2013年7月15日月曜日

記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー) 井ノ口 馨 (著)

・記憶には短期用と長期用(2年辺りが境目)があり、バッファとして短期用が海馬に、それが大脳皮質にあるストレージに移されて長期用になる、というのが基本構造らしい。ただし、小さい頃に大脳皮質に問題がある人の場合、脳の他の部分をその用途に使う例があるらしく、脳の不可思議な柔軟さはすごい。また、海馬の中にも短期用記憶と長期用記憶の領域分けがあるらしい。

・これら「記憶」というのはニューロンとシナプスの複雑なマトリクスコードによって構成されているわけだが、このマトリクスコードを削除することによって記憶が消滅し、このコードを脳に埋め込んだ光ファイバーを使うことで再現することによって記憶が再生されるというところまで、マウスによる実験で可能になっている。ちょっと怖い想像をすれば、ゲノム解析プロジェクトの次は、このマトリクスコードの文法(?)解析プロジェクトかも知れない。

・また、記憶を思い出している時に、その記憶の再固定化が行われており、この時にはPRPというタンパク質によって記憶の増強が行われるらしいのだが、この時に操作を行うことにより、思い出している=再生されている記憶の上書きも可能らしい(もちろんマウスで)。これはトラウマの治療にも有効たり得るのではないかと期待されているらしいが、SFだと、これにより記憶を改変された兵士なんかが出てくるのではないかと考えてしまう。なお、これは、上で述べた「海馬での短期・長期」記憶の場合。ということは、SF等で記憶を改ざんされたキャラクターが、ちょっとしたきっかけで遠い昔の記憶を呼び覚まし...というのは、海馬ではなく大脳皮質側の記憶ということなんだな。そして、そこから連想的に次々と、というのも、本書を読む限りではあり得る話に思えてくる。視点を変えれば怖い話だが。

・なお、記憶力を高めるには「DHA、EPAの摂取」、「運動」、「豊富環境」。豊富環境というのは知的好奇心が豊富に刺激される環境で、これは自分の心構えなんかにも左右されそう。以前読んだ本で時間的制約をあえて自らに課してタスクを実行するというのがあったが、この知見にもとづくものだったのか。記憶は短期と長期があるわけだが、これら3つには、短期から長期への移し替えを活発化させる役割がある。短期用バッファである海馬はなるべく空けておいた方がいいというのはコンピューターと似ているわけだ。

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