もう10年ばかり、アレッポの石鹸を愛用しているというだけの理由でシリア情勢に興味があり、それで本書を手にとったのだが、内容としては中近東各国における現地ルポ。
どれだけ非道な行為が行われているかということを伝えるのが主眼ではなく、イスラム圏内の宗派争いが、どのように影響し合って泥沼化しているかについて、歴史的な経緯の概説を交えながら現地取材の様子と共に教えてくれる本。
イスラム教におけるシーア派とかスンニ派って、よく聞く言葉なんだけど、きちんと区別も整理もできていなかったので、本書はよいガイド役になってくれた。こういうのって、きれいに整理して系統立てて語られてもあまりピンと来ないもので、それよりも、本書のような本を読んで、各国における勢力の変遷や隆盛をメモしながら追っていった方が、アタマに残ってくれるようだ。
それで知ったのだけど、シーア派とスンニ派の勢力バランスというのは、植民地時代の英仏によって種がまかれていたとのことで、アイルランドでカトリックとプロテスタントとの対立を煽ったイギリスの分断統治の手法と一緒。アメリカの身勝手な援助や取りやめが状況の混乱を加速していることは事実なんだろうだけど、両派の対立の根本的な構図が他国の思惑によって画策、構造化されていたというのは悲しいことだ。当事者達はそのことを受け入れないかも知れないが。
バアス党というのがかつてのフセインの支持母体であり、今のアサドの支持母体でもあるということなのだが、これはイスラムの中ではかなり世俗的な立ち位置であり、だからこそ、イラクは中東の中でも珍しい、開明的なイスラム国家と成り得たらしい。それがフセイン政権が倒され、民主的な政府のとやらが樹立して以降、国は割れてしまった。
「昔は、フセイン大統領に忠誠を誓わされ、自由にものを言えなかったが、それでもまだ、曲がりなりにもイラクはひとつだった。今の分裂状態はもっと悪いのではないか(P57)」
今や年間で10兆円規模のビジネスとなったPMC(民間軍事会社)についても1章が割かれている。PS3のゲーム、MGS4(メタルギアソリッド)の冒頭で語られるモノローグがどんどんリアリティを帯びてきている、曰く、
「
戦争は変わった。
時代は抑止から制御へと移行し、大量破壊兵器によるカタストロフは回避された。
そして戦場の制御は、歴史のコントロールをも可能にした。
戦争は変わった。
戦場が制御管理されたとき、戦争は普遍のものとなった。
」
メタルギアシリーズは、日本の何かを、アメリカの姿を借りたメタファーとしてやっているのかと思っていたのだけど、とんでもない、世界の未来予想像を直球のどストライクで描いていたのだ。MGS4のオープニングは中東のどこかで起こっている紛争地域から始まるのだが、それは本書で描かれている光景にとても似ているのだろう。
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