2016年11月6日日曜日

エデン (ハヤカワ文庫SF文庫) スタニスワフ レム

 高校の頃、立て続けにレムを読んでいた時期があり、本書もハードカバー版(しか当時はなかった)で読んだはずなのだが、全く内容を覚えていなかった。スタニスワフ・レムは何度か映画化された「ソラリスの陽のもとに」の原作者で、ポーランドのSF作家。人間の価値観や思考体系を超越した異星の生命体との邂逅をテーマにした「ファーストコンタクト三部作」で世界的に有名になった。本作はその第1作目で、この後に「ソラリス」「砂の惑星」が続く。

 惑星エデンへの不時着を余儀なくされた宇宙飛行士たち。面子はコーディネーター、サイバネティシスト、ドクター、物理学者、化学者、技術者の6名。幸いにもエデンの大気構造は地球と似たものだったので、宇宙船の修理と並行して、限られたリソースを有効活用してエデンの探索を開始する面々。精巧な人工構造物が発見され、明らかに高度にオートメーション化された「何か」の生産プロセスが稼働しているのだが、工場の中には、なかなかにグロい有機生命体の死骸が累々と積み上げられていた。他にも、荒涼とした大地に生息する悪臭を放つ樹木(のようなもの)、空を飛ぶ哨戒機のような物体などが6人の前に出現する。正直言って、それぞれがどんな事象なのか、把握するのに骨が折れた。頭が固くなってるからかな。

 それにしても6名の宇宙飛行士は、まさに人類の知性を代表したかと思えるほど知性的で忍耐強い。

2016年9月24日土曜日

秘録 CIAの対テロ戦争――アルカイダからイスラム国まで – マイケル・モレル (著)

 CIAの長官代行まで務めた叩き上げのスタッフによる回顧本。網羅されているのは9.11、アルカイダ〜イラク戦争からスノーデン、ISまで。大統領へのブリーフィング担当を務めた著者の体験による関係者の言動は、ある程度割り引いて読んだとしても面白い。

 自分の中でのCIAというのは、いわゆる映画(それもアクション映画)に出てくるイメージがほとんどなのだが(中には「アルゴ」みたいなのもあるけど)、CIAだって官僚的組織なわけで、実際はこんな感じでやってます〜というのが、ある程度の説得力を以て描かれている。だが、本書で書かれているのは、表沙汰にして問題のない(あるいは既にバレてる)部分だけだろうし、しかも言及されていること全てが快刀乱麻を断つように明快にまとめられているというわけでもない。

 例えばイラク戦争。開戦前には大量破壊兵器の有無が焦点となり、そのレポートはCIAが作成した。本書や他の本でも触れられているように、当時のCIA長官のテネットが大統領に「(大量破壊兵器があるのは)スラムダンク(確実)」と言ったというのは、かなり有名なエピソードなのだが、本書では、それは事実だったとした上で、そのレポートが適切性を欠いていたとは認めている。ただ、なぜ、そのようなレポートができあがることになったのかという経緯があまりにも細かすぎる。「レポートの執筆担当者が帰宅した後に、別の分野の専門家が全体を勘案しないままの一文を追加して、そのことを他の者に伝えていなかった」ために、そのような報告書が出来上がってしまった、というのだが、こうなると最近頻出している国内不祥事の言い訳のようなうさん臭さが漂う。

 疑ってばかりでもつまらないので、ある程度素直に読み進めるならば、アメリカは、多分、我々が考えている以上に「世界の警察」としての責任を自覚しており、それを法治国家の枠組みの中で遂行する努力を放棄してはいないという姿が見えてくる。法の執行時には裁判所の令状が必要なのと同じように、CIAの活動は議会の監視下にあり、その承認には相応のプロセスが必要であり、大統領の認可が必要というのが本来のルールであることも分かった。

 だが、本書を読んでいて著者のあざとさが見え隠れするように感じるのは、自分が著者のことをCIAの副長官まで務めた人間だからと身構えるあまりの下衆の勘繰りだろうか。
 結局、関係者自身による回顧本というのは、書かれた内容をそのまま鵜呑みにすることはできない。ただ、こういうアメリカ関連のテーマは、ボブ・ウッドワードをはじめとした様々な立場の人たちが取り上げている。登場人物も重複してくるわけで、複数の本を読んで、そこから読み解くと、また浮き彫りになってくるものがあるだろう。

2016年9月3日土曜日

ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 (幻冬舎新書) 東 浩紀, 大山 顕

 「ショッピングモールは世界中で普遍的な、新たなコミュニティ形態の最先端の実験場」との見立てで行った対談集。

 「モールは、コンパクトシティの理念をもっとも正確に実現している。逆に言えば、コンパクトシティというのは、じつは市街地全体をモールにするという発想なんですよね。 (P39)」
 「要するに、ショッピングモールは、「人間にとって最適な環境をどうつくるか」というひとつの実験場だと思うんです。(略)しかも、国や地域の文化に影響を受けない実験場であるという部分が、とくに面白いと思うんですよね。どんな文化でも受け入れてくれる。 (P240)」

 ただし、あくまでも対談で「色々な視点で見てみる」という域を超えているわけではない。自分としては「ショッピングモールを地元の商店街に対する悪としてしか見立てないのはおかしい」という問題意識こそが、本書を読んだ一番の収穫。

 なお「先行形態」についての言及があり、同時期に読んでいた柄谷行人の「憲法の無意識」でも、結構重要な概念として紹介されていたので、奇妙なシンクロを感じた。今風に言えば「セレンディピティ」ってやつですか。

 ちなみに、本書のベースとなっているのは「ゲンロンカフェ」なる場での対談だったらしいが、こういう面白い催し物を札幌でも盛んにしたいなあ。ついでに出版までできたらいいなあ。

2016年3月14日月曜日

東京消滅 - 介護破綻と地方移住 (中公新書) 増田 寛也 (編集)

 昨年、日本中(特に行政関係者)に大きなインパクトを与えた「地方消滅」。その後、「地方消滅ー創生戦略編」と続き、本書は第3弾。中公新書の増田本は、セガールみたく「沈黙」ならぬ「消滅」でシリーズ化するのかと思ってしまうほど「消滅」づくし(笑)。

 東京圏における75歳以上の後期高齢者(≒要介護者)が今後、急増するが、それに対応できるだけの病院、介護施設がない。建設するににも大変なコストがかかる。
 「現代版姥捨て」との批判があるCCRCだが、「東京のツケを地方にまわすな」という捉え方ではなく、積極的にその組み立てに乗ることによって地域創生のポジティブファクターにすることができるというのが本書の主張。例えば杉並区はコストを負担して南伊豆町に介護施設を作っている。北九州市長も積極的な受け入れ(アクティブシニアだけど)をいち早く宣言した(しかし北九州市は色々と活発だなあ)。早く手を上げて連携すれば、地方サイドとしても医療・介護施設の建設コストを首都圏サイドに負担してもらい、人口も増え、また、そこに従事するので若い人の仕事も増えますよねという青写真。

 北海道なら北見や帯広が、施設(病床)的には比較的余裕を持って高齢者を受け入れられると分析しているのが興味深い。全国でそういった地域が41紹介されている(もちろん「現在は」ということで)。函館も入っており、新幹線開通と相まって、効果的な連携ができるのではないかと思うが、函館市でそういう議論は進んでいるのだろうか。

 でも、あれですね、中央からきれいな青写真を提示されて、それは、まぁ、よく考えられてて(色んな意味で)結構なんだが、つい警戒して身構えてしまう部分もある。だからと言って反対のための反対をしても不毛なので、地方である僕らの側から、よく考えられた提案ができないものかな。

2016年3月13日日曜日

アシェンデン―英国情報部員のファイル (岩波文庫) モーム (著)

 イギリスのスパイだったモームのどストレートなスパイ小説。短めのエピソードで構成されており、読みやすい。007みたいななアクションシーン等はほぼ皆無。作中でも言及されているが、スパイの「活動の大半は地道で退屈なもの」。しかも、本書の内容はモームの実際の諜報活動に近いということが注釈から分かって一層興味深い。中には、こんなエキセントリックな奴はおらんだろというような人物も登場してくるが、実際にいるんだよねえ、冗談みたいに変な人って。

 アシェンデンの淡々とした諜報活動や、その冷徹な上司(結構人でなし)とのやり取りからイギリスという国が少し垣間見えるような気もするが、これは自分の勝手な妄想かも知れない。ちなみに、このアシェンデンは、手嶋龍一さんが「ウルトラ・ダラー」などで描く、同じくイギリスのスパイであるスティーブンに重なるような印象も少しある。

 それにしてもケイパー夫妻のお話、第10章「裏切り者」は切ない。メチャ切なくて泣けます。

お静かに、父が昼寝しております―ユダヤの民話 (岩波少年文庫) 母袋 夏生

 まずタイトルに惹かれ、次に「ユダヤの民話」というのに惹かれたのが読もうと思った動機。

 「民話」というのは、神話的なグロテスクさを持っていて、不条理だったりするケースが多い。本書に収録された短い民話たちも、そういった要素を色濃く持ちつつも、他の国のものとは違った教訓だったり処世術が入っているのを感じた。大抵は表題作のように、教えを守って真面目にやっていれば報われるというパターンが多いのだが、中にはキツネとオオカミの話のように、狡猾な智恵を使って他者を陥れて自らが利を得ることを是として描いたものもあり、その根底には「騙される愚かさが悪いのだ」とする価値観があるように感じる。果たしてそれが「ユダヤ」民族の特性なのかどうかは分からないけど。

 多くの中短編を締めくくる最後のパートは、神による世界創生から楽園追放、アベルとカイン、そしてノアの方舟という、創世記の話。どれも断片的あるいは間接的には聞いたことがあるが、きちんと読んだことはなかったので、本書で読めたのはラッキーだった。ダイジェスト的なまとめ方ではあるが、未読なら、この部分だけでも面白いはず。ちなみに、その壮大なスケール感に、手塚治虫の「火の鳥」を思い出した。

2016年3月7日月曜日

ユービック (ハヤカワ文庫 SF) フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 (翻訳)

 「ユービック」は「ユビキタス」から。どこにでも偏在する。本書の中では邪悪な力に対抗するスプレーというのが最終形態。「邪悪な力」と言われると「聖なる侵入」の基本プロットだったりするのか?とも思うが、ディックにとっては根源的な概念の一つなんだろう。

 エスパーと、その力を中和するアンチエスパー。共に会社があるのだが、本書ではアンチエスパーの会社側が描かれている。社長のランシターと試験技師のジョー・チップ、そしてアンチエスパー達。彼らはビジネスとして月に出向くが、それはエスパー側の罠で、一同は仕掛けられた爆弾で吹っ飛んでしまい、社長であるランシターは、コールドスリープによる応急処置も間に合わず、死んでしまう。その後、アンチエスパー達が次々と不可思議な死を遂げる事態が発生する。

 最近、ヴァリス系を読んでたこともあり、何てまとまなSFだろうとホッとした(「高い城の男」も自分的にはまだピンと来なかったので)。ついでに言えば本作は市立大のお師さんがディックの中で一番好きとおっしゃっていることもあって、少し気合を入れて読んでみたのだけど、自分的にはディックのベスト、とまではいかなかったというのが正直なところ。とは言え、ランシター、ジョー・チップをはじめ、アンチエスパーの面々がそこそこ個性的。加えて、クローズアップされる何人かは、いわゆる「キャラが立って」いて面白い。また、自分達は本当に生きているのかどうか、存在基盤が揺らぎ始める中盤以降のゾクッとする感触はディックならではだし、SFならでは。なお、本書も高校時代に読んでるのだけど、全く覚えていなかった。