2013年3月16日土曜日

詩歌と戦争―白秋と民衆、総力戦への「道」 中野 敏男 (著)

・戦争への道は単に軍部の暴走によって導かれたのみではない。国民側に、それを受け入れ、推進していく精神的環境が十分にあったということを、北原白秋と彼の作る歌、そして、それを受け入れていった国民の精神的な姿勢の変遷と共に論証している。いわゆる「空気」の醸成は決して体制側からの押し付けだけで成されるものではない。そのことを検証した、出版元に言わせれば「瞠目の書」。いや、ハッキリ言って賛同します。

・司馬遼太郎は太平洋戦争への道をほとんど軍部、特に陸軍の暴走にその責を帰している。加えて、そのような陸軍を、日本近現代史の中で理解しがたい特異点と位置付けている。読んだ時に、他に反証材料もないから鵜呑みにしていたが、微かな違和感を感じてもいた。本書を読んでその違和感が解きほぐされた感じがした。

・関東大震災後に盛り上がった「互助」「絆」。3.11後の日本と重なる。体制からおしつけられたわけではなく、民衆から自発的に始まり、拡散していった全体主義的な「空気」。これもまた、今の日本とダブルところがある。

・そのような事態の後に「絆」の大切さに皆が意識を向けるのは当然のことだ。だからこそ、本書で展開されている検証に重みがある。今の僕らの状態、時代の空気は、もしかしたら大戦前夜に近いのかも知れないのだから。AKB48の各地版なんかが、構造的には近いのかも知れない。こいつらが各地の賛歌を同期して歌い出したりしたらちょっと危険信号。いや、正確に言えば、それだけでは危険信号ではないのだが、そこに我々が同感しまくって排他的に盛り上がったりしたら危険信号だ。

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