2013年6月16日日曜日

西郷隆盛と明治維新 坂野 潤治 (著)

【要約】
・西郷隆盛と言えば征韓論。しかし、彼は決して征韓論を支持していたわけではなかった。征韓論を声高に主張したのは板垣退助で、西郷隆盛は海軍の朝鮮挑発を卑劣な振る舞いだとして非難していた。だからと言って西郷が非戦論者だったというわけではないが、やるんだったら相手は中国という意識を持っていた。朝鮮には特使を派遣して交渉しようと考えていたのを、岩倉具視に歪曲されて天皇に上奏され、征韓論者的な立場に仕立て上げられてしまった

 征韓論者ではなかった西郷が、なぜ最後に挙兵することになったのか、それこそが本書の重大トピックであると冒頭で著者によって宣言されている。しかし、彼の勝算への目配せまで検証しながら、肝心の動機の部分については、自身の力量不足として突き詰められないと告白して終わりになってしまっているのは、やはり消化不良感が残る。

【ノート】
・幕末から明治にかけての薩長土肥、そして朝廷と幕府の重要人物の動きを書簡などからの引用を数多く見ながら著者と一緒に紐解いていく西郷隆盛の動きは予想以上に面白かった。

・西郷隆盛はもちろん、勝海舟、木戸孝允、岩倉具視などの書簡などからの原文引用が多い。読み慣れないので最初は一字一句ちゃんと追っていかないと意味が分からないので億劫だったが、慣れていくと当時の雰囲気が分かって面白くなってきた。

・著者は、何度か本文中で明言している通り、西郷隆盛萌えである。だから、例えば嶋津久光や大久保利通、岩倉具視の描き方は、西郷擁護の観点から描かれているが、逆からの見方もあるはずだ。

・未読の松岡正剛「日本という方法」の出だしは西郷さんから始まる。「『なぜ西郷隆盛が征韓論を唱えたのかの説明がつかないかぎり、日本の近現代史は何も解けないですよ』といったことを口走りました。(P7)」とのことだが、この時と今の松岡正剛さんの考えは、本書の見立てと通じているのだろうか。

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