本書もそうだが、円谷プロの動きの多様性には期待できる。つい最近までテレビでやっていた「ウルトラマンX」は久々の良作だった(ただし設定やらギミックに関しては既視感が強く、仮面ライダー陣営の後塵を拝すること甚だしいと思う)。また、少し前になるが「ウルトラQ dark fantasy」、「ネオ・ウルトラQ」、そして今も続いているコミックの「ULTRAMAN」など、大人向けな世界観の作品も発表し続けている。子ども向け番組ではまだ試行錯誤をしている印象だが、それ以外の分野では結構、伸び伸びと遊んで世界を広げているような印象だ。
「SFマガジン」の早川書房と円谷プロがタッグを組んで、こんな本を出していたとは知らなかった。まずは第1弾ということで、今後の動きも楽しみ。
ウルトラQとウルトラマンのクロスオーバー。皆が「似てるけど?」と思ってたピグモンとガラモンのつながりの解釈が秀逸。ウルトラ世界の設定を活かした真っ当なSF作品。
「宇宙からの贈りものたち」 北野勇作
ベースはウルトラQの「宇宙からの贈りもの」だからナメゴン。ちょっと不思議な前衛舞台劇を見ているような構成ではあるが、あまり印象が強い作品ではなかった。
「マウンテンピーナツ」 小林泰三
初代マンがベースだが、変身するのはギャル。怪獣を攻撃するなという世界的な武装環境保護集団「マウンテンピーナツ」がお話の主軸。
でも設定がちょっと雑で、「国政世論を味方に付けてる」というだけで、このマウンテンピーナツは機動隊や自衛隊に発砲するわ、ウルトラマンにミサイル撃ちこむわ、やりたい放題。言動の身勝手さを強調することによって、彼らへの討伐を正当化するのが意図なのかも知れないが、それがあまりにも現実離れしていれば興ざめ。ちなみに本作品は、そんなマウンテンピーナツを「絶対、許せない!」と攻撃しようとする人間としての主人公と、不介入を貫く超越存在としてのウルトラマンという対立的構図がテーマ。
ただ、この人の作品って、何か物足りなさを感じる。「AΩ」でもウルトラマン的な存在が出てくるのだが、今ひとつだったし、本作でもその印象は変わらなかったのが残念なところ。
「影が来る」 三津田信三
ウルトラQの「悪魔ッ子」がベースで、出てくるのもウルトラQでお馴染みの面々。ホラー作家によるものなので、それっぽいテイスト。
「変身障害」 藤崎慎吾
セブンをベースとしたスラップスティックコメディ。「ウルトラアイを使っても変身できなくなった」との悩みを、街で評判のカウンセラーに相談に来るモロボシダン。そこにメトロン、イカルス、ゴドラ、ペガッサ、チブルスが絡んできて...という話。。途中からオチが薄々分かるけど面白い。ダンも歳を取ってるという設定なので、是非、実写でやってほしい。
「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」 田中啓文
「怪獣類足型採取士(国家資格!)」の孤軍奮闘を描いた、本書の中で一番好きな作品。「怪獣が日本にだけ現れるのは、生物兵器として日本政府が怪獣を餌付けしているから」という解釈が斬新。ただ、この辺りの陰謀論が本作の主軸ではない。センス・オブ・ワンダーなSF感も本書の中で一番強い。
「痕の祀り」 酉島伝法
怪獣の死骸を処理する現場を描いているのだが、正直、あまり分からなかった。
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