「世界戦争」というタイトルは、あながち大げさというわけでもない。本書を読み進めていくと、そのことが分かる。
中国のサイバー部隊について、どんな部隊構成になっているかまで判明しているのに驚いた。ジャーナリストが知り得る情報のレベルでこれなのだから、実際はもっと深くまで把握しているのだろう。この分野における中国の実力アップには侮れないものがあり、それが、大学などの研究機関との連携によるところが大きいというのは日本にとっても示唆的(テルアビブ大学には「サイバー戦争プログラム部」というのがあるらしい)。ただ、現地時間の夕方5時以降は活動がかなり減少するということで、かなり公務員根性でやってるらしいとの一文は、微笑ましいというか何というか。なお、サイバー部隊については、イランやシリアも台頭してきているし、北朝鮮も侮れないらしい。また、エストニアがIT立国を目指して頑張ってるってのは本書で初めて知った。
ドローンによる攻撃が、NSAのプリズムで収集されているメタデータをもとに、音声などでターゲットを判別して自動的に行われるようになっているというのには戦慄した。その結果、子供も含めた巻き添えが数多く出ており、時の人であるマララさんも、事態がパキスタンで頻発しているため、オバマ大統領に直訴したらしい。
イランの核開発で、遠心機を制御するコンピューターにウィルスを仕込んだという話がかつて報道されたが、これは米国NSAとイスラエルの情報機関の協同作戦であり、スタンドアローンで稼働していたイランのPC(普通にWindows機を使ってたらしい)にメモリスティック等経由で仕込んだらしい。このウィルスは、原因が同じでないように巧妙な異常動作をするので、イランの研究者は自分達の手法に落ち度があるのではないかとかなり悩んだらしく、これが大きなタイムロスになった。
一方、キツい環境で鍛えられたイスラエルでは対サイバー戦能力が必然的に向上し、世界でもトップレベルになった。中国は、高いセキュリティ技術を持つイスラエルと手を結びたくて、一方のイスラエルは、国連安保理の常任理事国である中国の影響力が欲しい。安倍首相がイスラエルと安全保障分野で提携したのは、そんな背景もあったからというのが著者の見立て。
これからは、戦闘時にはサイバー攻撃が伴うのがデフォルトになる。戦闘開始時に官公庁のネットワークがダウンしたり、銀行のネットワークがおかしくなったりしたら、確かにパニックが増大して、相手の戦力を削ぐことになるだろう。
今年、言葉としての流通量が増えそうな「IoT(Internet of Things)」だが、こういう話を聞くと、あまり推進するのも諸刃の刃だなと思う。インターネットからの鎖国というのも、自衛手段として考えていくことが必要な時代になってきている。最期に一例のリンク。
ロシア、インターネットからの独立を検討
【目次】
第1章 せめぎあう仮想と現実
第2章 軍産学民が一体化した中国の脅威
第3章 スノーデン事件に揺れる米英シギント同盟
第4章 終わりなきドラグネット合戦への警鐘
第5章 リアルを侵蝕するサイバー戦の前途
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