2013年10月20日日曜日

コミュニケーションは、要らない (幻冬舎新書) 押井 守 (著)

・3.11の震災を切り口に広げられていく、押井さんの、この国におけるコミュニケーションのいびつさについての視点。

・「ひとまず信じない」=判断を留保して自分の頭で考える、知識の問題ではなくて覚悟の問題だと最後に断じる。

・原発についての宮崎駿批判は歯に衣着せず痛烈。こう言われてしまうと「え、宮崎駿って、そうなの?」と思ってしまいがちだが、そこで「ひとまず信じない」ことこそ大事でしょ。宮崎サイドにも思いはあるはずなので。その点では、本書で展開されている押井さんの太平洋戦争時の海軍批判もそう。

・「軍事オタク」でもある押井さんが、国を考える時に軍事のことが必須にならない今の状況はおかしいと言っているが、これは佐藤優さんとも共通。

・「ただ、共通して言えるのは、「相手は自分を信用していない」という前提から始めるということだ。信用していない相手を説得する。だから、様々なテクニックを駆使して言葉を尽くし、ロジックを強固にする。(P136)」これは「NOと言わせない交渉術」でも似たようなことが述べられていた。


・彼の他の著作でも述べられている、映画を作るときのプロセスが実は面白かった。
 「とにかく、選定した本の範囲で作品を作ろうと自分自身で設定するのだ。選定が終わったら、今度はその本を抱えて仕事部屋に入り、机の上に積み上げる。すでにマーカーで塗りつぶされた本もあれば、これから新たにマーカーを重ねる本もある。そして、必要とあらば、積極的に文章を引用する。僕の映画で使用する言葉はそのほとんどが、誰かの著作からの引用だ。 (P90)」

2013年10月1日火曜日

紳士協定: 私のイギリス物語 佐藤 優 (著)

・最近、自分が傾倒している佐藤優さんが、外交官になって最初に語学トレーニングでイギリスに留学している時の記録。ホームステイ先の少年との交流を軸に、彼がどのような生活をイギリスで送ったかが描かれている。彼が他の著作で、ロンドン留学時にチェコの古本屋に出会ったとか、ロシア語の本が安価で入手できるのに喜んだ、と記述しているのだが、その実情が分かるのは、ファンには嬉しい。

・可愛くて聡明だった少年との再会はちょっと切なかった。だが、佐藤さんが最も書きたかったのは「あとがき」に書かれていた当時の同僚へのメッセージだったのではないかという気がした。あれを読んだ本人は泣いたのではないか。

人類哲学序説 (岩波新書)梅原 猛 (著)

【要約】
・「理性=人間」中心主義だったこれまでの西欧の思想潮流を批判的に概観し、日本の縄文文化やアイヌ文化の中にも見られる「草木国土悉皆成仏」に、これからの世界を担う哲学を見出す。

【ノート】
・梅原猛という人の本を初めて読んだ。それまでは、何となく胡散臭さを感じていたのだが、本書を読んでも、やはり、そこここに胡散臭さや自己顕示欲を感じる。

・が、デカルトからニーチェ、ハイデガーを概観しているのは、哲学に馴染みのない人には分かりやすい。飲み屋で、ちょっと哲学に詳しいオッサンが気持よく語っているまとめを聞いてる感じだ。そこから導き出されてる日本的なものの礼賛には、我田引水だなあと感じるものの、魅力を感じないでもない(歯切れの悪い言い回しだが、全面肯定できる類のものではないので、こういう言い方になってしまう)。ある友人からの話で、そのオリジナリティに疑問符がついたのだが、貝塚は縄文人のゴミ捨て場ではなく、再生の祈りの場である、とか、そのような思想はアイヌ文化の中にも色濃く見えるとして熊送りの儀式であるイオマンテの話を出してきたりで、玉石混交な印象。

・哲学の「序説」というには物足りない展開だが、今後どんなものが出てくるのか、ちょっと期待している。