2014年7月20日日曜日

ルポ 終わらない戦争―イラク戦争後の中東 別府 正一郎 (著)

 もう10年ばかり、アレッポの石鹸を愛用しているというだけの理由でシリア情勢に興味があり、それで本書を手にとったのだが、内容としては中近東各国における現地ルポ。
 どれだけ非道な行為が行われているかということを伝えるのが主眼ではなく、イスラム圏内の宗派争いが、どのように影響し合って泥沼化しているかについて、歴史的な経緯の概説を交えながら現地取材の様子と共に教えてくれる本。
 イスラム教におけるシーア派とかスンニ派って、よく聞く言葉なんだけど、きちんと区別も整理もできていなかったので、本書はよいガイド役になってくれた。こういうのって、きれいに整理して系統立てて語られてもあまりピンと来ないもので、それよりも、本書のような本を読んで、各国における勢力の変遷や隆盛をメモしながら追っていった方が、アタマに残ってくれるようだ。

 それで知ったのだけど、シーア派とスンニ派の勢力バランスというのは、植民地時代の英仏によって種がまかれていたとのことで、アイルランドでカトリックとプロテスタントとの対立を煽ったイギリスの分断統治の手法と一緒。アメリカの身勝手な援助や取りやめが状況の混乱を加速していることは事実なんだろうだけど、両派の対立の根本的な構図が他国の思惑によって画策、構造化されていたというのは悲しいことだ。当事者達はそのことを受け入れないかも知れないが。

 バアス党というのがかつてのフセインの支持母体であり、今のアサドの支持母体でもあるということなのだが、これはイスラムの中ではかなり世俗的な立ち位置であり、だからこそ、イラクは中東の中でも珍しい、開明的なイスラム国家と成り得たらしい。それがフセイン政権が倒され、民主的な政府のとやらが樹立して以降、国は割れてしまった。
 「昔は、フセイン大統領に忠誠を誓わされ、自由にものを言えなかったが、それでもまだ、曲がりなりにもイラクはひとつだった。今の分裂状態はもっと悪いのではないか(P57)」

 今や年間で10兆円規模のビジネスとなったPMC(民間軍事会社)についても1章が割かれている。PS3のゲーム、MGS4(メタルギアソリッド)の冒頭で語られるモノローグがどんどんリアリティを帯びてきている、曰く、

戦争は変わった。

時代は抑止から制御へと移行し、大量破壊兵器によるカタストロフは回避された。
そして戦場の制御は、歴史のコントロールをも可能にした。

戦争は変わった。

戦場が制御管理されたとき、戦争は普遍のものとなった。


 メタルギアシリーズは、日本の何かを、アメリカの姿を借りたメタファーとしてやっているのかと思っていたのだけど、とんでもない、世界の未来予想像を直球のどストライクで描いていたのだ。MGS4のオープニングは中東のどこかで起こっている紛争地域から始まるのだが、それは本書で描かれている光景にとても似ているのだろう。

逆境を乗り越える技術 (ワニブックスPLUS新書) 佐藤 優 (著), 石川 知裕 (著)

 帯の文句通り「精神論ではなくリアルな技術」満載。対談本なので読みやすいが、対談者が両方ともかなり高レベルの逆境に陥った当事者なので、話にリアリティがある。例えば「(支持者に)お金を頼みにいくのは、ものすごいストレス(中略)『やっぱり断られるかも』とか『下手するとお金はおろか支持をも失うかもしれない』など、悪いことを考えてしまいがちです(P145)」など。本当に逆境に陥ってから本書を読むと、「逆境に追い込まれたら、絶対環境を変える必要があります(P75)」などの文章に過剰にすがり過ぎてしまう恐れがあるので、平常時に読んでおいた方がいいかも知れない。

 個人的にもっとも響いたのは「(手で)書くことが大切」というもの。
 溜め込まずに、まずは書きだしてみることが精神衛生上もよろしい、という記述は色んな本や記事で散見してきたけど、本書ではもう一歩踏み込んで「クラウドは危ない。何でもクラウドに預けてしまうと自分で覚えない」とまで言っている。何でも預けちゃう傾向が強い自分には突き刺さりました。攻殻機動隊で「記憶の外部化を可能にした時、あなたたちはその意味を、もっと真剣に考えるべきだった」という人形使いのセリフも思い出されるな。

【目次】
第一部 逆境を生きる──陥ってしまったら

その一 うつ病とのつきあい方
うつ病と自殺/人にはそれぞれのキャパシティがある/佐藤優も五月病に悩んだ/うつ病脱出の完全成功ストーリーはないetc.

その二 組織や上司とは戦うな
組織には勝てない/対組織なら 局地戦 しかない/上司には逆らうな

その三 落ち着いて考えよ
書くことは大切/短気はダメ。ときの流れというものがある

その四 プライドにしがみつくと破滅する
プライドは捨てよ/目立たない生きかたは大切

その五 人こそは宝なり
「縁の深まる人」と「離れていく人」/荒っぽい捜査、その背景と影響

その六 譲ってはならないことを見極める
絶対に罪を認めない理由と政界の実態/説明はダメ、嘘もダメ/罪が重いほうが公民権回復が早い?etc.

特別編 逮捕されるということ

第二部 平時──逆境に備え、やっておくべきこと

その一 あらかじめ考えておきたいこと
人生の組み立て方を再考せよ/「五〇歳」はチェック・ポイント/これからも食える資格、食えなくなる資格/最恐の二極化etc.

その二 やはりお金は軽視できない
お金は大切/自分の値段/クビになったら

その三 国家は遠い存在ではない
国家と人の生命/「言語」というもの/インテリジェンス的ウクライナ情勢予測/ウクライナ新政府の正体/社会情勢は知っておかねばならないetc.

その四 いまだからこそマルクスが役に立つ
いまの経済状況の理解にはマル経が必須/給料はなぜ上がらないのか/中間組織とファシズム

その五 何を学んでおくか?
古典は学びの宝庫/上手な勉強の仕方/小説は学べる/生き残りのための読書/社会人になって学ぶ意味

その六 やはり持つべきものは 友達

そもそも友達とは?/自分も相手も負担にならない会合/人間関係に利害が絡むと……/最後は友達力etc.


雲の図鑑 (ベスト新書) 岩槻 秀明 (著)

 高校の頃から空を見るのが好きなのだが、雲の生成過程や、雲の形によって空がどんな状態なのかを推測するという知識が全然なかった。そこで、複数の本を比較してみたところ、本書が一番よいと感じた。なお、選定基準として、持ち歩きができて、いつでもすぐに目の前の雲がどんな雲なのかを調べることができる、というのがあったことを付け加えておこう。

 種類やその生成過程や構造についてはそれほど詳しく解説をしているわけではなく、具体的な形状の雲についての解説がほとんど。音訓が激しく入り混じる雲の呼び方一つ一つに読み仮名がついていたり、ハンディな新書版なので、外出時に使いやすいというのが好印象だった。また、巻末の方では雲以外に風や雷などの他の自然現象についても軽く触れられているのも、自分には興味深かった。