2015年11月28日土曜日

本をサクサク読む技術 - 長編小説から翻訳モノまで (中公新書ラクレ) 齋藤 孝 (著)

 20分程度で流し読み完了。知っている分野だと読書スピードが上がるというのはこのことか。相変わらずの読みやすさ。平易な語り口に、ところどころに太字での強調というのも読みやすさの一助。

 内容としては正統派で、変化球がちょくちょく混ぜ込んである。速読法ではなくて、読書についての心構え。「本を読む本」や花村本、佐藤優本、あるいは「多読術」で語られていることに通じるものも散見される。ところどころ、具体的な書名を挙げて、読書案内している箇所もある。「理系の思考法を身につけるためにデカルトの方法序説を2〜3ヶ月は持ち歩いて馴染めば、理系本がサクサク読めるようになる」などというのも面白い。

 なお、本書は中公新書ラクレということもあり、読書への入り口案内という位置づけの本であり、本を贅沢に、美味しいところだけしゃぶしゃぶと食べかじればいいよ、というのが基本スタンスなので、さらにツッコンだ読書法ということになると、先に挙げた本に進んでいくのがよいと思う。

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか (ちくま新書) 山下 祐介 (著), 金井 利之 (著)

 山下氏の前著、「地方消滅の罠」は増田レポートをターゲットに、批判と言うより批難しつつも、安倍政権は評価するという内容で、全体的な印象は芳しくなかった。市立大のお師匠さまに言わせると、ベストセラーの寄生虫的な本で、著者本人に学会で会った時に具体的な数値の根拠を尋ね、それについての問題点について話をしてみたら口ごもって、明確な答えは聞けなかったとのこと。

 そんな著者が、このタイトルで出してきたので、またかという感じで目を通してみたら、意外と面白く読み進めた。対談者の金井氏によるところが大きいのかどうかは分からないが、現在、政府が推進している「地方創生」の魂胆を性悪説に立って批判的に捉えつつ、そのような力学が国と自治体によって構造化してしまっていることについて言及しているのが面白い。金井氏が一種マキャベリズム的な護憲の発想で政府や自治体を性悪説で捉えているのに対して、山下氏が現場のスタッフに同情的であるというのも面白かった。

 とは言え、この面白さは、ちょっとインテリなオッサンが居酒屋で談義しているレベルを出ていない。

 「(金井)従属を甘受して直視できる覚悟は「敗戦」を「終戦」と呼びかえるこの国の人々にはありません(P157)」

 「(金井)国とは権力を行使したい人間の集まり(P183)」

 「(金井)誰も主体的には意思決定していないわけです。これは丸山眞男が言う無責任体制です。(略)(その)体制自体が一つの統治構造です(P213)」

 「(金井)地獄への道は善意で敷き詰められている(P236)」

 などなど。面白そうではあるでしょ?こういう話を居酒屋談義ということで面白く聞いている分にはよいが、それ以上のものではないというのが読後感。

2015年11月8日日曜日

ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方 伊藤 洋志 (著)

 「ナリワイ」とは、少額の仕事を複数本こなすという考えで、自分の生活と一体化させることを前提として話が組み立てられている。これは、フリーランスとは違う、非バトルタイプ向けのポジショニングを保つために必要な条件だったりする(バトルタイプは次々とライバルとの競争に競り勝って仕事をゲットするというイメージ)。
 自分が生活の中で生じる不便や矛盾。その解決を仕事にしていますのがナリワイで、それは自分の生活に密着しているが故に、まずは自分自身にメリットがあり、同じことを感じている人の間で商売や連携が成り立つ。

 「要は『なんでもいいから自分でサービスを考えて誰かに提供すること』を試行錯誤すればい」(P145)

 最近、続けて読んでいるこの分野の本では、論旨がかなり重複している(amazonの「関連本」によって誘導されているのかも知れないけど)。ザックリとまとめると

時代が変わる / 組織に寄りかかった従来の労働は大きく変動する / 資本主義のパラダイムの見直し

 → おカネ至上主義からのシフト
 → 専門性を持った仲間同士のゆるやかなネットワークによるタスクフォース的な業務フロー

 という感じか。これは、「フリーエージェント社会の到来(←自分にはイマイチ)」だったり「ワーク・シフト(←なかなかいいけどキビシ〜!)」でも共通していた。本書は、それを日本の風土に合わせてアレンジしたのか、それとも非同期で内発的に出てきたのか。まぁ、「これまで通りの働き方で問題ないよ、いけるよ」という本を出しても説得力がないし、売れないので、ある意味、こんな本が目立ってくるのは必然なのかも知れない。

 適当にななめ読みしてつまみ食いという感じで読み始めたが、結構、引きこまれた。

 

2015年11月1日日曜日

地方消滅 創生戦略篇 (中公新書) 増田 寛也, 冨山 和彦

 著者の一人である増田氏による前著「地方消滅」が総論的なものであったのに対して、本書はかなり具体的に踏み込んだものになっている。

 本書は知事経験者である増田氏と、東北で経営者として活躍している(らしい)冨山氏との対談形式になっている。このためか、地方自治における実例や弊害についての言及が具体的で分かりやすい。例えば「必要なのは共働きで500万稼げる仕事(冨山 P37)」や、「首長が変わると議会がガラリと変わる(増田 P89)」などという発言はかなり具体的。また、悪しき平等主義のため、余裕があると「選択と集中」を実行することができない、というのもリアルなご意見。「北海道の農業は(略)可能性が開けている(増田 P49)」というのは道民としては嬉しい発言だが、あくまでも「可能性」だからね。

 中でも、例えばコンパクトシティという考え方について、日本では移住を強制できるわけではないとし、そのような強制移住ではなく、高度経済成長時代に拡散し過ぎた人口分布を適正値に戻すことによって、人口減少を前提として組み込んだ自治体の在り方を住民と共に作り上げていくというのは大事な提言であり、今後の日本の行く末をわがこととして考える時に、かなりの説得力を持つと感じた。ちなみに、コンパクトシティ政策が進んだ場合、近年顕在化している野生動物の侵食は拡大すると考えるべきだろう。

 自分にとって最も印象深かったのは増田氏の次の発言。「地方創生の戦略を考える上で、私が一番増やしたいと思っているのは、地域の大学が核になって、地域が本当に求めているニーズを汲み取り、解決する仕組みをつくることですね。(P156)」ただ、これを可能にしようと思ったら今の文科省の制御は変えていかないと実現は困難。

 実はこの本については、最近、大変お活躍(誤植じゃないよ)の増田氏が、対談形式という執筆の労を取らなくてよい形式で好きなことを放談してるんだろうということで軽視してたのだけど、対談ゆえに読みやすく、それでいて随所に二人の知見がキラリと輝いているといった印象で、自分としては読む甲斐のあった本でした。