ウナギも自分にとっては言わば「こっち側」。関西風だと生臭くてダメだが、関東風ならOKで、しかも、すこぶる好物の部類に入る。ウナギは家内の大好物でもあるのだが、今や絶滅危惧種に指定されており、どんどん減少していく流通量とどんどん高騰していく価格に心を痛めていたところで本書の存在を知った。
ウナギは、その生態が謎に包まれているとのことで、養殖も難しいらしい。稚魚に何を食わせると健やかに成長するのかというのも解明されてはいない。本書で報告されている例では、サメの卵を粉末にしたものがOKらしいが、それもある時期までの話で、その段階を過ぎて成長すると食べなくなってしまうらしく、難しいようだ。
本書は学際的なシンポジウムでの発表や討議内容をまとめたもの。この手の報告というのは大抵面白くなくて、環境省や水産庁など、官公庁も参加したものとなると、さらに面白くないことが多い。しかし、本書は面白かった。これは「うな丼」が皆の念頭にあるからじゃないだろうか、タイトルも「うなぎの未来」ではなくて「うな丼の未来」というところがキモだ。「うな丼が食べられなくなるかも」という危機感はリアルで切実なのであって、それがこのシンポジウムを面白くしたものと思われる。水産系の学者、環境系の学者にはじまり、蒲焼協会やら鰻協会の人、マスコミ関係者まで巻き込んでの討議は、ウナギをとり巻く多様な立場の人たちの意見を一望できて興味深い。
自分が最も共感したのは「安いウナギではなく、ちゃんとお金を払って、職人が調理するうなぎを、ご馳走として食べてください」という全国鰻蒲焼商組合連合会(全蒲連)の発言だ。
今や、吉野家が¥1,000以下でうな丼を扱ったりしているが、これは悪しき資本主義の行進なのであって、日本のうな丼文化を蹂躙することに直結するだろう。再びの引用だが、「はじめてのマルクス」で佐藤優が「経済合理性に反する行為をあえてする(P113)」と言っているのを、自分の具体的な行動の指針としてよいのではないか。タレでそれっぽさを演出しただけの、東南アジアの工場からの加工食品を乗せただけのうな丼を安価でいつでも食べられることと、お店で職人が作ってくれる本物のちゃんとしたうな丼を1年に2〜3回、奮発して食べられることと、どちらが幸せだろうか。