2015年10月28日水曜日

地方創生ビジネスの教科書 増田 寛也 (著)

 日本の自治体における活性化の事例を、解説を交えながら紹介するという形式。各事例毎に、お上手にまとめた見開き2ページのチャート図が付いている。N総研に作らせたのか?(笑)

 興味深かったのが第6章の和歌山県北山村と第8章のニセコの事例。
 和歌山県北山村では、ブレイクスルーが役場内にいたITに詳しい職員の作ったホームページから始まったという。やはり、いくら民間にお金を流すためと言っても、何でも業務委託で外部に任せるより、内部で手を動かせるエンジニアがいた方がよいと思った。
 ニセコ町では、町が「まちづくり町民講座」を実施した。これによって町民の当事者意識が上がり、ニセコとしてのまちづくり条例の制定につながったという。ちなみにニセコ町は観光協会を株式会社化したという点でも有名。

 「地方でこそITを活用する余地が大きい」というのはお説ごもっとも。しかも、特に北海道の中小自治体にとっては有益でしょう。

 ただ、地方創生ビジネスの興し方や進め方についての理論的な解説がなかったのが期待外れだった。帯では「極意を公開」なんて著者のにこやかなご近影と共に掲げてるのだから。もっと自身の知見などを開陳して益田節を出しててもよかったのではないかというのがマイナスポイント。あんまり執筆に時間かけてねーなと感じてよく見てみると「監修・解説」となってました(笑)。なお、同じ著者による中公文庫の「地方消滅 創生戦略篇」は、この辺りについてもう少し詳しく語られていて参考になる。

2015年10月18日日曜日

チョムスキーが語る戦争のからくり: ヒロシマからドローン兵器の時代まで ノーム チョムスキー (著), アンドレ ヴルチェク (著), 本橋 哲也 (翻訳)

・今年の1月に元駐シリア日本大使による「報道されない中東の真実」を読んだ時、メディアの報道偏向が仕組まれているのを垣間見たような気がしてちょっと怖かったのだけど、この本で語られている内容はもっと怖かった。我々、西側陣営の人間は偏向したプロパガンダに慣らされており、その手法は大変洗練されたものになっている。一方、西側に所属しない陣営(ソ連、中国やイスラムやキューバ、ベネズエラなど)では複数のプロパガンダが共存している。しかし、そんなことすら我々は知らない。

「(ヴルチェク)自由でオープンで民主的であると自称する西側諸国は、かつてのソヴィエト連邦や現在の中国で作られるプロパガンダにアクセスもできなければ、それに影響されることもなかった。プロパガンダだけではなくて、ほとんどの西ヨーロッパやアメリカ合衆国の市民はソヴィエトや中国の人たちの世界観からの影響を受けていない。ほとんど何も知らないから彼らの世界観は一極的です。(略)一方、旧ソ連や中国の人は、昔も今も資本主義や西側の共産主義解釈に精通している。ということは、どちらがオープンで知識に恵まれているのか、ということですね。中国の本屋を覗くと、資本主義の文献もたくさんある。アメリカ合衆国やヨーロッパの本屋には共産主義中国の文献などまずない。(P71)」

 手軽な例では、ロシアの日本語ニュースであるSputnik日本語版(http://jp.sputniknews.com/)にアクセスしてみるのがよいと思う。プロパガンダだなとは感じつつも、日ごろ接しているのとは随分と違う視点があるのだということは実感できるだろう。

・本書の中で一番怖かったのは麻薬の話。「(チョムスキー)アメリカとしてはシチリアのマフィアと南仏のコルシカ・マフィアを(スト潰しのために)再興した。もちろんマフィアもただでは労働組合を潰さないから代価が必要だった。それがヘロイン産業のマフィア支配だった。これがかの有名なフレンチ・コネクションで、南仏からはじまって世界中に広まったのです。だからどこでも騒乱や転覆があると麻薬の売買がそれにつきまとうことには理由がある。よって、もしCIAがで政府を転覆して労働組合を潰すとかいうときには、まず必要なのは人、それから裏金、足のつかない資金ですね。それら揃えば世界中どこでもうまくいく。(P180)」

 余談だけど、初代ロボコップで悪役のクラレンス(マフィアのボス)がジョーンズ(オムニ社の幹部)に「人々が集まる。それを仕切りたくないか。麻薬への需要がすごいことになるぞ」と誘われるシーンを思い出した(うろ覚えだけど)。

・本書で言及されていることがらの幾つかは佐藤優本でも触れられていたので最後に少しリストアップしておく。

本書「(ヴルチェク)いまや搾取をあからさまにおこなっているのはフランスですね。アフリカじゅうでフランスが果たしている役割は信じられないくらいで、ジブチからソマリア、西サハラからリビアまでその行状は凄まじい。 (P167)」

超したたか勉強術(佐藤優)「フランスは西アフリカで石油やウラニウムなどの地下資源を巡って乱暴なオペレーションを展開している。(93.5% *電子書籍なのでページ数表示できない)」 

本書「(ヴルチェク)(ヨーロッパにおける)極右の台頭も当然だと思う。第二次世界大戦後にヨーロッパが世界の何千万という人を犠牲にして作り上げた、自己中心的な社会福祉システムの化けの皮がはがれてきたのです。 (P90)」

超したたか勉強術(佐藤優)「ネタニヤフ首相は、ここに来てヨーロッパにおける反ユダヤ主義という地金が出てきたことを察知したのではないか(94.1%)」

2015年10月12日月曜日

知的トレーニングの技術〔完全独習版〕 (ちくま学芸文庫) 花村 太郎 (著)

 「知的」を冠したハウツー本が数多く出回っている昨今、自分にとっては源流であり、真打ちと言える1冊。オリジナルは別冊宝島で1980年に出版されていた本書が、昨今のブームのおかげか、文庫本としてこの度復活。学生時代に引越しのドサクサで紛失していたので、復活を知って即買いでした。

 「本を読む」ということに限って言えば、佐藤優の「読書の技法」が具体的で役立つのだが、本書では、そんな技術が、読書に限らず、情報の収集から整理、私淑の心構えに至るまで、実践可能な具体的な手法として提示されている。さらには、それらの技術がゲーテや森鴎外、ポール・ヴァレリーなどによっても使われていた例を、彼らの日記などから拾い上げて紹介してくれる。刺激も受けるし、具体的なノウハウも見つけられるし、発想を柔軟にしてくれるヒントも散りばめられている。自分の中では、この分野のベスト3の1冊です。

 知的トレーニングの技術 花村太郎
 思考の整理学 外山滋比古
 知的複眼思考法 苅谷剛彦

【目次】
イントロダクション 知的スタート術

--準備編 知的生産・知的創造に必要な基礎テクニック8章
志をたてる 立志術
人生を設計する 青春病克服術
ヤル気を養う ヤル気術
愉快にやる 気分管理術
問いかける 発問・発想トレーニング法
自分を知る [基礎知力]測定法
友を選ぶ・師を選ぶ 知的交流術
知的空間をもつ 知の空間術

--実践編 読み・考え・書くための技術11章
論文を書く 知的生産過程のモデル
あつめる    蒐集術
さがす・しらべる 探索術
分類する・名づける 知的パッケージ術
分ける・関係づける 分析術
読む 読書術
書く 執筆術
考える 思考の空間術
推理する 知的生産のための思考術
疑う 科学批判の思考術
直感する 思想術

さまざまな巨匠たちの思考術・思想術 発想法カタログ

2015年10月10日土曜日

検証 「イスラム国」人質事件 朝日新聞取材班 (著)

・当時イスラム国人質事件に関わった国内外の朝日新聞の記者達が当時の記録や、その後の取材活動をまとめ上げたもの。総じて、官邸の対応については直接的な批判を避け、事実をして淡々と語らしめるという体裁を取っている。

・事件後に政府は有識者による事件お検証を行ったが、お手盛り感が強い。

・後藤さんと湯川さんがISに囚えられていることを知っていながら安倍首相が中東において挑発的と取られても仕方がない言い回しを不不用意にした。

・ISとの交渉に、ブラック感アリとは言え、パイプが強いトルコを頼らずにヨルダンを頼った。

・ISとの直接交渉は後藤さんの奥さんだけが行い、日本政府は一切関与しなかった。奥さんは、後藤さんが入っていた紛争地域に赴くジャーナリスト用の結構高い保険(1日10万程度で、掛け捨て)を使って、これも後藤さんが築き上げた人脈から、オーストラリアのコンサルタントに依頼して、ISとの交渉を行っていた。

・なお、ISから後藤さんの奥さんに宛てた最初のメールは迷惑メール扱いで気づかれなかったという。

【目次】
第1章 湯川さんの拘束
第2章 後藤さんのシリア入り
第3章 妻へのメール
第4章 中東の悪夢
第5章 翻弄
第6章 渦中のヨルダン
第7章 連鎖する死
第8章 幕引き