2016年2月27日土曜日

多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE) – 山本 弘 (著), 小林 泰三 (著), 三津田 信三 (著), 田中 啓文 (著), 藤崎 慎吾 (著), 北野 勇作 (著), 酉島 伝法 (著)

 7人の作家によるウルトラ作品アンソロジー。ウルトラQ、マン、セブンまでが範囲というお題とのこと。

 本書もそうだが、円谷プロの動きの多様性には期待できる。つい最近までテレビでやっていた「ウルトラマンX」は久々の良作だった(ただし設定やらギミックに関しては既視感が強く、仮面ライダー陣営の後塵を拝すること甚だしいと思う)。また、少し前になるが「ウルトラQ dark fantasy」、「ネオ・ウルトラQ」、そして今も続いているコミックの「ULTRAMAN」など、大人向けな世界観の作品も発表し続けている。子ども向け番組ではまだ試行錯誤をしている印象だが、それ以外の分野では結構、伸び伸びと遊んで世界を広げているような印象だ。
 「SFマガジン」の早川書房と円谷プロがタッグを組んで、こんな本を出していたとは知らなかった。まずは第1弾ということで、今後の動きも楽しみ。

「多々良島ふたたび」 山本弘
 ウルトラQとウルトラマンのクロスオーバー。皆が「似てるけど?」と思ってたピグモンとガラモンのつながりの解釈が秀逸。ウルトラ世界の設定を活かした真っ当なSF作品。

「宇宙からの贈りものたち」 北野勇作
 ベースはウルトラQの「宇宙からの贈りもの」だからナメゴン。ちょっと不思議な前衛舞台劇を見ているような構成ではあるが、あまり印象が強い作品ではなかった。

「マウンテンピーナツ」 小林泰三
 初代マンがベースだが、変身するのはギャル。怪獣を攻撃するなという世界的な武装環境保護集団「マウンテンピーナツ」がお話の主軸。
 でも設定がちょっと雑で、「国政世論を味方に付けてる」というだけで、このマウンテンピーナツは機動隊や自衛隊に発砲するわ、ウルトラマンにミサイル撃ちこむわ、やりたい放題。言動の身勝手さを強調することによって、彼らへの討伐を正当化するのが意図なのかも知れないが、それがあまりにも現実離れしていれば興ざめ。ちなみに本作品は、そんなマウンテンピーナツを「絶対、許せない!」と攻撃しようとする人間としての主人公と、不介入を貫く超越存在としてのウルトラマンという対立的構図がテーマ。
 ただ、この人の作品って、何か物足りなさを感じる。「AΩ」でもウルトラマン的な存在が出てくるのだが、今ひとつだったし、本作でもその印象は変わらなかったのが残念なところ。

「影が来る」 三津田信三
 ウルトラQの「悪魔ッ子」がベースで、出てくるのもウルトラQでお馴染みの面々。ホラー作家によるものなので、それっぽいテイスト。

「変身障害」 藤崎慎吾
 セブンをベースとしたスラップスティックコメディ。「ウルトラアイを使っても変身できなくなった」との悩みを、街で評判のカウンセラーに相談に来るモロボシダン。そこにメトロン、イカルス、ゴドラ、ペガッサ、チブルスが絡んできて...という話。。途中からオチが薄々分かるけど面白い。ダンも歳を取ってるという設定なので、是非、実写でやってほしい。

「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」 田中啓文
 「怪獣類足型採取士(国家資格!)」の孤軍奮闘を描いた、本書の中で一番好きな作品。「怪獣が日本にだけ現れるのは、生物兵器として日本政府が怪獣を餌付けしているから」という解釈が斬新。ただ、この辺りの陰謀論が本作の主軸ではない。センス・オブ・ワンダーなSF感も本書の中で一番強い。

「痕の祀り」 酉島伝法
 怪獣の死骸を処理する現場を描いているのだが、正直、あまり分からなかった。

2016年2月21日日曜日

仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男 (竹書房文庫) 大下 英治 (著)

 原作者を除けば、仮面ライダー(昭和)といえば平山亨、アニメでは西崎義展の名前を聞くことが多い。本書は営業畑にいた渡邊亮徳を追ったもので、この名前は初めて知った。
 亮徳さんがすごいのは、仮面ライダーの企画の産みの親であり、仮面の忍者赤影、ゲゲゲの鬼太郎、マジンガーZ、ゴレンジャー、キャンディキャンディと日本の特撮アニメの企画に携わり、果ては牙狼の立ち上げまでやった人ということ。仮面ライダーを生み出したのは石ノ森章太郎だが、特撮ものの新しい番組をやろうと発案し、石ノ森章太郎に声をかけたのが亮徳さん。さらに、後にスカルマンとして世にでることになるデザインを周囲と調整し、受け入れられなった後に、バッタをモチーフにしたあのデザインが出るまで石ノ森、平山と試行錯誤を行ったのもこの人なのだ。

 最初に営業として「こんな番組をやろう」と発案するだけでなく、どんな世界観でいくか、とかコンセプトまで考える。また、鬼太郎やドラゴンボール、セイラームーンなどのアニメ化に際しては、発掘から周囲の説得も彼の仕事。携わった番組の数が多いこともあり、本書においては比較的淡々と彼の足跡が描かれている。

 アメリカのスタン・リーとも交流が深いらしく、自分が子供の頃に放映された特撮版スパイダーマンの企画も亮徳さんなら、レオパルドンという巨大ロボの設定をアメリカ側に認めさせたのも亮徳さん。いやぁ、面白い、すごい人だ。

 牙狼(今はアニメ版やってる)は、雨宮慶太が全てを創りだしたと思っていたのだけど、実はこれも亮徳さんが雨宮監督を見出して作らせた作品だったことを本書で知った。映画版ハカイダーを見て雨宮監督の才能を評価し、仮面ライダーやウルトラマンに続く新しい日本のヒーローを創造するように話を持ちかけたのも亮徳さん。黄金騎士というコンセプト、神仏を取り入れたデザインコンセプトまでが亮徳さんで、狼をモチーフにした具体的なデザインから後が雨宮監督。
 ちなみに、もし、牙狼はどれを見ればいいんだと迷っている方がいたら、「暗黒魔戒騎士編」を見てから「MAKAISENKI」というのがおススメです。今、リアルタイムでやってる「牙狼 -紅蓮ノ月-」は設定も登場人物も時代までもが違う話なので、ここから入るのもアリです(余計なお世話)。

 面白い作品では原作者や監督など、現場のクリエイターがクローズアップされることが多いが、スポンサーを含め、やはり多くの人が関わってこそなのだなということを本書を読んで実感した。ただ、本書はあくまでも渡邊亮徳という個人の軌跡に焦点があたっているので、業界全体での動きが分かるような作品も読んでみたい。同時代に西崎義展や徳間康快、角川春樹などの傑人も色々といたわけで、その辺りの関係性なんかまで分かると面白い。

火星にいった3人の宇宙飛行士 (RIKUYOSHA Children & YA Books) ウンベルト エーコ

 今月(2016年2月)19日にウンベルト・エーコが逝去した。「薔薇の名前」の映画でしか彼のことは知らないのだけど、たまたまタイミングよく、この絵本を1ヶ月ほど前に読んでいた。実際は、そろそろエーコも読みたいけど難しそうだから絵本からアプローチしてみようと思ったのがきっかけ。

 お話のプロットはタイトルの通り。3人の火星飛行士はアメリカ、ロシア、中国。最初はお互い、半目し合っているが、孤独感の中で連帯していく。そんな彼らの前に火星人が出現し、3人は団結して対峙しようとする、というお話。

 同じ状況下で想起される感情が同じである時、理屈抜きで無条件で通じ合うことができ、それが相互理解を促進するということか。

 絵本というのはサラッと読めてしまうのが曲者と言えば曲者。それにしても...何、この絵?子供向けの本でこの絵はかなり強烈なインパクトを与えるんじゃないかな。それを狙ってるんだろうけど。