2015年5月31日日曜日

小説 仮面ライダーカブト (講談社キャラクター文庫) 米村 正二 (著)

 著者はカブトの脚本家。本書の基本的な構成はテレビ版カブトのあらすじをなぞったもの。天道と加賀美の出会いから最後の決戦までの流れをダイジェスト的に追っている。さらに、決戦後に、加賀美が旅に出たひよりを追って東南アジアを彷徨う話が追加されたという構成。

 テレビ版のストーリーを追った部分は、印象に残ったセリフを交えながら描かれてはいるが、表現が淡白な上に、紙面の都合なのだろうか、あまりにも盛り上がらず、「入れるべき要素をとにかく消化している」という印象。また、文章として読みづらい箇所も多く、脚本と小説は、作法が大きく違うものなのだろうと思った。天道や加賀美(親父も含む)よりも三島さんの心情描写が多いような気がしたが、これは著者の思い入れか。いずれにせよ、本編を見ていない人が本書によってカブトの世界を把握することは無理で、はもちろん、あらすじを把握することすら不可能だろう。

 追加部分である決戦後にエピソードについては、それまでの本体部分よりも小説としては読みやすかったが、加賀美の「東南アジア・青春ひとり旅」という内容でしかなく、ワームも全く関係ないので、「仮面ライダーカブト」という作品として、こういう話がなぜ必要だったのかというのが分からなかった。総じて、この平成仮面ライダー小説版の中では残念な読後感だった。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時 ロレッタ ナポリオーニ (著)

 イスラム国は、たまたまうまい具合に勝ち上がってきたテロリストが、ちょっとおだって(北海道弁)でかしたものだ、ぐらいに思ってた。本書を読むと、これまでの数々のジハードの失敗を教訓とし、新たなパラダイムを打ち立てるために、よく考えた上で周到にことを進めているのだという印象になる。
 イスラム国の動きは、近代国家の再定義を迫るものである。「従来のジハード集団から神話とレトリックを受け継ぐ一方で、国家建設という野望の実現に必要な現実主義と近代性を身につけている。」(P152)つまり、ちょっと調子にのったテロリスト集団、という領域をはるかに超えているのだ。
「イスラム国の第一義的な目的は、スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人にとってのイスラエルとなることである。」(P29)

「池上彰、渾身の解説!」というのは典型的なアオリ。本書の内容を上手にコンパクトにまとめたという程度のもの。ただし、それがなくても本書で提示されるイスラム国についての知見は十分に価値があると思う。