2013年11月24日日曜日

モチベーション3.0 ダニエル・ピンク (著), 大前 研一 (翻訳)

・人間を動かすOSであるモチベーションは、生存のための1.0から経済活動のための2.0、そして、これからは自己実現のための3.0へ。

・活動時のモチベーションとして使われてきた、いわゆる「アメとムチ」の報酬型行動原理に内包されていた「バグ」が、今の時代では頻出するようになっており、この時代には、もっと自分の「内発的」な欲求こそが、自らをより良く、しかも効率よくドライブさせるというのが本書の主眼。なお、「好きでやってるか報酬は要らない」というほど非現実的な理想主義ではないところが、3.0が2.0の次に位置されている所以。

・だが、不本意な状況や明らかなオーバーキャパの時に自分の心に生じる、心底「イヤだ」という気持ちと向かい合って突き詰めていけば、実は本書で書かれているような視野は誰でも獲得できるのではないかというのが正直な感想。また、「持続する『やる気!』をいかに引き出すか」というサブタイトルであるにも関わらず、その辺りのメカニズムなり方法論への言及があまりしっかりしておらず、自分的にはあまり得るものがなかった。ただし、これは原書にはない文言なので、出版社の煽りだと考えないと、著者のD.ピンクにはアンフェア。

・ブライアン・イーノの「OBLIQUE STRATEGIES」なんかが紹介されてるあたり、微妙なギーク感がウケてる理由なのか。妙に大前研一推しのD.ピンクだが、読んでるタイミングが遅いからなのか、相変わらずピンと来ない。

ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス) 鈴木 謙介 (著)

【要約】
・Webテクノロジー、それも「ソーシャルメディア」の浸透により、現実世界の意味が上書きされ、「多孔化」した社会となっている。これにより、従来型コミュニティの存在基盤や関係論が通用しなくなってきている。

【ノート】
・佐々木俊尚の「レイヤー化する世界」を読んだ直後に本書の存在を知り、何となくそのつながりや違いを明確にしてみたいと思ったのが本書を読む動機。

・「レイヤー化する世界」はウェブによって、個人のスキルやタレントのレイヤー化が可能になり、各員が緩やかで不安定なつながりを世界的に広げて活動してゆくという社会像を描いており、それはどちらかと言えば楽観的な肯定であるように感じられた。

・それに対して本書は、ウェブによってもたらされる現実空間の多孔化を、危機感を持って捉えているのが出発点。例えばデート中に相手が目の前にいるにも関わらずソーシャルネットワークにアクセスするという振る舞いを、単なるマナーの問題ではなく、現実空間の意味合いがウェブによって上書きされているとし、現実の物理的空間が人間関係に対して持っていた制約が喪失していると分析する。つまり、かつては同じ空間にいるということが密接な人間関係と同義であったのに、それが単なる「近接」をしか保証しなくなったということである。

・このことは従来型のコミュニティの成立条件を揺るがすことになる。同じ物理的空間にいても、その空間が持つ(あるいはその空間にいることの)意味が、人によって変わってしまうわけで、そのことを著者は「多孔化」と表現している。佐々木が「レイヤー化する世界」を「不安定」と表現しているのも、この、従来型パラダイムの動揺と通底しているように感じた。

・本書は、そのような状況について単に警鐘を鳴らすだけではなく、あくまでも社会学からのアプローチらしく、新たなコミュニティの創出を提言している。そこでは、現実の多孔化を積極的に認め、取り入れた上で、「儀式」による新たなコミュニティの創出を提言している。この提言については、自分は今ひとつピンとは来なかったのだが、多孔化という視点は面白く感じた。

動物を守りたい君へ (岩波ジュニア新書) 高槻 成紀 (著)

・職場がら、こういう基本的なテーマについて勉強しておきたいということで読んでみた。

・本書の基本的なプロットは「動物を守りたい」という気持ちから獣医を目指す高校生ぐらいの年齢層に向けて語りかけるというもの。単に目の前の個体を救うという視点から、自然における種の位置づけという視点の大事さを説いている。例えば、ある種を救うために、生息に適した地に移送して繁殖させたところ、その場所の生態系が変わってしまい、別の種に危険が及ぶということもあるわけで、この辺りの塩梅ってのは、シムアース並みだ(←もっと難しいだろ。しかも題材が古いし)。

・今の職場で皆から教わっている内容のトレースではあるが、それを再確認できたという感じ。

2013年11月16日土曜日

ビジネスでいちばん大事な「心理学の教養」 - 脱「サラリーマン的思考」のキーワード (中公新書ラクレ) 酒井 穣 (著)

・マズローやミハイの「フロー」、「影響力の武器」なども参考図書に挙げられており、確かに「心理学の教養」というタイトルに偽りはない。キーワードを挙げて、その概要や現実社会への応用方法をコンパクトにまとめている構成も読みやすい。ただし、現実社会への応用方法が、紙数の制限もあるのだろうが、あまりにも表面的なのがちょっと惜しい。あくまでも「教養」ということなので、この分野の著名な作品に馴染んでいる人なら、重複が多い印象を受けるだろう。

・流し読みしていたが、いくつか知らない情報や新しい発見があった。「ツァイガルニク効果」、次に組織内で好ましくない行動を取っている者への視点、そして状況の抽象化スキルについて。

・「ツァイガルニク効果」はプレゼンの時などに自分が最近感じ始めていたことと同期した。組み立てられすぎたプレゼンでは、拍手はもらえても、聴衆との一体感はあまり形成されない。適度な隙があった方がいい。そのことに対する自分の考えを補強してくれる考え方だった。

・組織内で好ましくない行動を取っている者は、その組織における欠点などを明確にしているのかも知れないというのは新鮮な視点だった。

・「抽象化スキル」で語られていることは「人間の叡智」で佐藤優さんが語っていたエリートの条件と共通する。「自分のいる場所を客観的に認識してそれをきちんと言語で説明できるのがエリートの条件です。 『人間の叡智』(P157)」

・最後に書かれている著者の危機意識がダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」と通底するものだったり、これからの世界の動きについての構想が佐々木俊尚の「レイヤー化する世界」と似通っているのが意外でもあり興味深かった。

アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地 (講談社現代新書) 大治 朋子 (著)

【要約】
・アメリカでもWebによる影響でメディア再編が進んでいる。地方や中小のメディアカンパニー(主に新聞社)が淘汰されてゆく大きな流れの中で、それでも「ジャーナリズム」の使命を志向する記者たちが、Webを活用したり、記事の相互運用などの連携を取ったり、ローカル密着志向路線を色濃く打ち出したりして、新しい存在意義を創りだしている。

【ノート】
・全般的には、アメリカで頑張っているジャーナリズムに対する賛歌的なトーンが強い。NPOも頑張っており、その活動を支えるアメリカの寄付文化がもっと日本にも根付けばいいのにという見解も示されており、個人的には強く同感(笑)。

・だが、「(株)貧困大国アメリカ」を読んだ後では、本書で描かれているようなジャーナリズムがどこまで有効なのかという気持ちになってしまう。草の根的な地元新聞社や報道系NPOが頑張ったとしても、地元から消えていく農業や、工業化していく酪農業、金融商品化する刑務所産業(!)への警鐘を鳴らすということは可能なのだろうか。

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書) 堤 未果 (著)

・食品、GM種子、製薬会社、農家の隷属とそのグローバリゼーション。「ロボコップ」で描かれていた世界を地でゆくデトロイト、公共サービスの消失、刑務所の労働力化、企業に都合の良い法案を作成するALECというクラブ。

・アメリカはとんでもないことになってる。だが、本書は、「アメリカではこんな恐いことになってて、このままだと日本もこうなる」ということを単に煽っているわけではない。エピローグでは、市民が、巨大企業に対して、どのように、敵対することなく対抗しているかというエピソードが紹介されている。それを読んでいると、「本気で渡り合う」気持ちを持てるかどうかの問題なのだと感じた。相手は(あえて、敵とは言わない)プロで、資本主義の原則に立って、利益を最大化するべく本気で取り組んでいる。手段を選ばないが、合法の範囲(法律すら操作して作っちゃうわけだが)。ならば、こちらが、本気で対抗手段を考えて実行できるか。例えば預金額を全て地方の信金に、とか。

・この辺りの話は著者自身が「ラジオ版学問ノススメ」というPodcastでも言及していた。相手は、単なる悪者というわけではない。「情熱と信念を持って」利益を最大化するためにやっているというだけの話で、それに対抗するには、我々も、相手の考え方のパターンや弱点についての研究をして、相手と同等以上のエネルギーを注がなくてはならないということで、果たしてそれは現実問題として可能なのだろうか?その鍵となるのが情報共有・伝達手段としてのネットだったり、体系的なな研究や、アクションプランを企画・立案・実行するNPOのような組織だったりするのかも知れない。