2013年5月11日土曜日

決断できない日本 ケビン・メア (著)

・アメリカ側の対日スタッフを続けて19年間の記録保持者でもある著者。「沖縄はゆすりの名人」報道で一躍有名になったが、自分は「はめられた」と主張している。こういうのって、アメリカが日本のメディアを使ってやってきている部分が多分にあると思うので、アメリカサイドの高官がそういう目に遭うこともあるのかというのが新鮮な印象。それすらも、誰かのシナリオに沿ったものかも知れないけど。

・日本や沖縄は在日米軍を悪者にしてるけど、自分達がいなくなったら、中国、やりたい放題ですよ?というのが著者の基本姿勢。「力には力」ということではTwitterで強硬な発言を続ける田母神さんと同じ論調。当時の民主政権をはじめ、官僚組織などについての直言、苦言については、ご本人のかつての立場が立場だけに、読み手としては身構えてしまったというのが正直なところ。もちろん、だからと言って、本書の全てをプロパガンダとは思わないけど。

・なおこの人はアンチ小沢一郎というスタンス。また、3.11の管さんに対しても「政治的パフォーマンスだけ」と厳しい評価で、東電には同情的(「所詮、東電に当事者能力なんて期待できるわけないでしょ、という、ある意味、子供扱い)。

なにもかも小林秀雄に教わった 木田 元 (著)

・木田元の著作は未読で、哲学者ということだけ知っている。なので、本書は「小林秀雄」論を期待して読み始めた。だが内容としては、彼がハイデガーへと至る道がどうやって形成されたかを知ることのできるといったものだった。そこに興味がなく、小林秀雄論を期待した者からすれば期待外れのエッセイに過ぎなかったという印象。ただし、木田さんが興味を持った複数の思想家と小林秀雄との共通性についての所見は面白かった。若干、牽強付会の印象もないではないが、優れた思想家であれば洋の東西を問わず、類似した問題意識、思考を辿るということなんだろうな。

・タイトルに偽りありと言ってもいいんではないだろうか。著者自身も書いてる通り、「小林秀雄だと思ってたが、ちゃんと思い返してみると、他にも師匠(と呼べる本)がたくさんいた」と、なかなか、タイトルに対して無責任な記述が。要所要所で小林秀雄が出てきてはおり、終章では「やはり小林秀雄が総元締めだったのかと思わないでもない」という記述があるが、これはこじつけた感が拭えない。

・歴史の歯車がもう少し違っていたら、哲学者ではなくて闇屋になっていたという戦後の暮らしぶりについての描写は面白かった。とは言え、「永山則夫」で、悲惨な戦後の家庭を本書の直前に読んだだけに、木田さんの境遇との違いに、少し気分は沈んだ。

永山則夫 封印された鑑定記録 堀川 惠子 (著)

・「永山事件」。自分の年代にはあまり馴染みのなかった連続殺人事件。永山則夫の精神鑑定が行われたが、結局、死刑になった。本書は、二回目に行われ、黙殺された精神鑑定の詳細な記録。

・当時は「貧困と無知がなさしめた」という解釈が、いつものごとくマスコミによって紋切型の垂れ流しで報道されたらしい。しかし、ほとんどカウンセリングとも言える担当医との対話で少しずつ明らかになったのは、そんな単純なものではなかった。

・永山則夫の、あまりにも悲惨な人生に、読んでて辛くなった。少し夢見が悪くなったぐらい、マヂで。

・担当医の真摯な姿勢により、心を開いて記述を行った永山は、しかし、最後にその鑑定結果を否定してしまう。ショックを受けた担当医は、本件後、精神鑑定を行わなくなってしまう。だが、永山は...。それまでが比較的淡々と永山の証言が記述されているだけに、終盤での展開はちょっと目頭が熱くなるドラマチックな盛り上がりを見せる。

・もし自分が殺された側の遺族だったらどう感じるのだろう。全く想像できないが、やはり極刑を望むんじゃないだろうか。

・札幌市の図書館に「岩波」キーワードで登録している入荷アラートで知った。速攻での予約だったのですぐに読めたが、2013/05/10時点で後ろに33人の予約待ち。

2013年4月27日土曜日

感動をつくれますか? 久石 譲 (著)

・宮崎アニメの音楽と言えば久石譲というのが定番になっているが、ナウシカのBGM担当は細野晴臣だった。でも彼の作る音楽が世界観に合わなかったのでリリーフに久石さんが採用されたのがはじまりだったはず。

・久石さんが最初はミニマルミュージックを作曲する芸術畑だったというのは初めて知った。「ポップ」ということについての考え方には、大野雄二の「ルパン三世 ジャズノート&DVD」と似た印象を受けた。

・「歌詞というのは、言葉が時代の空気に合った瞬間に、サーッと広がっていく(P185)」という最後の方の一文が「詩歌と戦争」を連想させた。念のため確認すると「詩歌と戦争」は2012/5/26、本書は2006/08/10。それだけに「詩歌と戦争」の説得力が増すことになる。

・ブックオフでたまたま目にして購入。

2013年4月21日日曜日

特撮ヒーロー番組のつくりかた 小林雄次 (著)

・特撮ヒーロー番組について 1) 主として円谷陣営の最新作品の裏事情 2) 仮面ライダー陣営の平成事情 3) 戦隊もののこれまでの来し方 というポイントで読みやすく解説してくれている。最近の特撮事情にあまり詳しくない人にオススメ。ちなみ著者は1979年生まれで、既にウルトラマンマックスの脚本なんかも手がけてる。そんなわけで、ウルトラマンゼロが登場してきてからの円谷サイドの考えなどについて語ってくれてるのは、なかなか得がたい資料。だからと言って、ゼロのキャラクター設定にはまだ首肯できるものではないが。

・「人間態を持たないゼロのやんちゃで人間臭い口調やキャラクターは、子供たちにとって親しみやすい存在になった((P108)」とはホント?

・「特筆すべきは、バット星人という従来の宇宙人のあとに「グラシエ」という個人名を付けたことにより、俄然、個性が生まれたことだ(P237)」って、「バット星人・グラシエ」という新たな種族かと思ってました。そういうことであれば、ちょっとエポックメイキングな試みと言えるかも。ただ、星人という文明に属するものを相手にするのであれば、その個体がずっと出続けるのか、また、その必然性は?ということにもなりそうだが。ちなみにマックスに出てきた萌え〜なタイニー・バルタンは明らかに個体を特定して再登場してほしいよね。

・ロボコップを製作する際、バーホーベン監督がギャバンのデザイン引用許諾を求めた手紙を送ってきていたとは知らなんだ。

・「私は自分の書くストーリーが子供たちに夢を与えていると言い切る自信はない。また、「夢」という言葉を安直に使うこともはばかられる。(中略)だが、これだけは断言できる。特撮ヒーロー番組には、人の心を救う力がある、優れた作品は誰かにとっての希望になり得るのだ(P266)」。

マンガ・特撮ヒーローの倫理学―モノ語り帝国「日本」の群像 諌山 陽太郎 (著)

・日本は物語の構成フォーマットを守って「モノ語り」を紡ぎ続けている世界でも希有な「モノ語り帝国」とのことだが、そこへ至るまでの様々な前提の固め方が強引な印象。自ら、モノ語りのフォーマットは世界的な普遍性を持つと言いつつ、それを現在も踏襲しているのは日本だけであり、だからこそ世界でも力を持つというのは、あまりにも稚拙な結論付けではないか。モノ語りのフォーマットについては神話にアーキタイプがあるというのはJ.キャンベルが説得力を持って検証済みだし、ルーカスが、そのキャンベルの説を下敷きにしてスターウォーズを構想したというのは有名な話。

・久々にハズした本だったというのが正直な読後感。ただし、手塚治虫と石ノ森章太郎の対比についての論点など、面白いと思う箇所も幾つかあった。自分の読み込み方が足りないのか?方法論と結論が先にありきで論旨が構築されているような印象を持った。

2013年4月14日日曜日

信念をつらぬく 古賀 茂明 (著)

・他の本でも古賀さん書いてたけど、政治は国民が少しでも関心を持って行動することが大事。その具体例は、1000円でもいいから献金して、何をやってるかちゃんと見るということ。複数の著書で繰り返して言ってるってことは、結構有効なことなんだろう。

・また、本書では、官僚も政治家も結構普通の善良な人だという当たり前だけど曇りがちな認識を示しているのもよかった。自分もステロタイプな悪役責任論に陥りがちなので。