・広告にずっと関わってきた著者が、広告を切り口として社会の動きを分析、解釈して見せながら、これまでの経済成長を至上命題とする社会から、豊かさこそをよしとする成熟した社会へ、と提言する。ただし、それは分かりやすく言えば、「金持ち暇なし」と「貧乏暇あり」のどちらがいいかという選択でもあると著者は突きつける。
・世界的なムーブメントを作った海外の広告も紹介しつつ、国内では開高健、糸井重里などの著名コピーライターが出てくる。糸井さんは今や「ほぼ日」で大ブレイク中で、彼の言動やブログを読むと、深いことを易しく語っているという印象がある。その「深い」の根底には、本書で示されている、社会に対する観察の作法のようなものがあるように感じる。糸井さんは吉本隆明と懇意で、彼に関する本やCDなんかも出版しているが、本書の中でも吉本隆明の言葉が出てくる。
・正直なところ、かつてはコピーライターなんて、クライアントを喜ばせるへ理屈だけを考えている詐欺師みたいな職業だと思ってた(これはもちろん偏見であり、やっかみだった)。実際のところ、彼らが紡ぎ出すシンプルな言葉の後ろには膨大な思考があり、糸井さんクラスになると、その思考は、社会の動きと日本語の両方を深く掘り下げたものになっている。そうでなければ人びとの心に働きかけることはない。広告に対して、絵画や映画に対するのと似たような鑑賞の視点というものがあるとは初めて知った。面白いなと感じる広告、つまらんと感じる広告はあるけど、その後ろに、社会やスポンサーや視聴者に対する批判的視点が存在しているなんて、考えたこともなかったし、もちろん、感じたこともなかった。
・ところで、全体的に面白く学びながら読ませてもらった本書ではあるが、最後はどうしてもいただけない。「政治家の人たちも、憲法をいじったり原発の再稼働をはかったりするヒマがあったら、経済大国や軍事大国は米さんや中さんにまかせて、新しい日本の国づくりに取り組んでほしいものです。 (P211)」 こういう「上から目線」的ニュアンスが強い、左翼的な物言いはもういい加減、辞めたらどうだろう。言わんとしている内容に対して反感を持つものではないが、こういうことをこういう表現で行うことによって、一体、誰にどうしてほしいんだろうと思う。これを読んだ「政治家の人たち」がハッと気づくことを期待して書いたんだろうか?ここで、ステレオタイプな表現が出てくると、急激に白ける。
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