2013年5月26日日曜日

外交証言録 湾岸戦争・普天間問題・イラク戦争 折田 正樹 (著)

【要約】
・面白く読めたが、どうしても「包み隠さず」話してないよねえ?という、うがった気持ちと、それにしても何でこの内容で、こんなに高いの?というのがある。岩波で企画シリーズの3冊目らしいが、編集者の後書きを読む限りでは聞き取りそのものにかかった時間は最大で30時間弱のはず。後は編集者の作業賃が高いのか?「本書が広く読み継がれることを祈りたい」って、だったらもっと値段、下げて欲しい。内容的には口述だけど日本の外交史のリファレンスとして手元に置いて、時々参照したい類いではあるので。そのうち、現代文庫で出るのかな。

【ノート】
・在米大使館で、日本についてアメリカに発信するのが主な仕事とのことだが、それを我々国民が知ることは可能なのか?(P75)

・覚えてないとのことだが、これはきな臭いからふれることを避けてるのか?安全保障だよ?(P85)

・意外と権力者っつっっても、世間でのイメージほどの全能的な陰謀ってわけじゃないんじゃないの?と感じさせられる。(P104)

・サッチャー、「記者会見は平気でやっておられるのですか?」「とんでもない。記者会見は、自分は緊張してもう嫌なんです」(P113)

・佐藤優氏が取られた情報かどうかまでは確認しませんでしたが、外務省からは多くの貴重な情報が入っていました。(P155)

・秘密にしていた普天間返還合意が日経ワシントンの記者(宮本明彦ってらしい)にスッパ抜かれた。橋本総理から秘密を厳命されてたのに。(P199)

・「フセインが安保理決議に従って、どこでも全面的に査察を認めていれば、こういう事態にならなかったかも知れません」って、どこまで本気で言ってる?さらに、P235では「大量破壊兵器がなかったというのは後でわかった話ですが、やったのはけしからんという議論はできるのかもしれませんが、それは後付けの議論です」というのもそう。(P233)

・日本人は他国の意識について理解が浅すぎると感じています。依然として心に傷を持っている人がいるということを踏まえて将来のことを考えるようになって欲しいと今でも思っています。(P240)

・「カプランは反日グループの中心となっていました。(日本に招待したところ、)自分は酷い目に遭ったが、広島、長崎を見ると日本人も酷い目に遭ったことがわかった、原爆のことを考えると投下したのは米国かもしれないが、投下の決定には英国も加わっており、英国にも責任がある、自分の余命は短いかもしれないが、日英関係のために努力したいということを伝えてきました。この辺りはちょっと感動的。(P243)

・イギリスは考え方が教条主義的ではない、非常にプラグマティック。フランスもドイツも最初に理想型ありきのところがあるが、イギリスはそういうことよりも慣行が積み重なり、現在はたまたまこうなったということがあります。(P246)

・(常任理事国入りに対して)あんあmりイデオロギー的に日本はこうだとやるべきではないでしょうね。アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスがそういうことを言っているかといったら、そんなことは全然ないわけです。日本は積極的な役割を果たしたいということでいいと思います。(P260)

・日本は戦後、大変な努力をして復興を成し遂げたが、それは国際社会あってのことだということを銘記しなければならない。日本の国益は確保していかなければならないが、国際社会の中で大きさに応じた役割は果たしていくべきだと意識する必要があると思う。これからは多極化の時代、アメリカや西欧主導では済まない世の中になってきている。アメリカは非常に大きな国であり続けるのでしょうが、世界の中での相対的な力と言うことになると、小さくなっていくでしょう。それからヨーロッパにしてもそうでしょう。アフリカやバルト諸国のような、普段話題にもならないような国が日本をどう考えているかと言うことにも、思いを致す必要があると思います。(P264)

2013年5月25日土曜日

日本の「情報と外交」 孫崎 享 (著)

・現代では、少しの手間で入手できる情報により、情報マフィア予備軍ぐらいの情報を得ることができる。「『フォーリン・アフェアーズ』を読むことは、米国国務省政策企画部マフィアの準構成員レベルに行けることである。(P88)」

・東西ドイツの壁崩壊につながる動きの端緒はハンガリーからだったが、その動きを画策したのはアメリカのパパ・ブッシュ。だが、CIA長官も務めたブッシュは「『成功は人に告げることなし』のモラルをもっていた人物である。(P117)」

・「重要なことは、世界の情勢を見るとき、『まず大国(米国)の優先順位を知れ、地域がこれにどう当てはまる?』を考えてみることである。(P131)」

・「CIAというと一般にタカ派の拠点の印象を受けるが、米国の政治抗争の中では、CIAがハト派に位置する場面が多い。(P191)」

・「したがってCIAは、自由労働運動の強化、競争的な協同組合の結成、各種の文化的、市民的、政治的団体の援助にも、多くの努力を払った。(P216)」いわゆる「隠然的影響力」ってやつか。

・「『ロシア現政権には、歯舞、色丹を除き、北方領土で日本に譲歩する可能性はまっくありません』『米国をはじめ各国の対応を見ていると、いま、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になれる可能性は存在しません』(P250)」とのことだが、この解釈は折田本と真逆。また、北方領土についての見立ては鈴木宗男や佐藤優の本と真逆。

・「国際社会での米国の優位性の後退は、避けがたい潮流と思う。同時に中国の力は上昇する。米中の狭間にあって、日本の安全保障政策の舵取りは難しい時代に入る。否応なしに独自の情報能力が問われる時期が来る。ほんとうはその日に備え、日本は情報機能を強化すべき時期に入っている。(P261)」

・山本七平の「空気の研究」、本書でも出てきた。読まなきゃ。

・ちなみに、孫崎さん、ちょっと日本語の使い方に難アリな印象が散見された、意外だが。

2013年5月18日土曜日

縫製人間ヌイグルマー 大槻 ケンヂ (著)

・異性からやってきた綿状生命体。ぬいぐるみの中に入り込み、一方は愛のあふれる家庭の子供の元で、もう一方は愛のない家庭の子の元で過ごす。やがて、それぞれが悲壮な決意を胸に秘めることになるXデイがやってくる。「姫を守り抜いてくれ」「僕の代わりに人間を沢山殺して」。その数年後から世界征服を企む悪の組織やアメリカ合衆国、そして高円寺のご町内を巻き込んだ壮絶な物語がスタートする。

・傑作の予感があったんだが期待外れ。ちょっと期待値が高すぎたか。結構、泣かせる場面もあるし、不覚にも涙があふれてしまった場面もあるが、お話としての荒唐無稽さと、その割にイマイチまとまりが欠けるというかチグハグな感じとがうまく合っていなかったような印象だった。これは、オーケンの日本語の使い方が小説家としての基準をクリアしていないという点にも起因するような気がするし、人物描写で違和感を持ってしまうような箇所が散見されるのも原因の一つだろう。ちょっともったいない。

・もちろん、面白くないというわけではなく、読み始めると一気に引き込まれて読んでしまったのは事実。だが、少しあざとさを感じるギャグの構成や表現の仕方に目をつぶったとしても、全体的にはイマイチ感が強いというのが正直な読後感。続編に言及しながら、もう発表から7年も建ってるので、多分、この世界観に自分で飽きてしまってるんだろうなとも思う。

・しょこたん主演による本作の映画化、どうやら設定やら筋書きやら、色々と変えられてるみたいだが、興味はある。来年春公開か...。

政治の修羅場 鈴木 宗男 (著)

・政治家の自叙伝なので、まぁそういう内容だが、中川一郎にはじまり、田中角栄、金丸信、竹下登などに関する記述は面白い。ゴルバチョフやエリツィン、プーチンとの会談の話も興味深く読めた。ムネオハウス報道の頃は利権まみれの悪徳政治家だと思っていたが、佐藤優さんの著書の影響もあり、どうやらそうでもなさそうだと最近思い始めてる。

・昨年11月に帯広に行った時、別のホテルに投宿した同僚が鈴木宗男がいたと言っていた。いつか機会があれば会って話してみたい。

・「民主主義とは折り合いをつけていくことなのだ。(P119)」

できる人はなぜ「情報」を捨てるのか 奥野 宣之 (著)

・タイトルに偽りあり。少なくとも自分が期待していた内容とは違った。期待していたのは、スマートな人が情報を捨てることによってどのようなメリットを得ているのか、その考え方や思考の構造についてだった。それに対して本書は2009年に刊行された「情報は『整理』しないで捨てなさい」の文庫化であり、内容的にもそちらのタイトルの方がしっくり来る内容だった。

・自分はrtmなりevernoteなりに情報を記録、蓄積しているが、どうもそのことによるメリットをあまり感じられていない。このことが本書を読む動機になったのだが、そんなわけで、期待していたものは得られなかった。

・「縦と横に散らす」。たとえば「環境」をテーマにするなら、
 横:友達の家ではどうやって節電しているか、中国のリサイクル事情は、ヨーロッパの政策は、他社の環境報告書はどうか。
 縦:原始時代のゴミ問題は、江戸時代のリサイクルの仕組みは、戦時中に物資不足になったときの省エネ方法は。(P92)

・生の情報を取り分けるトレーニングとしてテレビを見ながらノートを取る。30分程度のニュース番組やNHKの高校講座など。(P110)

・「司馬遼太郎の小説は歴史書ではないが、正確な事実だけを並べた歴史書に触れるよりはずっと日本史に対する基礎知識がつくでしょう(P128)」とあるが、これは佐藤優の指摘とは合わない。自分としては佐藤さんの意見を採る。

・情報を入手するコストについての意識を持つ(P156)。

・青空文庫全文検索サイトってのがあるらしい。http://www.su-ki-da.com/

・時事ドットコムがよいらしい。(P187)

・やっぱい文藝春秋は面白いらしい。(P189)

・「資料を読んで疑問が湧いたら、気後れせず「リリースを読んで、もっと知りたくなったのですが」と「問い合わせ先」に電話してください。(P196)」

・書類に「×」を書く。自分が目を通したものには「痕跡」を残すと再読時の手間がグッと軽減される。(P211)

・「思いついた『ネタ』を書いておくときの大事な心構えは、『決して恥ずかしがらないこと』です。」「会議で腑に落ちないことがあっても発言できない、セミナーでわからないことがあっても手を挙げて質問できない、面白いと思っている企画があるけれど提出できない...。『目立ちたいだけと勘違いされるのでは』『バカだと思われるんじゃないか』『ヘンなヤツだと思われるかもしれない』こういう心配をしていたら、未来永劫『人と違うアウトプット』はできません。僕が思うに、わが国の教育や社会文化は、このような自己規制の思考パターンをつくり上げることにかけては天下一品です。誰でもこうなってしまいます。だから、こんなケースに心当たりがある人は、『戦略的インプット』の前に、その事なかれ主義や自己検閲の癖を捨てる努力をしてください。(中略)ノートに手書きすることは、この『タブーのなさ』を確認する効果もあります。(P240)」

・横着(知的怠慢)しない。資料を配られたら一番重要な部分はどこかチェックする。「うまい話」をささやかれたら、その信憑性や発信者のメリットを想像する。いちいち考える、いちいち自分で判断する。(P251)

 

2013年5月11日土曜日

暴いておやりよドルバッキー 大槻 ケンヂ

【ノート】
・筋肉少女帯は社会人になってから聴き始め、一時期はヘビロテだった。ベースマガジンで内田雄一郎が「断罪!断罪!また断罪!!」についてのインタビューを読んだのが聴くようになったきっかけ。ちなみに、このアルバムに収録されている「何処へでも行ける切手」の中で歌われている「包帯で真っ白な少女」というイメージが、その後、エヴァンゲリオンのレイになったというのは有名な話。

・オーケンは本もたくさん出版しており、久々に手にとってみた。本書はエッセイ集で、筋少再結成の頃の舞台裏も少し分かるようになっているが、イマイチという印象だった。自分がそれほど熱心なファンではなかったからか、特に感慨を感じるでもなく、「だから何?」というような感じでしか読み進めなかった。笑わせようとして書いている(と思われる)部分も、ちょっと作為的に過ぎる印象。

・著者による「新興宗教オモヒデ教」や「のほほん雑記帳」などは面白かったが、本書はそんなわけでハズレでした。なお、もちろん本書ではないが、松岡正剛さんが千夜千冊の中でオーケンの本を取り上げているのは興味深い。

 

ラーメンと愛国 速水 健朗 (著)

・ラーメンを軸にして見た戦後史と今の日本の一側面。日清食品の安藤百福に始まり、佐野実、天下一品、一風堂の河原成美、果ては二郎から六厘舎、夢を語れまで出てくるが、味がどうこうという本ではありません。田中角栄の日本列島改造論から内田樹に須藤元気まで。その目配りの仕方が、自分にはちょうどいい感じだった。

・ラーメンという中国由来の食べ物が、今や「表層的な」ジャパネスク概念の体現の一翼を担っている。「作務衣」のユニフォーム化に加えて「ご当地」的な意匠のメニューでナショナリズム的なムーブメントすら漂わせているラーメン業界。でも、元々ラーメンは給食のパン食化というアメリカの占領政策の延長線上での小麦粉大量消費が背景。考えてみりゃ、うどんやパスタも小麦粉だった。また、言うまでもなく、中国由来。

・さらに、今のラーメン業界は、イタリア発の「スローフード」因子も包含、つまり、右派左派両方のベクトルも持ち合わせている。「右派」というのは「ご当地」との結びつきで、「左派」というのは大手資本によるファストフード店やフランチャイズ化を拒否している部分。ただし、ラーメン業界におけるナショナリズムは、多様な文化を認めた上でのナショナリズムだと本書では(他書からの引用ではあるが)述べられている。

・それにしても、チキンラーメン生みの親、安藤百福は、毎日昼にチキンラーメンを食べていたとあるが、他の本ではカップヌードルだったりして、どれがホントなんだろう?多分、幾つかの基本的な商品をローテーション的に食べていたというのが現実的なところではないかと思うんだけど。

決断できない日本 ケビン・メア (著)

・アメリカ側の対日スタッフを続けて19年間の記録保持者でもある著者。「沖縄はゆすりの名人」報道で一躍有名になったが、自分は「はめられた」と主張している。こういうのって、アメリカが日本のメディアを使ってやってきている部分が多分にあると思うので、アメリカサイドの高官がそういう目に遭うこともあるのかというのが新鮮な印象。それすらも、誰かのシナリオに沿ったものかも知れないけど。

・日本や沖縄は在日米軍を悪者にしてるけど、自分達がいなくなったら、中国、やりたい放題ですよ?というのが著者の基本姿勢。「力には力」ということではTwitterで強硬な発言を続ける田母神さんと同じ論調。当時の民主政権をはじめ、官僚組織などについての直言、苦言については、ご本人のかつての立場が立場だけに、読み手としては身構えてしまったというのが正直なところ。もちろん、だからと言って、本書の全てをプロパガンダとは思わないけど。

・なおこの人はアンチ小沢一郎というスタンス。また、3.11の管さんに対しても「政治的パフォーマンスだけ」と厳しい評価で、東電には同情的(「所詮、東電に当事者能力なんて期待できるわけないでしょ、という、ある意味、子供扱い)。

なにもかも小林秀雄に教わった 木田 元 (著)

・木田元の著作は未読で、哲学者ということだけ知っている。なので、本書は「小林秀雄」論を期待して読み始めた。だが内容としては、彼がハイデガーへと至る道がどうやって形成されたかを知ることのできるといったものだった。そこに興味がなく、小林秀雄論を期待した者からすれば期待外れのエッセイに過ぎなかったという印象。ただし、木田さんが興味を持った複数の思想家と小林秀雄との共通性についての所見は面白かった。若干、牽強付会の印象もないではないが、優れた思想家であれば洋の東西を問わず、類似した問題意識、思考を辿るということなんだろうな。

・タイトルに偽りありと言ってもいいんではないだろうか。著者自身も書いてる通り、「小林秀雄だと思ってたが、ちゃんと思い返してみると、他にも師匠(と呼べる本)がたくさんいた」と、なかなか、タイトルに対して無責任な記述が。要所要所で小林秀雄が出てきてはおり、終章では「やはり小林秀雄が総元締めだったのかと思わないでもない」という記述があるが、これはこじつけた感が拭えない。

・歴史の歯車がもう少し違っていたら、哲学者ではなくて闇屋になっていたという戦後の暮らしぶりについての描写は面白かった。とは言え、「永山則夫」で、悲惨な戦後の家庭を本書の直前に読んだだけに、木田さんの境遇との違いに、少し気分は沈んだ。

永山則夫 封印された鑑定記録 堀川 惠子 (著)

・「永山事件」。自分の年代にはあまり馴染みのなかった連続殺人事件。永山則夫の精神鑑定が行われたが、結局、死刑になった。本書は、二回目に行われ、黙殺された精神鑑定の詳細な記録。

・当時は「貧困と無知がなさしめた」という解釈が、いつものごとくマスコミによって紋切型の垂れ流しで報道されたらしい。しかし、ほとんどカウンセリングとも言える担当医との対話で少しずつ明らかになったのは、そんな単純なものではなかった。

・永山則夫の、あまりにも悲惨な人生に、読んでて辛くなった。少し夢見が悪くなったぐらい、マヂで。

・担当医の真摯な姿勢により、心を開いて記述を行った永山は、しかし、最後にその鑑定結果を否定してしまう。ショックを受けた担当医は、本件後、精神鑑定を行わなくなってしまう。だが、永山は...。それまでが比較的淡々と永山の証言が記述されているだけに、終盤での展開はちょっと目頭が熱くなるドラマチックな盛り上がりを見せる。

・もし自分が殺された側の遺族だったらどう感じるのだろう。全く想像できないが、やはり極刑を望むんじゃないだろうか。

・札幌市の図書館に「岩波」キーワードで登録している入荷アラートで知った。速攻での予約だったのですぐに読めたが、2013/05/10時点で後ろに33人の予約待ち。