2013年2月24日日曜日

武士に「もの言う」百姓たち: 裁判でよむ江戸時代 渡辺 尚志 (著)

・江戸時代の農民と言えば、強権的な武士に対して無力で、「生かさぬよう、殺さぬよう」搾取されるだけの惨めな存在。そんな印象を持っていたのだが、そうではなかった。江戸時代のどの時期かにもよるが、農民は決して「物言わぬ」存在ではなかったし、農民が公的な場で自分の利害を主張をするだけの社会的環境も整えられていた。

・具体的には、農民にも訴訟は認められた権利であったということ。現代以上に訴訟が盛んだったらしい。本書は、ある訴訟の記録を紹介することで、当時の様子を垣間見せてくれる。質問状やらそれに対する回答状などのやり取りがあったため、当時の様子を知ることができるわけだ。これらの訴状や質問状なども全て現代語訳してくれているので読みやすい。「自分に悪意はなかったんだけど、お騒がせしたことについては申し訳ない」なんて言う、本当に謝ってんだか謝ってないんだか分からないような言い方が、この頃から使われていたのが分かるのもまた面白い。ちなみにこの裁判、足かけ5年というから、当時に対する先入観も変わる。

・郡奉行から職奉行、評定所とヒートアップして周りを巻き込んでいくこの訴訟で、巻き込まれる側の武士達が、判決前に、藩の威光を保つためにどのように決着させればよいかを示し合わせている過程まで分かるのが面白い。帯刀という形で暴力の行使を許されてはいるが、やってることは官僚。なお、意外だったのだが、彼らの基本的な方針というのは、明確な判決を下すことではなく、関係者(この場合は農民)全員が納得して円満に解決することが重視されたという点。判決を一方的に言い渡しておしまい、ではなかった。意外と農民が大事にされていた事実が見えてくる。

・それにしても、何で、江戸時代の農民は搾取されるだけの惨めな存在というイメージが教育的に採られたんだろう?

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