝しているけど、いかんせん数が少ない。そんなわけで、本書を読んでみた。

・一言短評プラスアルファという程度の分量で、読むべき新書本がジャンル毎に紹介されている。365冊もあり、ジャンルも多岐にわたっているのから、自分が興味を持ち、読みたいと思う本が見つかる可能性は高いと思う。短評についても、概ね「いい感じ」で紹介されているという印象を持った。「いい感じ」とは、イデオロギーや自己顕示欲にまみれたフィルターがかかっていないということだ。ただし「概ね」だけど。巻末ではワースト本も紹介されており、かなりスバリと切り込んでいる。自分的にはそれなりに参考になった「人はなぜ逃げおくれるのか」が「無益有害」としてワースト本にリストアップされていた。

・本書で取り上げられている本は、ハッキリ言って読んでないものだらけ。自分の「読みたい本」リストには800冊以上の本が登録されているのだけど、それでも、本書の中で取り上げられている本とほとんど重複していない。

・この本の帯は「朝日新書創刊!」」となっており、時代を感じさせる(2006年)。この頃から新書ブームだったらしいのだが、どうやら冷めることもなく今も続いているような感じだ。ちなみに、成毛眞の「本は10冊同時に読め!」が2008年、小飼弾の「新書がベスト」が2010年。なお、この本の最後は、著者による以下のような言葉でくくられている。「新書というのは、世界にも稀な大衆啓蒙メディアで、こんなに気軽に、広範な知識に触れられる日本人は幸せだと思います(P360)」

2014年1月11日土曜日

野生のオーケストラが聴こえる―― サウンドスケープ生態学と音楽の起源 バーニー・クラウス (著), 伊達 淳 (翻訳)

【要約】
・生物や非生物が織りなす音像は、音楽的であり、その場所の生態系についての多くを示す。ここで「音楽的」というのは、そもそも人類が音楽を獲得したのは自然のサウンドスケープからという意味と、サウンドスケープの構成がオーケストラと似通っているからという意味の、2つの側面からである。

【ノート】
・世界はこんなに面白い音で満ちている、という博物的な内容を期待して読み始めたのだが、そうではなかった。確かに面白い音源の紹介はされているのだが(Webとの連動もあって興味深く聞ける)、本書の主眼は、生物による音場(バイオフォニー)と非生物による音場(ジオフォニー)によって構成されるサウンドスケープが音楽的であるということ。

・そのサウンドスケープが音楽的にどう評価できるかという分析が主眼というわけでもない。人類がバイオフォニーやジオフォニーから音楽を獲得したという仮説が人類学的な事例と共に紹介されている。この仮説は完全な証明には至っていないまでも、発想の逆転であり、新鮮に感じる。

・音像を周波数域で分析し、その豊かさによって、その土地の多様性を把握することができるというのも環境保全の観点から興味深いアプローチだった。まさに土地の声紋となるわけだ。人間が介入して環境汚染や生態系の破壊が行われた後に、音像の豊かさが明らかに減少していることを示す具体的なデータも提示されており、音像によって、写真以上にごまかしのきかないスナップショットを記録できるというのは、一度試してみたい手法だ。さらに、チェルノブイリでは、事故直後と現在とでは明らかにバイオフォニーの豊かさが復元しているという事例紹介もあった。これって「地球にとって人類こそが癌」ということでしょうか、東方不敗先生!?しかし「人類もまた地球の一部」だよね、ドモン・カッシュ!

・生き物たちが自分たちの周波数域にはまり込んでいくという「ニッチ理論」というのがある。それぞれの生き物は、それぞれの理由で、音によってそれぞれの周波数域を探って入り込んでいき、占有している。そして、それは人間の介入による音(アンソロフォニー)によって均衡を崩してしまう。思った以上に繊細であり、その繊細さというのが、単なるロマンチシズムではなく、生物種間の捕食行為に関連するからという説明も腑に落ちる。ただ、バイオフォニーとジオフォニーに対するアンソロフォニーの位置付けが排斥的な印象を受けた。両者が融合するとさらに面白いのではないかと思うのだが。

フェラーリを1000台売った男 榎本 修 (著)

・タイトル通りの本で、著者はフェラーリ購入者層の間ではちょっとした名物になってるフェラーリ専門店の店長さん。日本全体で流通しているフェラーリの台数が8000台ほどらしく、そのうちの1000台を扱ってるってのはすごいことらしく、「ひとりの営業マンが売ったフェラーリの台数として、世界ベスト3に入るだろう」とのこと。とは言っても、16年間で、のべ1000台ということであって、売った物が戻ってきて、それをまた販売してということもあるのだろうが、それでもすごいことらしい。

・知り合いの大学の先生(フェラーリ乗り)から借りて、サラリと1時間ほどで流し読み。各章毎に、著者の自伝とモデル別のフェラーリの購入ガイドという2部構成になっている。後者については全て読み飛ばしたので、実質の読了ページ数は半分ぐらいか。自伝は、著者のこれまでのお仕事経歴と、交流してきたフェラーリオーナーの横顔幾つか。生き様がカッコいいかつての上司の部長さんの話が印象的だった。最後のタクシー代1万円の話はジーンときた。それにしても、レゾンデートルなんてフレーズが出てきて、結構インテリ?(単にナイトメアのファンなのかも知れないけど)

2014年1月6日月曜日

次世代インターネットの経済学 (岩波新書) 依田 高典 (著)

・アテネ書房最終日の100円セールで購入。

・NTT東西の分割時や、その後のADSL、FTTHについての、競争を維持させるための議論や論拠について、経済学的な解説を織り込みながら解説している。NTTに対して厳しい意見が散見されるが、単なる批判ではなく、世界でも有数のブロードバンド先進国である日本として、今後、競争を続けながら力をつけていくために、という観点からの批判や提言だと著者自身が明言している。

・やはり経済に関する基礎知識がないと、本書で展開されている議論や提言の意味もイマイチピンとこないのだが、それでも、数字や式を我慢しながら追ってみることで、議論の具体的なステージがおぼろげながら見えてきたと思う。2011年の出版なので、本書で示されていた各指標の数値が今はどうなっているのかも調べてみたい。

・ただ、あまり本筋には関係ない「自分が、自分が」という記述が垣間見られたのが少し興ざめ。

リーダーの掟 ― プーチン絶賛の仕事術 飯島 勲(いいじま いさお) (著)

 飯島勲と言えば前年に北朝鮮を電撃訪問したりして、権力者の懐刀という印象がある人。
 「プーチン絶賛」に惹かれて読んでみたけど、ハッキリ言ってこれは煽りだった。
 仕事術という点でも、自分的には発見はなかったけど、調子が悪い時のツボについての講釈が、妙に説得力があったので、それだけを紹介したい。

 身体のツボは三つだけ覚えよ
 なるべく医者にかからなくてすむ方法はあるだろうか。
 例えば、腰痛に悩む人は、以下の方法を実践してみてはどうだろう。
 まず、サランラップを奥歯に挟み、風呂場で膝の裏に一分ほどお湯をかけるのだ。サランラップがなければ、割り箸を奥歯で咥えるのもいい。サランラップも割り箸もなければ、膝の裏にお湯をかけるだけでもいい。
 信じられないかもしれないが、私はこれで腰痛を治してきた、原理を説明すれば、腰痛に効くツボが膝の裏にある。ここにお湯をかけて血液の循環をよくする。「奥歯にものを挟む」理由は、腰痛の一因が、下の七番の奥(前歯から数えて七番目の歯)が低いために起きている場合が多いためだ。歯と膝裏と腰は、実は密接な関係があり、その部位に対処することで腰痛が改善されていく。七番の歯は、位置が高すぎても肩こりの要因となったり、横の歯とぶつかると耳鳴りや難聴が起きたり、手の小指に力が入らなくなる。
 口腔内についての健康法をいくつか紹介すると、前から数えて三番目にある「犬歯」が炎症を起こしやすい人は心筋梗塞になりやすくなる。これは歯周病菌が動脈硬化をもたらすために起こる現象だ。早めに治療をしてもらうのがいいが、日ごろから肩甲骨のあたりにお湯を一分ほどかけることで症状を緩和できるだろう。入れ歯をしている人は、脳梗塞を起こす危険性が高まる。夜中は入れ歯をしないために、噛み合わせが悪くなる。マウスピースを着用したほうがよいだろう。
 病気というものは、軽いものであればちょっとした工夫で治ってしまうこともある。私自身、全身のツボをうまく刺激することで体調管理をしてきた。無数にツボがあって大変だと考えてしまうが、基本的な原則を知れば、簡単に誰もが実践できる。
 指の押し方だが、まずゆっくり押す。ジーンと響きを感じたら10秒維持する。そして、ゆっくり離していく。これを時間の限り繰り返すとよい。
 ツボのある場所は、骨や関節のくぼみ、腱と腱の間、筋肉と筋肉の間にある。中でも重要なツボは三カ所だ。まずはここだけ覚えればいい。
 「百会」・・・頭の頂点にある。全体の体調の調整、うつ病などに効くが、とりわけ頭痛のときはここを押す。
 「肩井」・・・首の根本と肩先の真ん中にある。肩こり・頭痛によく効く。肩こりには、つま先立ちをしながら肩を上げたままの状態を五秒ほど維持し、その後一気に力を抜く。これは非常によく効く。
 「足三里」・・・膝を曲げたときに、しわができる。そこから数センチ下がったところにある。ここを押すことで全身の疲れ、脳梗塞予防、胃腸疲労の回復にもなり、免疫力も上昇する。
 さらにいくつか覚えておくと役に立つ技を挙げておく。
 首が回らなくなったときは、耳たぶを下に引くのがいい。さらに、耳たぶをマッサージすると不思議と首が回るようになる。寝違えも、耳の後ろあたりをマッサージするのがいい。そもそも寝違えは、食べすぎの後に起こりやすいので注意が必要だ。
 結局のところ、病気の予防には、正しい姿勢を保つことが一番いい。腕を四十五度に振り、背筋を伸ばして歩く。これが一番血行をよくし、病気を予防する。 (P81)

2014年1月4日土曜日

はじめてのマルクス 鎌倉 孝夫 (著), 佐藤 優 (著)

・「資本論」を実は読んだことがない。そんな自分にとって、資本論が今、どのようなポジションにあるのかを対談形式で分かりやすく示してくれる良書だった。「資本論」への興味も喚起された。

・かつてソ連が西側陣営の対立軸として存在していた時は、資本側も、革命だけはイヤなので「譲歩」して自重していたが、今はそのタガが外れている状態。最近だと、イスラムの世界が対立軸としての存在感を増してきているということになるのだろう。

・「協同組合的なところの農場でつくっているものがあるとしたら、少し高いけど、それを買うとか。経済合理性に反する行為をあえてすること(P113)」が変革につながるという辺りは分かりやすかった。例えば安くておいしいコメが入ってきても、高くても国産のコメを買うというようなことで、今の資本主義社会の因果関係によって記述される歯車のような存在で在りたくなければ、その因果律に従わないということも必要だろう。ちなみに、これは岩波ジュニア新書の「動物を守りたい君へ」でも提唱されていた。それは資本主義がどうこうという話ではなくて環境保護という視点からではあったが、それでも根っこにあるものは共通している。

・188ページで読了に2時間。巻末の参考文献リストはあんまり充実したものでない。ただ、岩波の軽座学小辞典や哲学小辞典の存在を思い出させてくれたことが収穫。ちなみにブックオフで調べたら、ビックリするほど安かった。哲学小辞典 経済学小辞典