2013年2月3日日曜日

ハーモニー 伊藤 計劃 (著)


・「虐殺器官」の後日譚。平和になった世界。そこはハーモニーが取れたように見える世界。「自分を律することの大半は、いまや外注に出されているのだ」。そんな世界に馴染めない女子高生の視点から語られる世界の異常性。物語はそこから始まる。日本SF大賞だけでなく、アメリカでP.K.ディック賞まで取った作品。

・一見ユートピアに見えるディストピアということで、ウォルター・テヴィスの「モッキンバード」というSF作品を思い出させる箇所も散見される。だが、「モッキンバード」のような暖かく血の通った人間復権が描かれることはない。「虐殺器官」が救いのない物語だったのに対して、本作は、救いを求めてたどり着いたところが、とんでもなく救いのない世界(と言うか「救い」という概念を必要としない世界)だったという物語。何とも言えぬ後味の悪い読後感。これ、中学ぐらいで読んでたらトラウマになってたかも知れない。

・秘密を知り、トリガーを引き得る存在となった主人公が、そのトリガーを引く必然性がイマイチ伝わってこない。実はそのことが、「虐殺器官」と「ハーモニー」で自分が最も戦慄した部分かも知れない。

・本書は、初めて電子書籍で読んでみた(iPad版のKindle)。ページを繰る感覚や、以前のページに戻ってちょっと確認する、というのがやりづらい。あまり気にせずにマーカーをつけたり、挿入したコメントを後から一覧的に見ることができるのは便利。


2013/02/21(木)追記
・「救い」を求めて行き着いたのが「救い」が意味を持たない場所。これはもしかしたら、作者が自らの死と対峙せざるを得ない状況の中で、その苦しみや恐怖をじっと見つめたからこそ出てきた想念だったのかも知れないということに気付いた。ちなみに、本作は作者が34歳という若さで亡くなった2009年の翌年、発表された。





※モッキンバードは大好きなSF作品の一つ。残念ながらもう絶版だけど。


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