2016年12月31日土曜日

2016年の読書

 今年の読了本は193冊。昨年の読了本は140冊。今年は「この一冊」を選びきれない。これは理解が浅薄であることを昨年以上に痛感し始めていることによるもので、その原因は、やはり友人達のお陰。自分の理解が、いかに浅いかということを自覚させられることしきり。というわけで、来年は冊数の目標はあえて立てずに、質的な充実を目指します。

 来年も1ヶ月10冊、120冊を量的な目標としつつ、1カ月に1冊は「これ!」という本を精読することを課題とする。だから年末には少なくとも12冊は、その内容について自信を持って語れる本ができてなくてはいけないってことになる。やっぱ読んだ本について、読んでない人にツッコまれて返答できないってのはカッコ悪いよね。

 そんな中、まぁ、今年読んで面白かったよ?と、おずおずとオススメするのが以下の5冊。

[地政学で読む世界覇権2030]
アメリカは偉大であり、でもそれはアメリカ人がエラかったからではなく、アメリカの国土が持つ地政学的な性能にのみ拠っているという、一見、トンデモな知見を、古代から現代までの文明の発展において地理が果たした役割を抽象しながら展開する本。さらには未来予想も、やっぱりアメリカだけがグレートと声高に主張している。この人にかかれば、別にトランプに頼らなくてもアメリカサイコー、ということになる。


[感情で釣られる人々]
感情が理性に負けてしまうトホホな局面に関するハウツー本かと思ったら、感情をダシに、うまく操られちゃってる我々の現状についてだった。バタイユを視野に入れながらの議論ということで、ちゃんと読まなきゃと思ったが、本書の白眉は理性的な文明人でいるための手法としてGTDを取り入れていること。その一事を以て姜尚中なんかが帯で本書を絶賛してるが、それはセンセー、ちょっと勉強不足カモです。


[リスク・リテラシーが身につく統計的思考法]
お師様からお借りした本。統計には全く弱いのだが、本書が主張するのは%が出てきたら具体的な数字に置き換えて考えるとダマサれにくくなるよということ。


[憲法の無意識]
日本人が憲法に対して無意識に持っているものは明治時代ではなくて江戸時代でしょ、という本。「先行形態」について学ばせてもらったのが大きい。また、カントの「永遠平和のために」で述べられている、ある意味恐ろしいほどの現実主義的な視点も勉強になった、とかって言わないで、原典にあたれって話か(笑)。


[ウルトラマン・デュアル]
札幌図書館一番ノリで読んだ。円谷プロのウルトラマンワールド多角化の尖兵と言える、老舗早川書房とのコラボ企画第2弾。短編集だった前作とは違い、本書は読み応えのある書き下ろし長編。

金子監督の平成ガメラが成功をおさめたのは、それが単なる怪獣パニック映画だったのではなく、自衛隊を中心に、人間社会の反応をシミュレーション的に描いて見せたのが大きな要因の一つだと言われているが、本作もそれに近い。苦悩しつつギリギリの妥結点を探る官僚達のやり取り。簡単になびく国民感情やレジスタンス。「いじめ」のメタファーでもあるヴェンダリスタ星人の地球人支配。戦闘地域を一歩でも出たら、ウルトラマンであっても自衛隊は攻撃せざるを得ないという切ないバランスゲーム。この辺りの重たい政治シミュレーションを読んでいると、脳天気なフツーのウルトラマンのストーリー展開がありがたく思えてきて戸惑った(苦笑)。ちなみに、そう考えると、やはりシン・ゴジラのバランス感覚はすごいということなのかも。ちょっと最後のカタルシスに欲求不満が残るが、最近、面白さを増してきている円谷陣営の動きを知っておくという意味でもオススメ。

2016年11月6日日曜日

エデン (ハヤカワ文庫SF文庫) スタニスワフ レム

 高校の頃、立て続けにレムを読んでいた時期があり、本書もハードカバー版(しか当時はなかった)で読んだはずなのだが、全く内容を覚えていなかった。スタニスワフ・レムは何度か映画化された「ソラリスの陽のもとに」の原作者で、ポーランドのSF作家。人間の価値観や思考体系を超越した異星の生命体との邂逅をテーマにした「ファーストコンタクト三部作」で世界的に有名になった。本作はその第1作目で、この後に「ソラリス」「砂の惑星」が続く。

 惑星エデンへの不時着を余儀なくされた宇宙飛行士たち。面子はコーディネーター、サイバネティシスト、ドクター、物理学者、化学者、技術者の6名。幸いにもエデンの大気構造は地球と似たものだったので、宇宙船の修理と並行して、限られたリソースを有効活用してエデンの探索を開始する面々。精巧な人工構造物が発見され、明らかに高度にオートメーション化された「何か」の生産プロセスが稼働しているのだが、工場の中には、なかなかにグロい有機生命体の死骸が累々と積み上げられていた。他にも、荒涼とした大地に生息する悪臭を放つ樹木(のようなもの)、空を飛ぶ哨戒機のような物体などが6人の前に出現する。正直言って、それぞれがどんな事象なのか、把握するのに骨が折れた。頭が固くなってるからかな。

 それにしても6名の宇宙飛行士は、まさに人類の知性を代表したかと思えるほど知性的で忍耐強い。

2016年9月24日土曜日

秘録 CIAの対テロ戦争――アルカイダからイスラム国まで – マイケル・モレル (著)

 CIAの長官代行まで務めた叩き上げのスタッフによる回顧本。網羅されているのは9.11、アルカイダ〜イラク戦争からスノーデン、ISまで。大統領へのブリーフィング担当を務めた著者の体験による関係者の言動は、ある程度割り引いて読んだとしても面白い。

 自分の中でのCIAというのは、いわゆる映画(それもアクション映画)に出てくるイメージがほとんどなのだが(中には「アルゴ」みたいなのもあるけど)、CIAだって官僚的組織なわけで、実際はこんな感じでやってます〜というのが、ある程度の説得力を以て描かれている。だが、本書で書かれているのは、表沙汰にして問題のない(あるいは既にバレてる)部分だけだろうし、しかも言及されていること全てが快刀乱麻を断つように明快にまとめられているというわけでもない。

 例えばイラク戦争。開戦前には大量破壊兵器の有無が焦点となり、そのレポートはCIAが作成した。本書や他の本でも触れられているように、当時のCIA長官のテネットが大統領に「(大量破壊兵器があるのは)スラムダンク(確実)」と言ったというのは、かなり有名なエピソードなのだが、本書では、それは事実だったとした上で、そのレポートが適切性を欠いていたとは認めている。ただ、なぜ、そのようなレポートができあがることになったのかという経緯があまりにも細かすぎる。「レポートの執筆担当者が帰宅した後に、別の分野の専門家が全体を勘案しないままの一文を追加して、そのことを他の者に伝えていなかった」ために、そのような報告書が出来上がってしまった、というのだが、こうなると最近頻出している国内不祥事の言い訳のようなうさん臭さが漂う。

 疑ってばかりでもつまらないので、ある程度素直に読み進めるならば、アメリカは、多分、我々が考えている以上に「世界の警察」としての責任を自覚しており、それを法治国家の枠組みの中で遂行する努力を放棄してはいないという姿が見えてくる。法の執行時には裁判所の令状が必要なのと同じように、CIAの活動は議会の監視下にあり、その承認には相応のプロセスが必要であり、大統領の認可が必要というのが本来のルールであることも分かった。

 だが、本書を読んでいて著者のあざとさが見え隠れするように感じるのは、自分が著者のことをCIAの副長官まで務めた人間だからと身構えるあまりの下衆の勘繰りだろうか。
 結局、関係者自身による回顧本というのは、書かれた内容をそのまま鵜呑みにすることはできない。ただ、こういうアメリカ関連のテーマは、ボブ・ウッドワードをはじめとした様々な立場の人たちが取り上げている。登場人物も重複してくるわけで、複数の本を読んで、そこから読み解くと、また浮き彫りになってくるものがあるだろう。

2016年9月3日土曜日

ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 (幻冬舎新書) 東 浩紀, 大山 顕

 「ショッピングモールは世界中で普遍的な、新たなコミュニティ形態の最先端の実験場」との見立てで行った対談集。

 「モールは、コンパクトシティの理念をもっとも正確に実現している。逆に言えば、コンパクトシティというのは、じつは市街地全体をモールにするという発想なんですよね。 (P39)」
 「要するに、ショッピングモールは、「人間にとって最適な環境をどうつくるか」というひとつの実験場だと思うんです。(略)しかも、国や地域の文化に影響を受けない実験場であるという部分が、とくに面白いと思うんですよね。どんな文化でも受け入れてくれる。 (P240)」

 ただし、あくまでも対談で「色々な視点で見てみる」という域を超えているわけではない。自分としては「ショッピングモールを地元の商店街に対する悪としてしか見立てないのはおかしい」という問題意識こそが、本書を読んだ一番の収穫。

 なお「先行形態」についての言及があり、同時期に読んでいた柄谷行人の「憲法の無意識」でも、結構重要な概念として紹介されていたので、奇妙なシンクロを感じた。今風に言えば「セレンディピティ」ってやつですか。

 ちなみに、本書のベースとなっているのは「ゲンロンカフェ」なる場での対談だったらしいが、こういう面白い催し物を札幌でも盛んにしたいなあ。ついでに出版までできたらいいなあ。

2016年3月14日月曜日

東京消滅 - 介護破綻と地方移住 (中公新書) 増田 寛也 (編集)

 昨年、日本中(特に行政関係者)に大きなインパクトを与えた「地方消滅」。その後、「地方消滅ー創生戦略編」と続き、本書は第3弾。中公新書の増田本は、セガールみたく「沈黙」ならぬ「消滅」でシリーズ化するのかと思ってしまうほど「消滅」づくし(笑)。

 東京圏における75歳以上の後期高齢者(≒要介護者)が今後、急増するが、それに対応できるだけの病院、介護施設がない。建設するににも大変なコストがかかる。
 「現代版姥捨て」との批判があるCCRCだが、「東京のツケを地方にまわすな」という捉え方ではなく、積極的にその組み立てに乗ることによって地域創生のポジティブファクターにすることができるというのが本書の主張。例えば杉並区はコストを負担して南伊豆町に介護施設を作っている。北九州市長も積極的な受け入れ(アクティブシニアだけど)をいち早く宣言した(しかし北九州市は色々と活発だなあ)。早く手を上げて連携すれば、地方サイドとしても医療・介護施設の建設コストを首都圏サイドに負担してもらい、人口も増え、また、そこに従事するので若い人の仕事も増えますよねという青写真。

 北海道なら北見や帯広が、施設(病床)的には比較的余裕を持って高齢者を受け入れられると分析しているのが興味深い。全国でそういった地域が41紹介されている(もちろん「現在は」ということで)。函館も入っており、新幹線開通と相まって、効果的な連携ができるのではないかと思うが、函館市でそういう議論は進んでいるのだろうか。

 でも、あれですね、中央からきれいな青写真を提示されて、それは、まぁ、よく考えられてて(色んな意味で)結構なんだが、つい警戒して身構えてしまう部分もある。だからと言って反対のための反対をしても不毛なので、地方である僕らの側から、よく考えられた提案ができないものかな。

2016年3月13日日曜日

アシェンデン―英国情報部員のファイル (岩波文庫) モーム (著)

 イギリスのスパイだったモームのどストレートなスパイ小説。短めのエピソードで構成されており、読みやすい。007みたいななアクションシーン等はほぼ皆無。作中でも言及されているが、スパイの「活動の大半は地道で退屈なもの」。しかも、本書の内容はモームの実際の諜報活動に近いということが注釈から分かって一層興味深い。中には、こんなエキセントリックな奴はおらんだろというような人物も登場してくるが、実際にいるんだよねえ、冗談みたいに変な人って。

 アシェンデンの淡々とした諜報活動や、その冷徹な上司(結構人でなし)とのやり取りからイギリスという国が少し垣間見えるような気もするが、これは自分の勝手な妄想かも知れない。ちなみに、このアシェンデンは、手嶋龍一さんが「ウルトラ・ダラー」などで描く、同じくイギリスのスパイであるスティーブンに重なるような印象も少しある。

 それにしてもケイパー夫妻のお話、第10章「裏切り者」は切ない。メチャ切なくて泣けます。

お静かに、父が昼寝しております―ユダヤの民話 (岩波少年文庫) 母袋 夏生

 まずタイトルに惹かれ、次に「ユダヤの民話」というのに惹かれたのが読もうと思った動機。

 「民話」というのは、神話的なグロテスクさを持っていて、不条理だったりするケースが多い。本書に収録された短い民話たちも、そういった要素を色濃く持ちつつも、他の国のものとは違った教訓だったり処世術が入っているのを感じた。大抵は表題作のように、教えを守って真面目にやっていれば報われるというパターンが多いのだが、中にはキツネとオオカミの話のように、狡猾な智恵を使って他者を陥れて自らが利を得ることを是として描いたものもあり、その根底には「騙される愚かさが悪いのだ」とする価値観があるように感じる。果たしてそれが「ユダヤ」民族の特性なのかどうかは分からないけど。

 多くの中短編を締めくくる最後のパートは、神による世界創生から楽園追放、アベルとカイン、そしてノアの方舟という、創世記の話。どれも断片的あるいは間接的には聞いたことがあるが、きちんと読んだことはなかったので、本書で読めたのはラッキーだった。ダイジェスト的なまとめ方ではあるが、未読なら、この部分だけでも面白いはず。ちなみに、その壮大なスケール感に、手塚治虫の「火の鳥」を思い出した。

2016年3月7日月曜日

ユービック (ハヤカワ文庫 SF) フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 (翻訳)

 「ユービック」は「ユビキタス」から。どこにでも偏在する。本書の中では邪悪な力に対抗するスプレーというのが最終形態。「邪悪な力」と言われると「聖なる侵入」の基本プロットだったりするのか?とも思うが、ディックにとっては根源的な概念の一つなんだろう。

 エスパーと、その力を中和するアンチエスパー。共に会社があるのだが、本書ではアンチエスパーの会社側が描かれている。社長のランシターと試験技師のジョー・チップ、そしてアンチエスパー達。彼らはビジネスとして月に出向くが、それはエスパー側の罠で、一同は仕掛けられた爆弾で吹っ飛んでしまい、社長であるランシターは、コールドスリープによる応急処置も間に合わず、死んでしまう。その後、アンチエスパー達が次々と不可思議な死を遂げる事態が発生する。

 最近、ヴァリス系を読んでたこともあり、何てまとまなSFだろうとホッとした(「高い城の男」も自分的にはまだピンと来なかったので)。ついでに言えば本作は市立大のお師さんがディックの中で一番好きとおっしゃっていることもあって、少し気合を入れて読んでみたのだけど、自分的にはディックのベスト、とまではいかなかったというのが正直なところ。とは言え、ランシター、ジョー・チップをはじめ、アンチエスパーの面々がそこそこ個性的。加えて、クローズアップされる何人かは、いわゆる「キャラが立って」いて面白い。また、自分達は本当に生きているのかどうか、存在基盤が揺らぎ始める中盤以降のゾクッとする感触はディックならではだし、SFならでは。なお、本書も高校時代に読んでるのだけど、全く覚えていなかった。

2016年2月27日土曜日

多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE) – 山本 弘 (著), 小林 泰三 (著), 三津田 信三 (著), 田中 啓文 (著), 藤崎 慎吾 (著), 北野 勇作 (著), 酉島 伝法 (著)

 7人の作家によるウルトラ作品アンソロジー。ウルトラQ、マン、セブンまでが範囲というお題とのこと。

 本書もそうだが、円谷プロの動きの多様性には期待できる。つい最近までテレビでやっていた「ウルトラマンX」は久々の良作だった(ただし設定やらギミックに関しては既視感が強く、仮面ライダー陣営の後塵を拝すること甚だしいと思う)。また、少し前になるが「ウルトラQ dark fantasy」、「ネオ・ウルトラQ」、そして今も続いているコミックの「ULTRAMAN」など、大人向けな世界観の作品も発表し続けている。子ども向け番組ではまだ試行錯誤をしている印象だが、それ以外の分野では結構、伸び伸びと遊んで世界を広げているような印象だ。
 「SFマガジン」の早川書房と円谷プロがタッグを組んで、こんな本を出していたとは知らなかった。まずは第1弾ということで、今後の動きも楽しみ。

「多々良島ふたたび」 山本弘
 ウルトラQとウルトラマンのクロスオーバー。皆が「似てるけど?」と思ってたピグモンとガラモンのつながりの解釈が秀逸。ウルトラ世界の設定を活かした真っ当なSF作品。

「宇宙からの贈りものたち」 北野勇作
 ベースはウルトラQの「宇宙からの贈りもの」だからナメゴン。ちょっと不思議な前衛舞台劇を見ているような構成ではあるが、あまり印象が強い作品ではなかった。

「マウンテンピーナツ」 小林泰三
 初代マンがベースだが、変身するのはギャル。怪獣を攻撃するなという世界的な武装環境保護集団「マウンテンピーナツ」がお話の主軸。
 でも設定がちょっと雑で、「国政世論を味方に付けてる」というだけで、このマウンテンピーナツは機動隊や自衛隊に発砲するわ、ウルトラマンにミサイル撃ちこむわ、やりたい放題。言動の身勝手さを強調することによって、彼らへの討伐を正当化するのが意図なのかも知れないが、それがあまりにも現実離れしていれば興ざめ。ちなみに本作品は、そんなマウンテンピーナツを「絶対、許せない!」と攻撃しようとする人間としての主人公と、不介入を貫く超越存在としてのウルトラマンという対立的構図がテーマ。
 ただ、この人の作品って、何か物足りなさを感じる。「AΩ」でもウルトラマン的な存在が出てくるのだが、今ひとつだったし、本作でもその印象は変わらなかったのが残念なところ。

「影が来る」 三津田信三
 ウルトラQの「悪魔ッ子」がベースで、出てくるのもウルトラQでお馴染みの面々。ホラー作家によるものなので、それっぽいテイスト。

「変身障害」 藤崎慎吾
 セブンをベースとしたスラップスティックコメディ。「ウルトラアイを使っても変身できなくなった」との悩みを、街で評判のカウンセラーに相談に来るモロボシダン。そこにメトロン、イカルス、ゴドラ、ペガッサ、チブルスが絡んできて...という話。。途中からオチが薄々分かるけど面白い。ダンも歳を取ってるという設定なので、是非、実写でやってほしい。

「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」 田中啓文
 「怪獣類足型採取士(国家資格!)」の孤軍奮闘を描いた、本書の中で一番好きな作品。「怪獣が日本にだけ現れるのは、生物兵器として日本政府が怪獣を餌付けしているから」という解釈が斬新。ただ、この辺りの陰謀論が本作の主軸ではない。センス・オブ・ワンダーなSF感も本書の中で一番強い。

「痕の祀り」 酉島伝法
 怪獣の死骸を処理する現場を描いているのだが、正直、あまり分からなかった。

2016年2月21日日曜日

仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男 (竹書房文庫) 大下 英治 (著)

 原作者を除けば、仮面ライダー(昭和)といえば平山亨、アニメでは西崎義展の名前を聞くことが多い。本書は営業畑にいた渡邊亮徳を追ったもので、この名前は初めて知った。
 亮徳さんがすごいのは、仮面ライダーの企画の産みの親であり、仮面の忍者赤影、ゲゲゲの鬼太郎、マジンガーZ、ゴレンジャー、キャンディキャンディと日本の特撮アニメの企画に携わり、果ては牙狼の立ち上げまでやった人ということ。仮面ライダーを生み出したのは石ノ森章太郎だが、特撮ものの新しい番組をやろうと発案し、石ノ森章太郎に声をかけたのが亮徳さん。さらに、後にスカルマンとして世にでることになるデザインを周囲と調整し、受け入れられなった後に、バッタをモチーフにしたあのデザインが出るまで石ノ森、平山と試行錯誤を行ったのもこの人なのだ。

 最初に営業として「こんな番組をやろう」と発案するだけでなく、どんな世界観でいくか、とかコンセプトまで考える。また、鬼太郎やドラゴンボール、セイラームーンなどのアニメ化に際しては、発掘から周囲の説得も彼の仕事。携わった番組の数が多いこともあり、本書においては比較的淡々と彼の足跡が描かれている。

 アメリカのスタン・リーとも交流が深いらしく、自分が子供の頃に放映された特撮版スパイダーマンの企画も亮徳さんなら、レオパルドンという巨大ロボの設定をアメリカ側に認めさせたのも亮徳さん。いやぁ、面白い、すごい人だ。

 牙狼(今はアニメ版やってる)は、雨宮慶太が全てを創りだしたと思っていたのだけど、実はこれも亮徳さんが雨宮監督を見出して作らせた作品だったことを本書で知った。映画版ハカイダーを見て雨宮監督の才能を評価し、仮面ライダーやウルトラマンに続く新しい日本のヒーローを創造するように話を持ちかけたのも亮徳さん。黄金騎士というコンセプト、神仏を取り入れたデザインコンセプトまでが亮徳さんで、狼をモチーフにした具体的なデザインから後が雨宮監督。
 ちなみに、もし、牙狼はどれを見ればいいんだと迷っている方がいたら、「暗黒魔戒騎士編」を見てから「MAKAISENKI」というのがおススメです。今、リアルタイムでやってる「牙狼 -紅蓮ノ月-」は設定も登場人物も時代までもが違う話なので、ここから入るのもアリです(余計なお世話)。

 面白い作品では原作者や監督など、現場のクリエイターがクローズアップされることが多いが、スポンサーを含め、やはり多くの人が関わってこそなのだなということを本書を読んで実感した。ただ、本書はあくまでも渡邊亮徳という個人の軌跡に焦点があたっているので、業界全体での動きが分かるような作品も読んでみたい。同時代に西崎義展や徳間康快、角川春樹などの傑人も色々といたわけで、その辺りの関係性なんかまで分かると面白い。

火星にいった3人の宇宙飛行士 (RIKUYOSHA Children & YA Books) ウンベルト エーコ

 今月(2016年2月)19日にウンベルト・エーコが逝去した。「薔薇の名前」の映画でしか彼のことは知らないのだけど、たまたまタイミングよく、この絵本を1ヶ月ほど前に読んでいた。実際は、そろそろエーコも読みたいけど難しそうだから絵本からアプローチしてみようと思ったのがきっかけ。

 お話のプロットはタイトルの通り。3人の火星飛行士はアメリカ、ロシア、中国。最初はお互い、半目し合っているが、孤独感の中で連帯していく。そんな彼らの前に火星人が出現し、3人は団結して対峙しようとする、というお話。

 同じ状況下で想起される感情が同じである時、理屈抜きで無条件で通じ合うことができ、それが相互理解を促進するということか。

 絵本というのはサラッと読めてしまうのが曲者と言えば曲者。それにしても...何、この絵?子供向けの本でこの絵はかなり強烈なインパクトを与えるんじゃないかな。それを狙ってるんだろうけど。

2016年1月17日日曜日

9割のめまいは自分で治せる (中経の文庫) 新井 基洋 (著)

 Geonova(知る人ぞ知る)やってた頃から、時々目まいで立ち上がれなくなることがある。もともと耳が弱点の一つで、かつては突発性難聴なんてのもやったことがあるのでそれも関連しているんじゃないかと思う。めまい外来にも行ってみたけど、どうも要領を得ない。

 たまたま目にした本書。こう言っては失礼だが意外な良書でした。いや、まだ読んだばっかりなので効果は最終確定ではないんだけど、目まい用の訓練が数分でできるようなメニューで紹介されてるし、その解説や、どんな目まいに有効かというのが書かれているのもありがたかったりする。

 目まい外来に行った経験者なら分かると思うけど、目まい体操みたいな手軽なリハビリ運動の図表なんかをもらう。本書も、それに似てるけど、動きの解説が分かりやすく書かれているし、症状に応じたメニューの分類があるのもよい。目まいの場合、(何に由来するかにもよるけど)完治はないから、どう付き合っていくかが大事という主張を最初にきちんとしているのも好感が持てる。

 目まいで苦しんでる人がいたら、一読をおススメします。

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫) オルダス ハクスリー (著)

 完全な管理体制が出来上がった未来の世界。人間は受胎によらず、遺伝子操作で生まれてくる。最初から社会的ヒエラルキーのどこに属するかも決定される完全な階級社会。しかも生まれた後の睡眠学習によって、自分が属する階級を素晴らしいと信じこむようにインプリンティングされるため、社会的な不満は皆無。私的所有は争いの火種となり、忌避されるためフリーセックスの世界。嫌なことやネガティブな感情が出てきたらソーマ錠という薬で多幸感を得る。

 ディストピアSF小説の古典だけど、実は初めて読んだ。1932年発表だけど古臭さは皆無。体制側の理屈にはかなりの説得力がある。しかも、その管轄者が、ちゃんと文化だとか選択のある自由の代償として、この文明形態を採った根拠や思想を自覚した上できちんと選択しているというのも盤石感、ハンパねっす。でも、そんな世界は、やっぱりイヤだよねえと感じている自分の心情(信条?)ってのは、じゃあどの程度のものなのかという不安感を呼び覚まされた。

 ハックスリーは「知覚の扉(未読)」なんて本も書いてるから、ディックみたいにラリった内容かとおもったけど、そういうことは全然なかった。


2016年1月11日月曜日

ヘッテルとフエーテル 本当に残酷なマネー版グリム童話 マネー・ヘッタ・チャン (著)

 まずはタイトルが面白い。内容も童話から意匠を借りたものとなっており、主人公であるヘッテルとフエーテルに加えて、アホ・スギン・チャン、ヤンデレラなる登場人物も。何か、もう、これだけでバカバカしく面白そうでしょ?1話1話が短い寓話となっており、それらは巷間に横行する様々な詐欺的手法がテーマ。仮想通貨やマルチ商法、政府のNTT株公開の話から法律事務所の過払い金の話など。

 個人的には各話の最後が「銀河英雄伝説」のパロディというその一点だけで本書が好きになった(安直)。意外にも巻末の参考文献が充実している。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え 岸見 一郎 (著), 古賀 史健 (著)

 ベストセラー。読んでみたところ、衝撃の内容だった。
 幼少期から漠然と感じていた、常識や一般通念に対する違和感について明瞭化してくれていたというのが大きな理由。もちろん、それまで自分にはなかった考え方を教えられた部分も大きい。
 対話形式という本書の構成に、最初は戸惑いを感じていたが、いつの間にか引き込まれていたし、最後はちょっと感動までした。

 いつかどこかで読んだような部分も多く、アドラー心理学ってのは、これまでに読んできた自己啓発本やらスピリチュアル本のネタでもあるのだな。ハクスリーの「すばらしい新世界」でも言及があったのには驚いた(アドラーは1937年没、「すばらしい新世界」は1932年発表)。


21世紀の自由論―「優しいリアリズム」の時代へ (NHK出版新書) 佐々木 俊尚 (著)

 あれ?佐々木さんって、こんなに独断的な論調だったっけ?という印象。「レイヤー化する世界」での主張と基調は変わってない。それについては面白い視点だと思うし、同意できる部分も大きいのだが、そうなると本書の存在意義は?タイトルにある「自由論」というのが果たしてミルを意識しているのかどうかは知らないけど、総括の仕方が独断的で根拠が弱い。観念的な表現にしても、何となくわからんでもないけど、もっときちんと説明してよ、という気がする箇所が多い(「ネット共同体は水平展開だから上下関係がない」という表現など)。

 帯が「佐々木俊尚の新境地!」とあるが、本書のようなおかしな書き方がデフォルトにならないよう切に願う。


小説 仮面ライダーフォーゼ ~天・高・卒・業~ 塚田 英明 (著)

 今ではすっかり人気俳優になった福士蒼汰のデビュー作がこのフォーゼ。ライダーが宇宙船フォルム?高校生活が舞台?ツッパリ君が主人公?数多くの(自分にとっての)不安材料を抱えてスタートしたフォーゼの第1話を見た時に、その世界観の作りこみに感動して目頭を熱くしたものだった。

 本作は、そんな弦太郎達の卒業式を巡る一大騒動。なでしこ(のモデル)も出てくるし、ヴァルゴによってダークネビュラにトバされたゾディアーツ達もきちんと回収されて、まさに大団円にふさわしいと言える構成。フォーゼファンなら読んで損ナシ!

 しかも、今までの小説仮面ライダーの中では描写力、構成力、いずれもがベストな出来。弦太郎が教師の道を目指すきっかけが明かされるだけでも価値があるのに、そこに、挫折まみれにして本編では回収されなかったゾディアーツ、園ちゃん先生が絡んでくるというプロット。ちゃんと適役、脇役にもスポットライトをあてて、皆にきちんと目配せをしている。そういう視線こそが、実はフォーゼらしさの極みなわけで、なかなかに泣ける、秀逸な出来だった。