2013年12月30日月曜日

2013年の読書

 今年は151冊の本を読んだ。目標が108冊(一ヶ月に9冊)だったので、上方修正でクリアだ。しかし、どれだけの本が本当に自分の血肉になっているかと振り返ってみると甚だ心もとない。本当にきちんと取り組んだ本となると一桁だ。来年は熟読する本を増やしたい。頑張って来年は200冊読了、そして熟読本を12冊を目標とする。

 今年、特に印象に残った本は次の通り。

「ウェブ社会のゆくえ」
 社会生活を営む上でどんどんウェブが侵食してきており、筆者はそのことを「現実の多孔化」と捉え、従来型のコミュニティの存立パラダイムを揺るがしていると見る。


「レイヤー化する世界」
 「ウェブ社会のゆくえ」と分析しているところは似ているが、本書はコミュニティではなく、個人のこれからの世界との向き合い方について前向きな提言をしている。


「㈱貧困大国アメリカ」
 三部作の完結編。三部作のどれを読んでも明るい気持ちにはなれないが「奴らは本気だ、だから自分達も本気で対応しないと」という気持ちを喚起してくれる。


「詩歌と戦争」
 詩歌が大衆の間に及ぼす「空気」感と、戦争への道について、北原白秋を中心に検証した作品。そう、軍部の暴走だけの責任ではないのだ。全ての責任を、そういう形で擦り付けてしまったら、同じことが繰り返される。

「ウルトラマンが泣いている」
 円谷一族による身内の恥晒し暴露本。今、円谷プロには円谷一族の血はもうないらしい。そのことに全く寂しさを感じないわけではないが、正直、どうでもいい。円谷の子孫がウルトラマンを守り、その世界を全うできなかったのであれば、普通の法人としてマトモな組織になっていってくれればよいとさえ思う。

「記憶をコントロールする」
 面白いが、果てしなく恐い。光信号で記憶の改ざんができてしまう!

・あと、今年発刊ではないが、特別枠として「ストレスフリーの整理術」 
 仕事のタスクをスマートにさばけない自分にとってのバイブル。何度も読み返しているが、読み返す度に発見がある。本書が他のライフハック系や仕事術本と一線を画すのは、背骨がきちんと通っているという点。他書が帰納的とすれば本書は演繹的。著者のD.アレンがその思想的バックボーンを構築するには多分に帰納的なプロセスを経てはいるが、彼からのアウトプットであるGTDについては完全に演繹的だ。
 アレンさんの本は3冊、翻訳されているが、まずは基本書、そして「実践」。中古でえらく安く売られている「仕事術」だが、基本書と「実践」を読んだ後で読めば、アレン的GTDを応用するワークブック的にも使える、中身の詰まった本なので、是非。

2013年12月25日水曜日

戦場から女優へ サヘル ローズ (著)

・イラン生まれの著者が、イラクの空爆で家族を失い、孤児となった後、今の義母に引き取られてからこれまで歩んできた自伝。戦災孤児ではあるが、戦争の悲惨さということをクローズアップしたわけではなく、幼い頃に来日してからの軌跡についてがメイン。

・本人よりも、戦争孤児だった本人を引き取って育てた義母さんがすごい。何がすごいって、裕福な家庭のお嬢様だったのが、孤児を引き取ったっというのが世間体が悪いというので勘当同然の扱いをされ、日本にいたフィアンセを頼って来日したら「他に好きな娘ができたから出て行って」と言われホームレス化。しかも日本語は不自由なまま。だからと言ってお涙頂戴的なストーリーになってないのは、本人があとがきで書いた通り「同情してほしいわけではなく、ただ、起こったことを知ってほしいだけ」というポリシーによるものか。

・本書に興味を持ったきっかけは、前の職場で流れていたFMで、サヘル・ローズがやってる「japanふるさとネットワーク」という番組を聞き、珍しい名前だが、どんな人なんだろうと興味を持ったのがきっかけ。もう随分と前の話だが。

2013年12月23日月曜日

自衛隊の仕事術 久保光俊 (著), 松尾 喬 (著)

・先日、仕事の関係で自衛隊の駐屯地に行く機会があった。そこでは三等陸佐の方に作戦=情報フローの構築について色々と教えてもらったのだが、その素晴らしい仕事ぶりと謙虚な姿勢、そしてオープンな姿勢に深く感銘を受けた。そんなわけで、自衛隊における作戦の立て方についてのノウハウをGTDに応用できないかと思って本書を読んでみたが、残念ながら、その辺りのことが体系的に書かれた本ではなかった。

・著者は北海道で偵察隊の教官を務めた人で、冬山での厳しい訓練を指導してきて、教え子は1000人を数える「伝説の教官」とのこと。1トピック2ページで自衛隊での考え方なり行動規範について簡潔に書かれているという構成で、読みやすく、分かりやすい。イギリスの特殊部隊であるSASの教官の本を読んだ時に、当たり前過ぎるような些細な基本から積み上げていくという考え方が印象的だったのだが、本書でもそれに通じるものを感じた。

2013年12月22日日曜日

成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書) 天野 祐吉 (著)

・広告にずっと関わってきた著者が、広告を切り口として社会の動きを分析、解釈して見せながら、これまでの経済成長を至上命題とする社会から、豊かさこそをよしとする成熟した社会へ、と提言する。ただし、それは分かりやすく言えば、「金持ち暇なし」と「貧乏暇あり」のどちらがいいかという選択でもあると著者は突きつける。

・世界的なムーブメントを作った海外の広告も紹介しつつ、国内では開高健、糸井重里などの著名コピーライターが出てくる。糸井さんは今や「ほぼ日」で大ブレイク中で、彼の言動やブログを読むと、深いことを易しく語っているという印象がある。その「深い」の根底には、本書で示されている、社会に対する観察の作法のようなものがあるように感じる。糸井さんは吉本隆明と懇意で、彼に関する本やCDなんかも出版しているが、本書の中でも吉本隆明の言葉が出てくる。

・正直なところ、かつてはコピーライターなんて、クライアントを喜ばせるへ理屈だけを考えている詐欺師みたいな職業だと思ってた(これはもちろん偏見であり、やっかみだった)。実際のところ、彼らが紡ぎ出すシンプルな言葉の後ろには膨大な思考があり、糸井さんクラスになると、その思考は、社会の動きと日本語の両方を深く掘り下げたものになっている。そうでなければ人びとの心に働きかけることはない。広告に対して、絵画や映画に対するのと似たような鑑賞の視点というものがあるとは初めて知った。面白いなと感じる広告、つまらんと感じる広告はあるけど、その後ろに、社会やスポンサーや視聴者に対する批判的視点が存在しているなんて、考えたこともなかったし、もちろん、感じたこともなかった。

・ところで、全体的に面白く学びながら読ませてもらった本書ではあるが、最後はどうしてもいただけない。「政治家の人たちも、憲法をいじったり原発の再稼働をはかったりするヒマがあったら、経済大国や軍事大国は米さんや中さんにまかせて、新しい日本の国づくりに取り組んでほしいものです。 (P211)」 こういう「上から目線」的ニュアンスが強い、左翼的な物言いはもういい加減、辞めたらどうだろう。言わんとしている内容に対して反感を持つものではないが、こういうことをこういう表現で行うことによって、一体、誰にどうしてほしいんだろうと思う。これを読んだ「政治家の人たち」がハッと気づくことを期待して書いたんだろうか?ここで、ステレオタイプな表現が出てくると、急激に白ける。

スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー) 三上 修 (著)

・カラスほどではないが、スズメも結構好きだ。一時期、札幌の街中からスズメの声がほとんど消えた時期があり、どうやら伝染病だったらしいのだが、大変寂しかった記憶がある。

・そんなわけで期待して読んでみた本書だが、ハズレ。岩波科学ライブラリーでもこんなレベルの本があるんだと学習した。確かにスズメやカラスってのは、なかなか難しい研究対象だと思うが、この本では、知りたいことのほとんどが「だと思う」「分からないが」「多分」ばかり。サイエンス本と言うよりはスズメを題材にしたエッセイといった印象。

・また、本書の最後に、6枚の写真を掲載して、そこにスズメの巣があるのかを当てるクイズがあるのだが、正解の写真が見づらさ全開。スズメがどんな場所に巣を作ることがあるか、多分、自分は一般の人よりはよく観察してる方だと思うが、それでも分かりづらかった。編集者もイマイチ?帯は「愛すべき隣人のすべて」。岩波で、しかも科学ライブラリーでも、こんなあざといコピーを付けることがあるんだな。

・ただし、スズメに関する雑学というレベルであれば悪くない。スズメの出自はアフリカであるとか、日本では古事記にスズメに関する記述があるなんて、面白い。つまり、「岩波科学ライブラリー」から出版されているというのが、自分にとっては引っかかってるポイントなのかも知れない。

2013年12月15日日曜日

世界と闘う「読書術」 思想を鍛える一〇〇〇冊 (集英社新書) 佐高 信 (著), 佐藤 優 (著)

・ここのところ傾倒している佐藤優の対談本。相手は佐高信。

・幾つかの分野に分けて二人が放談しているという構成。各分野毎に必読本リストを挙げているので、参考に転記しておいてもよいかも、という感じ。

・佐藤さんの博覧強記ぶりが印象的ではあるが、それだけ。読みやすいし、読んでて面白い箇所もあるが、「読書術」についての本では絶対にないので騙されないように。帯だけならともかく、タイトルでここまで煽るってのは少しあざとくないか?

・佐藤さんの読書本ということであれば「読書の技法」がベストだと思う。

インターネット術語集〈2〉―サイバーリテラシーを身につけるために (岩波新書) 矢野 直明 (著)

・2002年の出版でありながら、意外と自分が知らないことも散見された。不勉強のいたり。「こんな本に書かれてる内容ぐらい、自分は全て知ってる」などと奢った先入観を持たずに、こういう本もきちんと読むようにしなきゃと思った。

この本の出版された時からレッシングの「CODE」は有名だったんだな。また、マーク・ポスターの「現実世界のエンティティであるはずのデータベースの文法が現実世界を規定する」との知見にはとても興味をひかれた。「グーグル・アマゾン化する社会」で述べられている危惧も、同じことを表現を変えて述べているということなのではないかと感じた。読んでみる必要がありそうだ。

・なお、「グーグル・アマゾン化する社会」は松岡正剛さんの「千夜千冊」でも取り上げられている。一読の価値アリ。

2013年11月24日日曜日

モチベーション3.0 ダニエル・ピンク (著), 大前 研一 (翻訳)

・人間を動かすOSであるモチベーションは、生存のための1.0から経済活動のための2.0、そして、これからは自己実現のための3.0へ。

・活動時のモチベーションとして使われてきた、いわゆる「アメとムチ」の報酬型行動原理に内包されていた「バグ」が、今の時代では頻出するようになっており、この時代には、もっと自分の「内発的」な欲求こそが、自らをより良く、しかも効率よくドライブさせるというのが本書の主眼。なお、「好きでやってるか報酬は要らない」というほど非現実的な理想主義ではないところが、3.0が2.0の次に位置されている所以。

・だが、不本意な状況や明らかなオーバーキャパの時に自分の心に生じる、心底「イヤだ」という気持ちと向かい合って突き詰めていけば、実は本書で書かれているような視野は誰でも獲得できるのではないかというのが正直な感想。また、「持続する『やる気!』をいかに引き出すか」というサブタイトルであるにも関わらず、その辺りのメカニズムなり方法論への言及があまりしっかりしておらず、自分的にはあまり得るものがなかった。ただし、これは原書にはない文言なので、出版社の煽りだと考えないと、著者のD.ピンクにはアンフェア。

・ブライアン・イーノの「OBLIQUE STRATEGIES」なんかが紹介されてるあたり、微妙なギーク感がウケてる理由なのか。妙に大前研一推しのD.ピンクだが、読んでるタイミングが遅いからなのか、相変わらずピンと来ない。

ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス) 鈴木 謙介 (著)

【要約】
・Webテクノロジー、それも「ソーシャルメディア」の浸透により、現実世界の意味が上書きされ、「多孔化」した社会となっている。これにより、従来型コミュニティの存在基盤や関係論が通用しなくなってきている。

【ノート】
・佐々木俊尚の「レイヤー化する世界」を読んだ直後に本書の存在を知り、何となくそのつながりや違いを明確にしてみたいと思ったのが本書を読む動機。

・「レイヤー化する世界」はウェブによって、個人のスキルやタレントのレイヤー化が可能になり、各員が緩やかで不安定なつながりを世界的に広げて活動してゆくという社会像を描いており、それはどちらかと言えば楽観的な肯定であるように感じられた。

・それに対して本書は、ウェブによってもたらされる現実空間の多孔化を、危機感を持って捉えているのが出発点。例えばデート中に相手が目の前にいるにも関わらずソーシャルネットワークにアクセスするという振る舞いを、単なるマナーの問題ではなく、現実空間の意味合いがウェブによって上書きされているとし、現実の物理的空間が人間関係に対して持っていた制約が喪失していると分析する。つまり、かつては同じ空間にいるということが密接な人間関係と同義であったのに、それが単なる「近接」をしか保証しなくなったということである。

・このことは従来型のコミュニティの成立条件を揺るがすことになる。同じ物理的空間にいても、その空間が持つ(あるいはその空間にいることの)意味が、人によって変わってしまうわけで、そのことを著者は「多孔化」と表現している。佐々木が「レイヤー化する世界」を「不安定」と表現しているのも、この、従来型パラダイムの動揺と通底しているように感じた。

・本書は、そのような状況について単に警鐘を鳴らすだけではなく、あくまでも社会学からのアプローチらしく、新たなコミュニティの創出を提言している。そこでは、現実の多孔化を積極的に認め、取り入れた上で、「儀式」による新たなコミュニティの創出を提言している。この提言については、自分は今ひとつピンとは来なかったのだが、多孔化という視点は面白く感じた。

動物を守りたい君へ (岩波ジュニア新書) 高槻 成紀 (著)

・職場がら、こういう基本的なテーマについて勉強しておきたいということで読んでみた。

・本書の基本的なプロットは「動物を守りたい」という気持ちから獣医を目指す高校生ぐらいの年齢層に向けて語りかけるというもの。単に目の前の個体を救うという視点から、自然における種の位置づけという視点の大事さを説いている。例えば、ある種を救うために、生息に適した地に移送して繁殖させたところ、その場所の生態系が変わってしまい、別の種に危険が及ぶということもあるわけで、この辺りの塩梅ってのは、シムアース並みだ(←もっと難しいだろ。しかも題材が古いし)。

・今の職場で皆から教わっている内容のトレースではあるが、それを再確認できたという感じ。

2013年11月16日土曜日

ビジネスでいちばん大事な「心理学の教養」 - 脱「サラリーマン的思考」のキーワード (中公新書ラクレ) 酒井 穣 (著)

・マズローやミハイの「フロー」、「影響力の武器」なども参考図書に挙げられており、確かに「心理学の教養」というタイトルに偽りはない。キーワードを挙げて、その概要や現実社会への応用方法をコンパクトにまとめている構成も読みやすい。ただし、現実社会への応用方法が、紙数の制限もあるのだろうが、あまりにも表面的なのがちょっと惜しい。あくまでも「教養」ということなので、この分野の著名な作品に馴染んでいる人なら、重複が多い印象を受けるだろう。

・流し読みしていたが、いくつか知らない情報や新しい発見があった。「ツァイガルニク効果」、次に組織内で好ましくない行動を取っている者への視点、そして状況の抽象化スキルについて。

・「ツァイガルニク効果」はプレゼンの時などに自分が最近感じ始めていたことと同期した。組み立てられすぎたプレゼンでは、拍手はもらえても、聴衆との一体感はあまり形成されない。適度な隙があった方がいい。そのことに対する自分の考えを補強してくれる考え方だった。

・組織内で好ましくない行動を取っている者は、その組織における欠点などを明確にしているのかも知れないというのは新鮮な視点だった。

・「抽象化スキル」で語られていることは「人間の叡智」で佐藤優さんが語っていたエリートの条件と共通する。「自分のいる場所を客観的に認識してそれをきちんと言語で説明できるのがエリートの条件です。 『人間の叡智』(P157)」

・最後に書かれている著者の危機意識がダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」と通底するものだったり、これからの世界の動きについての構想が佐々木俊尚の「レイヤー化する世界」と似通っているのが意外でもあり興味深かった。

アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地 (講談社現代新書) 大治 朋子 (著)

【要約】
・アメリカでもWebによる影響でメディア再編が進んでいる。地方や中小のメディアカンパニー(主に新聞社)が淘汰されてゆく大きな流れの中で、それでも「ジャーナリズム」の使命を志向する記者たちが、Webを活用したり、記事の相互運用などの連携を取ったり、ローカル密着志向路線を色濃く打ち出したりして、新しい存在意義を創りだしている。

【ノート】
・全般的には、アメリカで頑張っているジャーナリズムに対する賛歌的なトーンが強い。NPOも頑張っており、その活動を支えるアメリカの寄付文化がもっと日本にも根付けばいいのにという見解も示されており、個人的には強く同感(笑)。

・だが、「(株)貧困大国アメリカ」を読んだ後では、本書で描かれているようなジャーナリズムがどこまで有効なのかという気持ちになってしまう。草の根的な地元新聞社や報道系NPOが頑張ったとしても、地元から消えていく農業や、工業化していく酪農業、金融商品化する刑務所産業(!)への警鐘を鳴らすということは可能なのだろうか。

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書) 堤 未果 (著)

・食品、GM種子、製薬会社、農家の隷属とそのグローバリゼーション。「ロボコップ」で描かれていた世界を地でゆくデトロイト、公共サービスの消失、刑務所の労働力化、企業に都合の良い法案を作成するALECというクラブ。

・アメリカはとんでもないことになってる。だが、本書は、「アメリカではこんな恐いことになってて、このままだと日本もこうなる」ということを単に煽っているわけではない。エピローグでは、市民が、巨大企業に対して、どのように、敵対することなく対抗しているかというエピソードが紹介されている。それを読んでいると、「本気で渡り合う」気持ちを持てるかどうかの問題なのだと感じた。相手は(あえて、敵とは言わない)プロで、資本主義の原則に立って、利益を最大化するべく本気で取り組んでいる。手段を選ばないが、合法の範囲(法律すら操作して作っちゃうわけだが)。ならば、こちらが、本気で対抗手段を考えて実行できるか。例えば預金額を全て地方の信金に、とか。

・この辺りの話は著者自身が「ラジオ版学問ノススメ」というPodcastでも言及していた。相手は、単なる悪者というわけではない。「情熱と信念を持って」利益を最大化するためにやっているというだけの話で、それに対抗するには、我々も、相手の考え方のパターンや弱点についての研究をして、相手と同等以上のエネルギーを注がなくてはならないということで、果たしてそれは現実問題として可能なのだろうか?その鍵となるのが情報共有・伝達手段としてのネットだったり、体系的なな研究や、アクションプランを企画・立案・実行するNPOのような組織だったりするのかも知れない。


2013年10月20日日曜日

コミュニケーションは、要らない (幻冬舎新書) 押井 守 (著)

・3.11の震災を切り口に広げられていく、押井さんの、この国におけるコミュニケーションのいびつさについての視点。

・「ひとまず信じない」=判断を留保して自分の頭で考える、知識の問題ではなくて覚悟の問題だと最後に断じる。

・原発についての宮崎駿批判は歯に衣着せず痛烈。こう言われてしまうと「え、宮崎駿って、そうなの?」と思ってしまいがちだが、そこで「ひとまず信じない」ことこそ大事でしょ。宮崎サイドにも思いはあるはずなので。その点では、本書で展開されている押井さんの太平洋戦争時の海軍批判もそう。

・「軍事オタク」でもある押井さんが、国を考える時に軍事のことが必須にならない今の状況はおかしいと言っているが、これは佐藤優さんとも共通。

・「ただ、共通して言えるのは、「相手は自分を信用していない」という前提から始めるということだ。信用していない相手を説得する。だから、様々なテクニックを駆使して言葉を尽くし、ロジックを強固にする。(P136)」これは「NOと言わせない交渉術」でも似たようなことが述べられていた。


・彼の他の著作でも述べられている、映画を作るときのプロセスが実は面白かった。
 「とにかく、選定した本の範囲で作品を作ろうと自分自身で設定するのだ。選定が終わったら、今度はその本を抱えて仕事部屋に入り、机の上に積み上げる。すでにマーカーで塗りつぶされた本もあれば、これから新たにマーカーを重ねる本もある。そして、必要とあらば、積極的に文章を引用する。僕の映画で使用する言葉はそのほとんどが、誰かの著作からの引用だ。 (P90)」

2013年10月1日火曜日

紳士協定: 私のイギリス物語 佐藤 優 (著)

・最近、自分が傾倒している佐藤優さんが、外交官になって最初に語学トレーニングでイギリスに留学している時の記録。ホームステイ先の少年との交流を軸に、彼がどのような生活をイギリスで送ったかが描かれている。彼が他の著作で、ロンドン留学時にチェコの古本屋に出会ったとか、ロシア語の本が安価で入手できるのに喜んだ、と記述しているのだが、その実情が分かるのは、ファンには嬉しい。

・可愛くて聡明だった少年との再会はちょっと切なかった。だが、佐藤さんが最も書きたかったのは「あとがき」に書かれていた当時の同僚へのメッセージだったのではないかという気がした。あれを読んだ本人は泣いたのではないか。

人類哲学序説 (岩波新書)梅原 猛 (著)

【要約】
・「理性=人間」中心主義だったこれまでの西欧の思想潮流を批判的に概観し、日本の縄文文化やアイヌ文化の中にも見られる「草木国土悉皆成仏」に、これからの世界を担う哲学を見出す。

【ノート】
・梅原猛という人の本を初めて読んだ。それまでは、何となく胡散臭さを感じていたのだが、本書を読んでも、やはり、そこここに胡散臭さや自己顕示欲を感じる。

・が、デカルトからニーチェ、ハイデガーを概観しているのは、哲学に馴染みのない人には分かりやすい。飲み屋で、ちょっと哲学に詳しいオッサンが気持よく語っているまとめを聞いてる感じだ。そこから導き出されてる日本的なものの礼賛には、我田引水だなあと感じるものの、魅力を感じないでもない(歯切れの悪い言い回しだが、全面肯定できる類のものではないので、こういう言い方になってしまう)。ある友人からの話で、そのオリジナリティに疑問符がついたのだが、貝塚は縄文人のゴミ捨て場ではなく、再生の祈りの場である、とか、そのような思想はアイヌ文化の中にも色濃く見えるとして熊送りの儀式であるイオマンテの話を出してきたりで、玉石混交な印象。

・哲学の「序説」というには物足りない展開だが、今後どんなものが出てくるのか、ちょっと期待している。

2013年9月22日日曜日

レイヤー化する世界 (NHK出版新書) 佐々木 俊尚 (著)

・文明の発展してきた歴史を概観した上で、これからの世界はネットを中心とした「場」での活動が中心になり、国の境界はなくなっていくというのが本書の骨子。国家という枠組みを強固なものにした西欧文明も、かつては辺境のマイノリティだったわけで、今また、それが移ろっていっても不思議ではない。本書では、帝国全盛の時代から国家と民主主義の興隆への変遷を紹介することでそう主張している。

・「レイヤー」というのは、属性が分解されて、それぞれがそれぞれのつながりを持って広がっていく、というイメージ。これまでが縦割りのパッケージだったのに対して、これからは各人が持っている色々な側面が、それぞれ薄く横につながっていく、というようなものだろうか。

・「不安だけど、アメーバのようにくねくねと動き回りながら、自分の居場所を見つける努力を一生続けること(P268)」というのは示唆的だが、今の日本で、こういう考え方がマジョリティになるにはもう少し時間がかかるのではないかと感じた。

2013年9月14日土曜日

フクロウからのプロポーズ 彼とともに生きた奇跡の19年 ステイシー・オブライエン (著)

・この本を知った由来は、多分、amazonでカラス関連の本を探していた時だと思う。

・動物との交流、特に「通じ合った!」と無条件で思える瞬間というのは極上の体験だ。その感動が本書からよく伝わってくる。生まれた直後から死ぬまでの19年もの長きにわたってメンフクロウのウェズリーと暮らした記録が本書なのだが、大変な生活なのに、大した女性だなあと思っていたら、名前のオブライエンとはケルト系の血か。途中でアイリッシュミュージックに関する記述が出てきたところで初めて気がついた。

・一気に読み進めることができるだけの面白いエピソードがてんこ盛り。笑えるものからホロリとするエピソードまで幅広く記録されている。しかし、本書の帯には「とりのなん子」なる人物の「最高にうらやましい!」との一文が掲載されているが、本書で書かれている生活の大変さを分かった上で羨ましがっているのだろうかと思った。また、感動的な内容であることは間違いないが「全米が涙した」との帯コピーも安っぽい。

・この本を読んだ数日後に、ノースサファリサッポロという所でメンフクロウの実物に触る機会があった。ふわっふわの毛だった。

2013年8月28日水曜日

世界を動かす海賊 (ちくま新書) 竹田 いさみ (著)

【要約】
・海路は日本にとって生命線であるが、航行を脅かす海賊がアジア、アフリカで活発に活動している。各国が連携・協力体制で対応にあたっている中で、日本もイニシアチブを取って航行の安全を図っている。また、対象となる国には、海賊をしなくても経済活動ができるような支援も行われている。

【ノート】
・ソマリア海賊が結構、ヤバイ。その台頭には、かつての漁師の網元みたいな連中が欧米の傭兵会社に訓練を依頼して、そこである程度のノウハウを得てから海賊化したということがあるらしい。

・海賊に対しては、政治的な駆け引きもあるものの、なかなか各国、いい感じで連携を取っているようだ。その中で、日本もイニシアチブを取って頑張っているらしい。ちょうどタイムリーに安部総理のfacebook投稿があった。http://goo.gl/m3LdDw

・海賊ってのは国外での話なので、その司法権や警察権の行使においては、相手の国と法的な連携を取っておかなくてはいけない。

・日本のタンカーに武装ガードを載せるのが効率的な自衛手段ではあるけど、結局、軍隊や警察でなければ武器の行使は許されてはいない。

2013年8月25日日曜日

絶望しきって死ぬために、今を熱狂して生きろ (講談社プラスアルファ文庫) 見城 徹 (著), 藤田 晋 (著)

・アテネ書房の最終日に目に入った。その時は「買うまでもないか」と思い、「屍者の帝国」だけを買ったが、自分の心へのカンフル剤として、「憂鬱でなければ」な前著の続きを突然読みたくなって購入した。

・なかなか挑発的なタイトルで、amazonのレビューを見ると的外れなことを書いてるものも散見される。著者達にとって、これは狙い通りなのか、それとも、そこまで読解力が低いものかと驚いているのか。なお、自分の理解が正しいのかどうかだって心許ないのだが、正直なところ、「あれもできなかった、これもできなかった」と絶望しきって死ぬために、という考えには同意しかねる。もちろん、見城さんは、「単に絶望して」というのと「絶望しきって」というのは違うとわざわざ強調しているので、まだ自分に見えてないものがあるのだろうとは思うが。

・自分にとっては前作の「憂鬱でなければ、仕事じゃない」の方が響く言葉が多かったような気がする。見城さんの学生時代から続いてきた思想的バックボーンのようなものがかいま見えたのが新しい発見か。吉本隆明って、そんなに影響力のある思想家だったんだな。吉本隆明と言えば糸井重里というのも頭に浮かぶが、見城、糸井、というのはお互いをどのように見ているんだろうな。

2013年8月24日土曜日

エクセレントな仕事人になれ!トム・ピーターズ

 う~ん、なぜ読みたいと思ったんだろう。本の存在を知ったのは阪コミのtwitterだったと思ったが、想像以上に得るところがない本だった。今のところ、自分にとってこの種の本ではD.アレンのGTD本を超えるものはないかも知れない。

明治国家をつくった人びと (講談社現代新書) 瀧井 一博 (著)

・明治を語る時によく出てくる有名人だけではなく、あまり表に出てくることがないエリート官僚を描く、という前口上で期待した。確かに、あまり聞いたことがない名前が出てくるが、紙数が割かれていたのは、やはり有名人。

・明治政府における国家のグランドデザインは、やはり伊藤博文。

・なお、伊藤に絶大な信頼を寄せていた明治天皇は、伊藤の暗殺後、後を追うように、とまでは言わないまでも、元気をなくしたまま崩御した。

・そう言えば、なぜわざわざ¥1,000円札のデザインは伊藤博文から変わったんだっけ?

 

2013年8月3日土曜日

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書) 大栗 博司 (著)

・なぜか重力に興味がある。これは多分、「重力子」という未発見の(素)粒子が「グラビトン」という名前で、それが大鉄人17の「グラビトン攻撃」を連想させるからだと思う。まぁ、理由としてはその程度だが、重力子を解明すれば、自由に空を飛べるのではないかという夢想も関係しているのかも知れない。

・アインシュタインの相対論を軸に、光速と時空、そこからブラックホールのことについて、科学史的に解説されているのだが、途中でついていけない所がボロボロ出始めて、何とか読了までたどり着いたというのが正直なところ。もっと「重力子」というものについての知見を得たかったのだが、それを得られた実感がないのは、自分の理解力の劣っているのが原因か。本書は、これ以上は無理、と言うほど分かりやすく書かれている、らしい。「らしい」と言うのは、何となくそう感じるのだが、それでも全体の3分の1ぐらいしか理解できなかったからだ。

・そんな中、「超弦理論」に関する記述では「ブレーン」について比較的すっと読めたことが収穫だった。何が収穫だったかと言うと、Newton 2013年1月号の「超ひも理論」特集を読んでいたことが本書での理解につながったという道筋を自分の頭の中で実感できたということだ。

・ちなみにウルトラマンマックスに出てきたダーク・バルタンは、重力を制御する技術を持っていることで光の国の科学力を凌駕していた。巨大化やクローンまではマックスも対抗できたが、重力となるとさすがに敵わなかったらしく、敗北を喫している。ダーク・バルタンが暴れるシーンでは、なるほど重力を制御したものらしく、建物が単純な爆発ではなくボロボロと崩壊していく描写がされており、感心したものだ。

・メモ:・原子→原子核→陽子と中性子→クオーク(粒子だが、最後の粒子=素粒子なのかどうかはまだ分からない)

2013年7月28日日曜日

国家とインターネット (講談社選書メチエ) 和田 伸一郎 (著)

・久々のハズレ。タイトルにかなり期待させられたのだが、とても「権力、メディア、人間の関係を根底から考察」した内容を把握できなかったし、「IT化社会における政治哲学の可能性を切り開」いた本とは思えなかった。自分の読解力の及ばぬところか。

・これで選書?新書レベルにも達してないのではないかというのが正直なところだが。参考資料からのたくさんの抜き書きと、それに関連した、裏付けの少ない個人的見解が少し。学生のレポートクラスではないかと思った。

・一番ひどいと思った例。中近東について、難民が大量発生し、カダフィのような独裁政権が生じている例を挙げて、「地域の国家機能の弱さ、また、国境の人工性の虚構性、移動することの一般性から(土地や国家への)帰属性が薄い(P158)」と結論し、だから、SMSが、中近東において人々を動かす力を発揮しやすいとしている辺り、著者は本当に学者なのだろうかと思ってしまった。それで「以上、中東地域の土地の内的事情を見てきた」との総括とは恐れ入ります。

2013年7月15日月曜日

記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー) 井ノ口 馨 (著)

・記憶には短期用と長期用(2年辺りが境目)があり、バッファとして短期用が海馬に、それが大脳皮質にあるストレージに移されて長期用になる、というのが基本構造らしい。ただし、小さい頃に大脳皮質に問題がある人の場合、脳の他の部分をその用途に使う例があるらしく、脳の不可思議な柔軟さはすごい。また、海馬の中にも短期用記憶と長期用記憶の領域分けがあるらしい。

・これら「記憶」というのはニューロンとシナプスの複雑なマトリクスコードによって構成されているわけだが、このマトリクスコードを削除することによって記憶が消滅し、このコードを脳に埋め込んだ光ファイバーを使うことで再現することによって記憶が再生されるというところまで、マウスによる実験で可能になっている。ちょっと怖い想像をすれば、ゲノム解析プロジェクトの次は、このマトリクスコードの文法(?)解析プロジェクトかも知れない。

・また、記憶を思い出している時に、その記憶の再固定化が行われており、この時にはPRPというタンパク質によって記憶の増強が行われるらしいのだが、この時に操作を行うことにより、思い出している=再生されている記憶の上書きも可能らしい(もちろんマウスで)。これはトラウマの治療にも有効たり得るのではないかと期待されているらしいが、SFだと、これにより記憶を改変された兵士なんかが出てくるのではないかと考えてしまう。なお、これは、上で述べた「海馬での短期・長期」記憶の場合。ということは、SF等で記憶を改ざんされたキャラクターが、ちょっとしたきっかけで遠い昔の記憶を呼び覚まし...というのは、海馬ではなく大脳皮質側の記憶ということなんだな。そして、そこから連想的に次々と、というのも、本書を読む限りではあり得る話に思えてくる。視点を変えれば怖い話だが。

・なお、記憶力を高めるには「DHA、EPAの摂取」、「運動」、「豊富環境」。豊富環境というのは知的好奇心が豊富に刺激される環境で、これは自分の心構えなんかにも左右されそう。以前読んだ本で時間的制約をあえて自らに課してタスクを実行するというのがあったが、この知見にもとづくものだったのか。記憶は短期と長期があるわけだが、これら3つには、短期から長期への移し替えを活発化させる役割がある。短期用バッファである海馬はなるべく空けておいた方がいいというのはコンピューターと似ているわけだ。

2013年7月9日火曜日

ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書) 円谷 英明 (著)

・円谷プロと言っても「しょせん下請けの中小企業(P94)」。そこを直系の後継者達が勘違いした辺りから凋落のモメントが動き出していたのかも知れない。本書では円谷プロの現状に至るまでの軌跡が著されているが、どこまで公正かと言えば疑わしさは残る。結局、同族の身内批判の域を出ていない可能性は大いにある。

・仮面ライダーやガンダムがいまだに変化しながら継続しているのに対してウルトラマンの現状が目を覆わんばかりの惨状であるのはなぜなのか。そのことに対する直接の答えは本書では触れられていないが、考察するための材料は提供されている。自分としては、仮面ライダーは石ノ森章太郎から、ガンダムは富野由悠季から生まれたのに対して、ウルトラマンは必ずしも円谷英二から生まれたわけではないという点にその辺りの鍵があるのではないかと思っていたのだが、どうやらそれだけではないということが本書を読むと見えてくる。

・個人的には、地球の防衛というウルトラマンの基本パラダイムこそが殻であり、それを打ち破ることが新たな世界を創り出すことになるのではないかと考えていたが、どうやら殻は、円谷プロ自体だったのかも知れない。買収されてしまい、円谷一族が放逐された今こそ、実は新たなウルトラマン誕生への胎動が始まる時なのかも知れない(「ウルトラマン列伝」を見ている限り、とてもそうは思えないが)。

・かつて、ウルトラマンのCGパートを製作している会社の社長と話をする機会があった。その時に「今の円谷プロでも、あなたほどウルトラマンについて熱く(暑く?)語れる人はいないですよ」と言われた。その時はお世辞だと思ったが、あながちそうではなかったのかも知れない。自分並みに語れるファンなど全国にいくらでもいるが、円谷プロと仕事をしていた彼の目からすれば、そう言いたくなるほどの状況だったのだろう。

・円谷一族自身の手で凋落してしまった経緯を知り、それでも、最後に語られる著者の現状を読むと、若干ながらも寂寞の念を禁じ得ないのは、やはり「円谷」という名に感じるところがあるからなのだろうか。そして、読み終わった後だと、本書のタイトルは本当に胸に迫ってきて、泣けてくる。

・ちなみに1966年の今日(7/10)、ウルトラマンの放送が始まった。

 

2013年7月2日火曜日

アテネ書房、閉店

 札幌駅前通りのアテネ書房。最初の勤務先が入っていたビルの1階。その頃はよく通っていたが、今日(6/30)で閉店。残念。

アテネ書房閉店のお知らせ

 仰々しく飾り立てることもなく、簡素な閉店のお知らせの貼紙が入り口に張ってあるだけ。

 店内も特に混んでいるということはなく、いつも通りガラガラだった。だが、奥の一角には岩波文庫と岩波新書が全て¥100というコーナーが!これを前面に出さない辺りがアテネらしいと言えばアテネらしい。16冊、買いました。

 2010年のSwing Jornalの最終号を買ったのもここだった。伊東計劃の「虐殺器官」を買ったのもここだったので、目についた「屍者の帝国」も購入した。

 さようなら、アテネ書房。

最終日のアテネ書房

2013年7月1日月曜日

非社交的社交性 大人になるということ (講談社現代新書) 中島 義道 (著)

 前半は「何だ、この屁理屈親父?」という印象で、自分の世間への視線を、自分の経歴に即して偏屈に赤裸々に、そこそこ愉しく語っている。笑いの取り方にかすかに内田樹的な匂いもするが、ちょっとあざとさも見え隠れしている印象。

 後半は、屁理屈(哲学?)をこねてる本人が主宰している塾の生徒達の抱腹絶倒なトンデモエピソード集。これはもう、笑いながら読んでいい、しかも大笑いしながら。著者自身が塾生達の奇行を「ええい、バカの標本め!」とツッコムのがまた面白い。オーケンのエッセイにも出没する電波な人々のエピソードにも通じるものがあり、そういったエピソードの数々は滑稽だったり、実はちょっと怖かったり。

 哲学者である著者が、そんな「生きにくさ」を抱えてる塾生達に注ぐ眼差しは、しかし意外と優しかったりする。それは、著者が、辛くて放り出してしまいたい「問い」を抱え続けて、生きにくい人生を歩んでいる人達にこそ共感しているからだし、また、そんな抱え続ける姿勢こそが哲学だと考えているから。だから、大いに笑い飛ばしながら読んでると、そんな言動の中に、かつての、もしかしたら現在の自分と重なる部分を見つけてドキリとさせられたりもする。

2013年6月23日日曜日

21世紀アメリカの喜劇人 長谷川 町蔵 (著)

・映画でどんなジャンルが好きかと聞かれれば、ほぼ迷わずにSFとアクションと答える。コメディーなど、ロマンスもの同様、そんなジャンルもあったっけねえという程度の認識でしかないつもりだった。だが、なぜかこの本に反応してしまった。ベン・スティラーが載っていたから、と言うのと、「アダム・サンドラー」を「ウィリアム・サドラー」と勘違いしたからというのが原因。トロピック・サンダーやキック・アス、そしてジム・キャリーのミニ・コントが大好きな自分は、実はコメディ・ファンなのではないかという気もする。

・本書はコメディアン単位で、そのバックグラウンドや出演作品への解説をしている。自分にピンと来るのは上述の通り、ベン・スティラーやジム・キャリーぐらい。でもアメリカでもコメディアンには人気が出るまでの母体としてお笑い番組があり、日本もそれには大きな影響力を受けているということが分かったし、そこで活躍しているプロデューサーや脚本家がいるのは日本と同じ構図ということも分かった。

・「躁状態の笑いの裏に、ファンタジックな『エターナル・サンシャイン』で垣間見ることが出来る暗い顔を(ジム)キャリーは持っている。彼は私生活では長年鬱病と戦い続けているのだ。(P56)」 この一文にグッと来てしまった。同時に思ったのは、やはり情報というのはコンテクストだなと。例えばこの情報、wikipediaなんかでサラリと見ただけだったらグッとはこなかっただろう(ちなみに実際には日本語版のwikipediaにはこの情報は載っていない)。

・「この作品(トロピック・サンダー)を通じてすっかりスティラーと仲良くなったロバート・ダウニー・ジュニアは『彼こそは現代のチャップリンだ。俺は彼にアカデミー賞を獲らしてあげるために脚本を探している』とインタビューで語っている。(P180)」

・そう言えば、この本に触れるまで忘れていたが、かつて小林信彦の「喜劇人に花束を」を読んでいたことを思い出した。実は伊東四朗と植木等も好きなのだ。

・まぁ、何はともあれ、「トロピック・サンダー」は観てみてほしい。ちょっとブラック過ぎる箇所があって悪趣味と眉をひそめる向きもあろうが(うちの家内はそうだった)、大変なクオリティーのおバカ映画だ。可能であれば、ロバート・ダウニー・ジュニアがアイアンマンのお面をかぶって悪ふざけをする特典映像も必見。

2013年6月22日土曜日

まち再生の術語集 延藤 安弘 (著)

・まちづくりについての術語集。著者の遊び心のお陰で、コトバ遊び的な面白さに引っ張り回されてるうちに、実は気付かぬうちに都市景観の計画論から行政、ひいては西田哲学までを包含した広大な「まちづくり」空間を案内してもらっていたことに気付く。著者はかなり「いけてるファシリテーター」らしいが、本書でもその面目躍如の感がある。

・なお、本書で「まちづくり」と言っているのは、住民主体のサステナブルなコンテンツジェネレート型コミュニティといったところか。古き佳き日本的な住民コミュニティの礼賛が若干強すぎるきらいもあるが、許容範囲かと。

・そこかしこに散見されるコトバ遊び。松岡正剛さんなら「編集の達人」と位置づけるのかなとぼんやり思った。

・「クリストファー・アレグザンダー(アメリカの建築家)によれば、まちは八パーセント以上の空き地が発生すると、そのまちは死滅に向かう、それ程のドンゾ底に落ち込んでいます。(P24)」

・「高等動物には、『他の個体への共感の高さ』があり、『人類も、採集狩猟生活をしていたころ、生きているもの、動くものすべてに共感していた』といいます(野田正彰『共感する力』みすず書房」。(P64)」

・(台湾での事例を挙げて)「ある日の会合で、行政側の責任者は『私たちは今まで原住民に漢民族のやり方(法律・制度)をおしつけてきました。しかしこれからは、私たちが原住民の文化に学ぶ時代が来ました。この提案を生かしましょう。」と歴史的発言。(P84)」

・「どんなややこしいトラブルにおちいっても、ユーモアやニュアンスや笑いという別次元のコミュニケーションが出口を開きます。グレゴリー・ベイトソンの「ダブルバインド理論」が示唆したように、人間のコミュニケーションは複数の次元(言葉と態度、表情と行動など)で重層的に発信されており、相矛盾するメッセージで開いてを追い詰めることも可能なら、逃げ道を開くことも可能だからです。(P86)」

・「西田幾多郎の語る『場所の哲学』を参照しますと、『我とは主語的統一ではなくして、述語的統一でなければならぬ、一つの点ではなくして一つの円でなければならぬ、物ではなく場所でなければならぬ』とされています(『西田幾多郎全集第三巻』)。(P143)」

・「本書のコンセプトはまさに『人生ってエエモンやなあ』『自分のまちは捨てたもんやないなぁ』と『生を楽しむ』センスです。(P205)」とあるが、まさに、本書からは、そんなセンスを強く感じた。

動乱のインテリジェンス 佐藤 優 (著), 手嶋 龍一 (著)

・「インテリジェンス」というキーワードの周辺での存在感が抜群に強い佐藤優と手嶋隆一の対談。とても読みやすいが、それに付いていくだけで、国際政治、外交に関する視座を少し分けてもらえる。最近の日本を取り巻く国際情勢が題材のため、必然的に内容はきな臭くなる。それが「動乱」というタイトルのニュアンス。

・本書で扱っている話題は
  竹島、尖閣、中国と沖縄の独立、鳩山のイラン訪問の裏側、トモダチ作戦、日米、日ロ関係

・「(手嶋)日本の国境はいま、縮み始めているー。国力に陰りが生じ、政治的指導力が衰弱すれば、周辺諸国はその隙に乗じて攻勢に転じ、国土は萎んでしまう。(P7)」そして、縮んでいるボーダーは国境だけではなく人間界と動物界との境界も、そうなのかも知れない。

・例えば、2012年4月の北朝鮮のミサイル発射時、韓国よりも日本の発表が遅れるということがあり、日本の国防情報の不備が指摘されたが、実はこれ、長期的に見たら「サードパーティー・ルール」が守られたため、アメリカからの信頼は勝ち得た政治的判断に拠るものだったのかも知れないと。

・「(佐藤)ギリシャの危機が一層深刻化していけば、EUは事実上の「為替ダンピング」に踏み出さざるを得なくなると指摘しておきましょう。これは帝国主義を絵に描いたような図式なんです。震災で弱っている日本の円が、なぜこれほど強くなるのか。それは「帝国としてのアメリカ」が基軸通貨たるドルをダンピングさせ、さらにいは「帝国としてのEU」も共通通貨「ユーロ」をダンピングさせているのが原因だと言っていい。(P208)」

・「(手嶋)(TPPについて)僕たちは、短絡的に、賛成・反対という議論をしているのではありません。二十一世紀のいま、新たに姿を現したTPPの本質とは何かを考えてみることが必要だと言っているのです。いまや新たな自由貿易の枠組みが、東アジア・環太平洋地域の安全保障と表裏一体になっているという視点は欠かせません。TPPの盟主たるアメリカは、世界経済の推進エンジンとなった東アジア・環太平洋地域をがっちりと囲い込み、ここを基盤に新たな安全保障の枠組みを構築して、海洋へせり出しつつある中国に対抗しようとしています。
(佐藤)アメリカは、大統領選の政治の季節を迎えて、日本の傘下にあれこれ注文をつけていますが、日本の要求を削ぎ落とす交渉のテクニックです。日本の参加なきTPPなど考えてもいませんから、日本にとって「TPP不参加」という選択肢など実際はあり得ません。(P211)」
 ちなみに大前研一はTPPなどアメリカ国内では全く問題ではなく、騒いでいるのは日本人だけで、締結したとしても実効性はなく、気にするほどのものではないと判断していたな。

・「(佐藤)(日米豪の同盟を敵視するのではなく)バランス・オブ・パワーによって、台頭する中国を牽制していくというのが、プーチン政権の基本戦略といっていい。(P219)」

2013年6月16日日曜日

橋本龍太郎外交回顧録 五百旗頭 真 (編集), 宮城 大蔵 (編集)

【要約】
・ポマードな首相という印象しかないのだが、まぁ、なかなかに武闘派で、しかも率直な人だったらしい。当時の状況をズバッと本音っぽく語っているのがなかなかに面白い。所詮、政治家が自分の過去を振り返って語っているのだからというフィルターが自分の中にないではないが、そればっかりではあまりにも世知辛い。

【ノート】
・「(法制度上の準備ができていないときは、結局そういう「超法規的」と称する違法行為をやるしか)仕方がないのですね。(P59)」

・「公邸にいるときに当時の田中均外務省北米局審議官が「県内移設が前提だったら、返すという可能性があるかもしれません。ただ、事前に出せません。押してみていいですか。どうしましょうか」、と。「押してくれ」と、すぐ私は答えたのですが、そのときに「ああ、やっぱり同じことを考えてくれたな」と、ものすごくホッとした記憶があります。(P70)」

・「橋本:中国を牽制するためにロシアをアジアのプレーヤーのなかに入らせるということを本気になって考えていました。(P81)」

・「何だかんだと言われていますが、実はスハルトはジャカルタに入ったときに買った家にずっと住んでいたわけです。想像するよりは慎ましいと思います。一般庶民から見れば非常に贅沢だということになりますが、あの国の贅沢というなかには入らない家でした。彼がいかにプライドを傷つけられたか(P93)」

・「インタビュアー:マルチにおいて、どういうところがポイントなのでしょうか。
橋本:最大公約数をみつける能力でしょうか(P97)」

・「とにかくわれわれはここで日米交渉を決裂させちまえと。ただし、どんなことがあっても先に席を蹴って帰るのはアメリカにしようと。そして帰るやつに「まだ話そう、話そう」と言って、それを振り切ってアメリカが席を立ったら、立った瞬間に世界中に手分けしてその状況の説明に回れ、というのを手ぐすね引いておりましたので、これは非常にその通りにいきました。(P124)」

 こんな感じで、考えてシナリオを練った上で、タフな交渉に臨んでるんなら、それが裏目に出ても責めることはできないわね。

・「湾岸危機から湾岸戦争のときに、まったくそういう設備(オペレーションルーム)がありませんで、官邸の小食堂と大食堂の間の「喫煙室」といわれる部分に機器を入れ、大食堂を仮睡の場所にして使ったのが最初です。これが反省で、「オペレーションルーム」と称するものを作ったのです。言いたくないないのですが、いまの官邸の主、官房長官はまったく使い方を分かっておられないですね。(P131)」

・ペルー大使館の占拠事件についての口述もまた、なかなかに生々しい。「救出作戦自体は、フジモリがいばったようなものではなくて、計画はずいぶん失敗しています。そしてそれは私自身、あとでお礼に行きましたときに公邸のなかに入って、それまで言われていた『誰がここで死んだ』という記憶と当てはめてみましたところ、やはり違いました。階段の途中でセルパは殺されたというのですが、なるほど階段の途中には血痕はありますが、人一人死んだ血痕ではありません。SPに同じことを『きみ、どう思う?』と聞くと、彼らはさすがにプロで、『弾痕がありません』と言いました。(P140)」

・「ややもするとわれわれは中国共産党の首脳部と中国政府の首脳部を考えるのですが、人民解放軍の影響力を見落としてはいけないということです。(P146)」

・「日本は安全保障という点で、私はこれからも出すぎる能力を持つ国ではないと思いますし、また持てないだろうと思います。これもあまり表にバレずに済んで、私は幸せに辞められたのですが、例えばソ連海軍と海上自衛隊は、私が辞める前日から最初の共同訓練をスタートさせました。オーストラリア海軍と共同訓練をやりました。これもやって、全然バレずに済んで、私は非常に幸いなのです。インド海軍と日本の海自の共同行動、共同訓練を視野に入れてアプローチをしてきていますし、その切り口は海賊対策です。(P157)」

西郷隆盛と明治維新 坂野 潤治 (著)

【要約】
・西郷隆盛と言えば征韓論。しかし、彼は決して征韓論を支持していたわけではなかった。征韓論を声高に主張したのは板垣退助で、西郷隆盛は海軍の朝鮮挑発を卑劣な振る舞いだとして非難していた。だからと言って西郷が非戦論者だったというわけではないが、やるんだったら相手は中国という意識を持っていた。朝鮮には特使を派遣して交渉しようと考えていたのを、岩倉具視に歪曲されて天皇に上奏され、征韓論者的な立場に仕立て上げられてしまった

 征韓論者ではなかった西郷が、なぜ最後に挙兵することになったのか、それこそが本書の重大トピックであると冒頭で著者によって宣言されている。しかし、彼の勝算への目配せまで検証しながら、肝心の動機の部分については、自身の力量不足として突き詰められないと告白して終わりになってしまっているのは、やはり消化不良感が残る。

【ノート】
・幕末から明治にかけての薩長土肥、そして朝廷と幕府の重要人物の動きを書簡などからの引用を数多く見ながら著者と一緒に紐解いていく西郷隆盛の動きは予想以上に面白かった。

・西郷隆盛はもちろん、勝海舟、木戸孝允、岩倉具視などの書簡などからの原文引用が多い。読み慣れないので最初は一字一句ちゃんと追っていかないと意味が分からないので億劫だったが、慣れていくと当時の雰囲気が分かって面白くなってきた。

・著者は、何度か本文中で明言している通り、西郷隆盛萌えである。だから、例えば嶋津久光や大久保利通、岩倉具視の描き方は、西郷擁護の観点から描かれているが、逆からの見方もあるはずだ。

・未読の松岡正剛「日本という方法」の出だしは西郷さんから始まる。「『なぜ西郷隆盛が征韓論を唱えたのかの説明がつかないかぎり、日本の近現代史は何も解けないですよ』といったことを口走りました。(P7)」とのことだが、この時と今の松岡正剛さんの考えは、本書の見立てと通じているのだろうか。

知の逆転 ジャレド・ダイアモンド, ノーム・チョムスキーほか (著)

・第一線で活躍している研究者へのインタビュー集。札幌ではなかなかの人気で、自分の後には40人の待ち行列。

ジャレド・ダイアモンド:イマイチ。トップであることから見ても、彼がこの本のパンダだと思うが、内容に対する印象はイマイチ。(当然ではあるが)最近出版された「昨日までの世界」に関する言及が垣間見れるのが興味深いと言えば興味深い。自分は「昨日までの世界」は上巻だけで止めた。あまり彼の世界にのめり込めないのかな。

チョムスキー:名前だけは知っているが、著作は未読。「生成文法」というキーワードだけで既に刺激的だなあ。「虐殺器官」も影響を受けているのかも。言語学なんだが、政治的な活動をしているというのも興味深い。まずは新書から読んでみようか。

 「民主主義はそれ自体に価値がありますが、実際には、何らかの権利を求める場合、人々はその権利獲得のためにたいへんな努力を払う必要があります。(P96)」銀河英雄伝説を思い出させる一節。


サックス:神経学者。脳と認識に関する話は面白い。デ・ニーロ主演の「レナードの朝」の著者だそうな。

 「言語野がないほうの脳で言語的な発達を促すことだってできるのです。驚くべき脳の柔軟性の例です。大人の脳でこのように言語のベースが移動するというようなことが可能だとは誰も思ってもみなかったことです。(P141)」

 「音楽の才能あるいは感受性というものは、それ自体が独立していて、知能が低いあるいは強い自閉症の場合でも、驚くべきレベルまで到達することができるようです。(音楽の能力は)領域特定化しているようです。(P147)」


ミンスキー:AI研究者。ロボットに関する研究は、人間らしく見せる見栄えばかりが優先され、原発事故の時に役立つようなものが成されていないと批判。「ユングは既に科学として消え去っている」って、そうだったの?インタビュアーも同意してるけど...。「文学は類型が同じなのでSFしか読まない」とはなかなか痛烈。

レイトン:アカマイを起業したMITの先生。アカマイは高速配信を可能にする分散型のコンテンツ配信技術。アカマイ社の設立、運用に関する舞台裏がインタビューの基本。

ワトソン:ノーベル受賞の分子生物学者。協調メインの組織力より個人による達成をもっと評価していかないと科学の進歩は鈍ると断言する。言ってることが偏屈な爺さんの戯言に近いものもあるような印象を受けた。

2013年5月26日日曜日

外交証言録 湾岸戦争・普天間問題・イラク戦争 折田 正樹 (著)

【要約】
・面白く読めたが、どうしても「包み隠さず」話してないよねえ?という、うがった気持ちと、それにしても何でこの内容で、こんなに高いの?というのがある。岩波で企画シリーズの3冊目らしいが、編集者の後書きを読む限りでは聞き取りそのものにかかった時間は最大で30時間弱のはず。後は編集者の作業賃が高いのか?「本書が広く読み継がれることを祈りたい」って、だったらもっと値段、下げて欲しい。内容的には口述だけど日本の外交史のリファレンスとして手元に置いて、時々参照したい類いではあるので。そのうち、現代文庫で出るのかな。

【ノート】
・在米大使館で、日本についてアメリカに発信するのが主な仕事とのことだが、それを我々国民が知ることは可能なのか?(P75)

・覚えてないとのことだが、これはきな臭いからふれることを避けてるのか?安全保障だよ?(P85)

・意外と権力者っつっっても、世間でのイメージほどの全能的な陰謀ってわけじゃないんじゃないの?と感じさせられる。(P104)

・サッチャー、「記者会見は平気でやっておられるのですか?」「とんでもない。記者会見は、自分は緊張してもう嫌なんです」(P113)

・佐藤優氏が取られた情報かどうかまでは確認しませんでしたが、外務省からは多くの貴重な情報が入っていました。(P155)

・秘密にしていた普天間返還合意が日経ワシントンの記者(宮本明彦ってらしい)にスッパ抜かれた。橋本総理から秘密を厳命されてたのに。(P199)

・「フセインが安保理決議に従って、どこでも全面的に査察を認めていれば、こういう事態にならなかったかも知れません」って、どこまで本気で言ってる?さらに、P235では「大量破壊兵器がなかったというのは後でわかった話ですが、やったのはけしからんという議論はできるのかもしれませんが、それは後付けの議論です」というのもそう。(P233)

・日本人は他国の意識について理解が浅すぎると感じています。依然として心に傷を持っている人がいるということを踏まえて将来のことを考えるようになって欲しいと今でも思っています。(P240)

・「カプランは反日グループの中心となっていました。(日本に招待したところ、)自分は酷い目に遭ったが、広島、長崎を見ると日本人も酷い目に遭ったことがわかった、原爆のことを考えると投下したのは米国かもしれないが、投下の決定には英国も加わっており、英国にも責任がある、自分の余命は短いかもしれないが、日英関係のために努力したいということを伝えてきました。この辺りはちょっと感動的。(P243)

・イギリスは考え方が教条主義的ではない、非常にプラグマティック。フランスもドイツも最初に理想型ありきのところがあるが、イギリスはそういうことよりも慣行が積み重なり、現在はたまたまこうなったということがあります。(P246)

・(常任理事国入りに対して)あんあmりイデオロギー的に日本はこうだとやるべきではないでしょうね。アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスがそういうことを言っているかといったら、そんなことは全然ないわけです。日本は積極的な役割を果たしたいということでいいと思います。(P260)

・日本は戦後、大変な努力をして復興を成し遂げたが、それは国際社会あってのことだということを銘記しなければならない。日本の国益は確保していかなければならないが、国際社会の中で大きさに応じた役割は果たしていくべきだと意識する必要があると思う。これからは多極化の時代、アメリカや西欧主導では済まない世の中になってきている。アメリカは非常に大きな国であり続けるのでしょうが、世界の中での相対的な力と言うことになると、小さくなっていくでしょう。それからヨーロッパにしてもそうでしょう。アフリカやバルト諸国のような、普段話題にもならないような国が日本をどう考えているかと言うことにも、思いを致す必要があると思います。(P264)

2013年5月25日土曜日

日本の「情報と外交」 孫崎 享 (著)

・現代では、少しの手間で入手できる情報により、情報マフィア予備軍ぐらいの情報を得ることができる。「『フォーリン・アフェアーズ』を読むことは、米国国務省政策企画部マフィアの準構成員レベルに行けることである。(P88)」

・東西ドイツの壁崩壊につながる動きの端緒はハンガリーからだったが、その動きを画策したのはアメリカのパパ・ブッシュ。だが、CIA長官も務めたブッシュは「『成功は人に告げることなし』のモラルをもっていた人物である。(P117)」

・「重要なことは、世界の情勢を見るとき、『まず大国(米国)の優先順位を知れ、地域がこれにどう当てはまる?』を考えてみることである。(P131)」

・「CIAというと一般にタカ派の拠点の印象を受けるが、米国の政治抗争の中では、CIAがハト派に位置する場面が多い。(P191)」

・「したがってCIAは、自由労働運動の強化、競争的な協同組合の結成、各種の文化的、市民的、政治的団体の援助にも、多くの努力を払った。(P216)」いわゆる「隠然的影響力」ってやつか。

・「『ロシア現政権には、歯舞、色丹を除き、北方領土で日本に譲歩する可能性はまっくありません』『米国をはじめ各国の対応を見ていると、いま、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になれる可能性は存在しません』(P250)」とのことだが、この解釈は折田本と真逆。また、北方領土についての見立ては鈴木宗男や佐藤優の本と真逆。

・「国際社会での米国の優位性の後退は、避けがたい潮流と思う。同時に中国の力は上昇する。米中の狭間にあって、日本の安全保障政策の舵取りは難しい時代に入る。否応なしに独自の情報能力が問われる時期が来る。ほんとうはその日に備え、日本は情報機能を強化すべき時期に入っている。(P261)」

・山本七平の「空気の研究」、本書でも出てきた。読まなきゃ。

・ちなみに、孫崎さん、ちょっと日本語の使い方に難アリな印象が散見された、意外だが。

2013年5月18日土曜日

縫製人間ヌイグルマー 大槻 ケンヂ (著)

・異性からやってきた綿状生命体。ぬいぐるみの中に入り込み、一方は愛のあふれる家庭の子供の元で、もう一方は愛のない家庭の子の元で過ごす。やがて、それぞれが悲壮な決意を胸に秘めることになるXデイがやってくる。「姫を守り抜いてくれ」「僕の代わりに人間を沢山殺して」。その数年後から世界征服を企む悪の組織やアメリカ合衆国、そして高円寺のご町内を巻き込んだ壮絶な物語がスタートする。

・傑作の予感があったんだが期待外れ。ちょっと期待値が高すぎたか。結構、泣かせる場面もあるし、不覚にも涙があふれてしまった場面もあるが、お話としての荒唐無稽さと、その割にイマイチまとまりが欠けるというかチグハグな感じとがうまく合っていなかったような印象だった。これは、オーケンの日本語の使い方が小説家としての基準をクリアしていないという点にも起因するような気がするし、人物描写で違和感を持ってしまうような箇所が散見されるのも原因の一つだろう。ちょっともったいない。

・もちろん、面白くないというわけではなく、読み始めると一気に引き込まれて読んでしまったのは事実。だが、少しあざとさを感じるギャグの構成や表現の仕方に目をつぶったとしても、全体的にはイマイチ感が強いというのが正直な読後感。続編に言及しながら、もう発表から7年も建ってるので、多分、この世界観に自分で飽きてしまってるんだろうなとも思う。

・しょこたん主演による本作の映画化、どうやら設定やら筋書きやら、色々と変えられてるみたいだが、興味はある。来年春公開か...。

政治の修羅場 鈴木 宗男 (著)

・政治家の自叙伝なので、まぁそういう内容だが、中川一郎にはじまり、田中角栄、金丸信、竹下登などに関する記述は面白い。ゴルバチョフやエリツィン、プーチンとの会談の話も興味深く読めた。ムネオハウス報道の頃は利権まみれの悪徳政治家だと思っていたが、佐藤優さんの著書の影響もあり、どうやらそうでもなさそうだと最近思い始めてる。

・昨年11月に帯広に行った時、別のホテルに投宿した同僚が鈴木宗男がいたと言っていた。いつか機会があれば会って話してみたい。

・「民主主義とは折り合いをつけていくことなのだ。(P119)」

できる人はなぜ「情報」を捨てるのか 奥野 宣之 (著)

・タイトルに偽りあり。少なくとも自分が期待していた内容とは違った。期待していたのは、スマートな人が情報を捨てることによってどのようなメリットを得ているのか、その考え方や思考の構造についてだった。それに対して本書は2009年に刊行された「情報は『整理』しないで捨てなさい」の文庫化であり、内容的にもそちらのタイトルの方がしっくり来る内容だった。

・自分はrtmなりevernoteなりに情報を記録、蓄積しているが、どうもそのことによるメリットをあまり感じられていない。このことが本書を読む動機になったのだが、そんなわけで、期待していたものは得られなかった。

・「縦と横に散らす」。たとえば「環境」をテーマにするなら、
 横:友達の家ではどうやって節電しているか、中国のリサイクル事情は、ヨーロッパの政策は、他社の環境報告書はどうか。
 縦:原始時代のゴミ問題は、江戸時代のリサイクルの仕組みは、戦時中に物資不足になったときの省エネ方法は。(P92)

・生の情報を取り分けるトレーニングとしてテレビを見ながらノートを取る。30分程度のニュース番組やNHKの高校講座など。(P110)

・「司馬遼太郎の小説は歴史書ではないが、正確な事実だけを並べた歴史書に触れるよりはずっと日本史に対する基礎知識がつくでしょう(P128)」とあるが、これは佐藤優の指摘とは合わない。自分としては佐藤さんの意見を採る。

・情報を入手するコストについての意識を持つ(P156)。

・青空文庫全文検索サイトってのがあるらしい。http://www.su-ki-da.com/

・時事ドットコムがよいらしい。(P187)

・やっぱい文藝春秋は面白いらしい。(P189)

・「資料を読んで疑問が湧いたら、気後れせず「リリースを読んで、もっと知りたくなったのですが」と「問い合わせ先」に電話してください。(P196)」

・書類に「×」を書く。自分が目を通したものには「痕跡」を残すと再読時の手間がグッと軽減される。(P211)

・「思いついた『ネタ』を書いておくときの大事な心構えは、『決して恥ずかしがらないこと』です。」「会議で腑に落ちないことがあっても発言できない、セミナーでわからないことがあっても手を挙げて質問できない、面白いと思っている企画があるけれど提出できない...。『目立ちたいだけと勘違いされるのでは』『バカだと思われるんじゃないか』『ヘンなヤツだと思われるかもしれない』こういう心配をしていたら、未来永劫『人と違うアウトプット』はできません。僕が思うに、わが国の教育や社会文化は、このような自己規制の思考パターンをつくり上げることにかけては天下一品です。誰でもこうなってしまいます。だから、こんなケースに心当たりがある人は、『戦略的インプット』の前に、その事なかれ主義や自己検閲の癖を捨てる努力をしてください。(中略)ノートに手書きすることは、この『タブーのなさ』を確認する効果もあります。(P240)」

・横着(知的怠慢)しない。資料を配られたら一番重要な部分はどこかチェックする。「うまい話」をささやかれたら、その信憑性や発信者のメリットを想像する。いちいち考える、いちいち自分で判断する。(P251)

 

2013年5月11日土曜日

暴いておやりよドルバッキー 大槻 ケンヂ

【ノート】
・筋肉少女帯は社会人になってから聴き始め、一時期はヘビロテだった。ベースマガジンで内田雄一郎が「断罪!断罪!また断罪!!」についてのインタビューを読んだのが聴くようになったきっかけ。ちなみに、このアルバムに収録されている「何処へでも行ける切手」の中で歌われている「包帯で真っ白な少女」というイメージが、その後、エヴァンゲリオンのレイになったというのは有名な話。

・オーケンは本もたくさん出版しており、久々に手にとってみた。本書はエッセイ集で、筋少再結成の頃の舞台裏も少し分かるようになっているが、イマイチという印象だった。自分がそれほど熱心なファンではなかったからか、特に感慨を感じるでもなく、「だから何?」というような感じでしか読み進めなかった。笑わせようとして書いている(と思われる)部分も、ちょっと作為的に過ぎる印象。

・著者による「新興宗教オモヒデ教」や「のほほん雑記帳」などは面白かったが、本書はそんなわけでハズレでした。なお、もちろん本書ではないが、松岡正剛さんが千夜千冊の中でオーケンの本を取り上げているのは興味深い。

 

ラーメンと愛国 速水 健朗 (著)

・ラーメンを軸にして見た戦後史と今の日本の一側面。日清食品の安藤百福に始まり、佐野実、天下一品、一風堂の河原成美、果ては二郎から六厘舎、夢を語れまで出てくるが、味がどうこうという本ではありません。田中角栄の日本列島改造論から内田樹に須藤元気まで。その目配りの仕方が、自分にはちょうどいい感じだった。

・ラーメンという中国由来の食べ物が、今や「表層的な」ジャパネスク概念の体現の一翼を担っている。「作務衣」のユニフォーム化に加えて「ご当地」的な意匠のメニューでナショナリズム的なムーブメントすら漂わせているラーメン業界。でも、元々ラーメンは給食のパン食化というアメリカの占領政策の延長線上での小麦粉大量消費が背景。考えてみりゃ、うどんやパスタも小麦粉だった。また、言うまでもなく、中国由来。

・さらに、今のラーメン業界は、イタリア発の「スローフード」因子も包含、つまり、右派左派両方のベクトルも持ち合わせている。「右派」というのは「ご当地」との結びつきで、「左派」というのは大手資本によるファストフード店やフランチャイズ化を拒否している部分。ただし、ラーメン業界におけるナショナリズムは、多様な文化を認めた上でのナショナリズムだと本書では(他書からの引用ではあるが)述べられている。

・それにしても、チキンラーメン生みの親、安藤百福は、毎日昼にチキンラーメンを食べていたとあるが、他の本ではカップヌードルだったりして、どれがホントなんだろう?多分、幾つかの基本的な商品をローテーション的に食べていたというのが現実的なところではないかと思うんだけど。

決断できない日本 ケビン・メア (著)

・アメリカ側の対日スタッフを続けて19年間の記録保持者でもある著者。「沖縄はゆすりの名人」報道で一躍有名になったが、自分は「はめられた」と主張している。こういうのって、アメリカが日本のメディアを使ってやってきている部分が多分にあると思うので、アメリカサイドの高官がそういう目に遭うこともあるのかというのが新鮮な印象。それすらも、誰かのシナリオに沿ったものかも知れないけど。

・日本や沖縄は在日米軍を悪者にしてるけど、自分達がいなくなったら、中国、やりたい放題ですよ?というのが著者の基本姿勢。「力には力」ということではTwitterで強硬な発言を続ける田母神さんと同じ論調。当時の民主政権をはじめ、官僚組織などについての直言、苦言については、ご本人のかつての立場が立場だけに、読み手としては身構えてしまったというのが正直なところ。もちろん、だからと言って、本書の全てをプロパガンダとは思わないけど。

・なおこの人はアンチ小沢一郎というスタンス。また、3.11の管さんに対しても「政治的パフォーマンスだけ」と厳しい評価で、東電には同情的(「所詮、東電に当事者能力なんて期待できるわけないでしょ、という、ある意味、子供扱い)。

なにもかも小林秀雄に教わった 木田 元 (著)

・木田元の著作は未読で、哲学者ということだけ知っている。なので、本書は「小林秀雄」論を期待して読み始めた。だが内容としては、彼がハイデガーへと至る道がどうやって形成されたかを知ることのできるといったものだった。そこに興味がなく、小林秀雄論を期待した者からすれば期待外れのエッセイに過ぎなかったという印象。ただし、木田さんが興味を持った複数の思想家と小林秀雄との共通性についての所見は面白かった。若干、牽強付会の印象もないではないが、優れた思想家であれば洋の東西を問わず、類似した問題意識、思考を辿るということなんだろうな。

・タイトルに偽りありと言ってもいいんではないだろうか。著者自身も書いてる通り、「小林秀雄だと思ってたが、ちゃんと思い返してみると、他にも師匠(と呼べる本)がたくさんいた」と、なかなか、タイトルに対して無責任な記述が。要所要所で小林秀雄が出てきてはおり、終章では「やはり小林秀雄が総元締めだったのかと思わないでもない」という記述があるが、これはこじつけた感が拭えない。

・歴史の歯車がもう少し違っていたら、哲学者ではなくて闇屋になっていたという戦後の暮らしぶりについての描写は面白かった。とは言え、「永山則夫」で、悲惨な戦後の家庭を本書の直前に読んだだけに、木田さんの境遇との違いに、少し気分は沈んだ。

永山則夫 封印された鑑定記録 堀川 惠子 (著)

・「永山事件」。自分の年代にはあまり馴染みのなかった連続殺人事件。永山則夫の精神鑑定が行われたが、結局、死刑になった。本書は、二回目に行われ、黙殺された精神鑑定の詳細な記録。

・当時は「貧困と無知がなさしめた」という解釈が、いつものごとくマスコミによって紋切型の垂れ流しで報道されたらしい。しかし、ほとんどカウンセリングとも言える担当医との対話で少しずつ明らかになったのは、そんな単純なものではなかった。

・永山則夫の、あまりにも悲惨な人生に、読んでて辛くなった。少し夢見が悪くなったぐらい、マヂで。

・担当医の真摯な姿勢により、心を開いて記述を行った永山は、しかし、最後にその鑑定結果を否定してしまう。ショックを受けた担当医は、本件後、精神鑑定を行わなくなってしまう。だが、永山は...。それまでが比較的淡々と永山の証言が記述されているだけに、終盤での展開はちょっと目頭が熱くなるドラマチックな盛り上がりを見せる。

・もし自分が殺された側の遺族だったらどう感じるのだろう。全く想像できないが、やはり極刑を望むんじゃないだろうか。

・札幌市の図書館に「岩波」キーワードで登録している入荷アラートで知った。速攻での予約だったのですぐに読めたが、2013/05/10時点で後ろに33人の予約待ち。

2013年4月27日土曜日

感動をつくれますか? 久石 譲 (著)

・宮崎アニメの音楽と言えば久石譲というのが定番になっているが、ナウシカのBGM担当は細野晴臣だった。でも彼の作る音楽が世界観に合わなかったのでリリーフに久石さんが採用されたのがはじまりだったはず。

・久石さんが最初はミニマルミュージックを作曲する芸術畑だったというのは初めて知った。「ポップ」ということについての考え方には、大野雄二の「ルパン三世 ジャズノート&DVD」と似た印象を受けた。

・「歌詞というのは、言葉が時代の空気に合った瞬間に、サーッと広がっていく(P185)」という最後の方の一文が「詩歌と戦争」を連想させた。念のため確認すると「詩歌と戦争」は2012/5/26、本書は2006/08/10。それだけに「詩歌と戦争」の説得力が増すことになる。

・ブックオフでたまたま目にして購入。

2013年4月21日日曜日

特撮ヒーロー番組のつくりかた 小林雄次 (著)

・特撮ヒーロー番組について 1) 主として円谷陣営の最新作品の裏事情 2) 仮面ライダー陣営の平成事情 3) 戦隊もののこれまでの来し方 というポイントで読みやすく解説してくれている。最近の特撮事情にあまり詳しくない人にオススメ。ちなみ著者は1979年生まれで、既にウルトラマンマックスの脚本なんかも手がけてる。そんなわけで、ウルトラマンゼロが登場してきてからの円谷サイドの考えなどについて語ってくれてるのは、なかなか得がたい資料。だからと言って、ゼロのキャラクター設定にはまだ首肯できるものではないが。

・「人間態を持たないゼロのやんちゃで人間臭い口調やキャラクターは、子供たちにとって親しみやすい存在になった((P108)」とはホント?

・「特筆すべきは、バット星人という従来の宇宙人のあとに「グラシエ」という個人名を付けたことにより、俄然、個性が生まれたことだ(P237)」って、「バット星人・グラシエ」という新たな種族かと思ってました。そういうことであれば、ちょっとエポックメイキングな試みと言えるかも。ただ、星人という文明に属するものを相手にするのであれば、その個体がずっと出続けるのか、また、その必然性は?ということにもなりそうだが。ちなみにマックスに出てきた萌え〜なタイニー・バルタンは明らかに個体を特定して再登場してほしいよね。

・ロボコップを製作する際、バーホーベン監督がギャバンのデザイン引用許諾を求めた手紙を送ってきていたとは知らなんだ。

・「私は自分の書くストーリーが子供たちに夢を与えていると言い切る自信はない。また、「夢」という言葉を安直に使うこともはばかられる。(中略)だが、これだけは断言できる。特撮ヒーロー番組には、人の心を救う力がある、優れた作品は誰かにとっての希望になり得るのだ(P266)」。

マンガ・特撮ヒーローの倫理学―モノ語り帝国「日本」の群像 諌山 陽太郎 (著)

・日本は物語の構成フォーマットを守って「モノ語り」を紡ぎ続けている世界でも希有な「モノ語り帝国」とのことだが、そこへ至るまでの様々な前提の固め方が強引な印象。自ら、モノ語りのフォーマットは世界的な普遍性を持つと言いつつ、それを現在も踏襲しているのは日本だけであり、だからこそ世界でも力を持つというのは、あまりにも稚拙な結論付けではないか。モノ語りのフォーマットについては神話にアーキタイプがあるというのはJ.キャンベルが説得力を持って検証済みだし、ルーカスが、そのキャンベルの説を下敷きにしてスターウォーズを構想したというのは有名な話。

・久々にハズした本だったというのが正直な読後感。ただし、手塚治虫と石ノ森章太郎の対比についての論点など、面白いと思う箇所も幾つかあった。自分の読み込み方が足りないのか?方法論と結論が先にありきで論旨が構築されているような印象を持った。

2013年4月14日日曜日

信念をつらぬく 古賀 茂明 (著)

・他の本でも古賀さん書いてたけど、政治は国民が少しでも関心を持って行動することが大事。その具体例は、1000円でもいいから献金して、何をやってるかちゃんと見るということ。複数の著書で繰り返して言ってるってことは、結構有効なことなんだろう。

・また、本書では、官僚も政治家も結構普通の善良な人だという当たり前だけど曇りがちな認識を示しているのもよかった。自分もステロタイプな悪役責任論に陥りがちなので。

2013年3月30日土曜日

最新型ウイルスでがんを滅ぼす 藤堂 具紀 (著)

【要約】
・ありふれたウィルスであるヘルペスに遺伝子組み換えを行いったウィルスで癌細胞だけを攻撃し、安全性も高い治療を行うことができる。しかし、実用化までへの遠い道のりには日本特有の特徴があり、この短縮化が望まれる。

【ノート】
・ターゲットを特定し、それだけを攻撃するウィルス。つまりメタルギアに出てきたFoxDieウィルスか。深いな、メタルギア。

・ちょうどなかにし礼の話で陽子線治療について知ったところだったので、癌治療最前線の情報がまた増えた。

・こちらで受け付けてるみたい。http://trac.umin.jp/hospital/ct.html

2013年3月24日日曜日

カラスの教科書 松原 始

・軽妙な語り口で面白く読める。元来、スズメとカラスが大好きなので、カラスに関する面白・珍エピソードについては既に自分でも体験しているものが多かったが、ハシブト、ハシボソの違いについては無知だったので知識を吸収させてもらった。下鴨神社の糺の森、そんなにカラスいたっけ?という印象だが、自分が子供の頃と今とでは都市環境も変わっているのだろう。

・知床に行くとワタリガラスを見られるらしいが、職場で聞くと、白糠辺りでも見られるらしい。まだ見たことがないので、是非見てみたい。

・それにしても札幌の図書館で自分の後に35人待ちで、市の施設のうち5館も購入済とは、ちょっとしたカラスブームなのか?

2013年3月23日土曜日

コクピットイズム No.11 MILITARY EDITIO―ヒコーキ操縦主義マガジン

・こんなマニアックな雑誌があるとは!F15に始まり、F16、F/A18、Su27からアパッチヘリなどのコックピットが掲載されている。しかも各パーツの名称付き。だからと言って、この本があれば操縦できるということにはならないが(笑)。

・F22やB2のコックピットの写真まで掲載されていることに驚き。この程度の情報は最早隠すまでもないということか。ユーロファイターのタイフーン機のF22に対する勝率が10%以下と英国防省がシミュレーション結果を発表しているというのも面白かった。

2013年3月16日土曜日

メディアが出さない世界経済ほんとうの話 田中 宇 (著)

・アメリカの動きには奇妙な矛盾が散見される。失敗するような政策を故意に採っているように見える。本書の著者はそれをアメリカ内の覇権主義と多極主義との暗闘と見る。覇権主義はアメリカの力によって世界のバランスを管理しようというもので、多極主義は世界を幾つかのブロックに分けてバランスを保とうというもの。覇権主義と多極主義という対立軸は、イデオロギーと資本家との対立軸でもあるらしい。
 覇権主義体制が続くのか、一挙にアメリカの力が低下し多極主義に移行していくのか。著者が見るところ、前者の巻き返しはかなり難しいらしい。ちなみに、この対立の歴史を読んでいるとまたもやメタルギアを思い出してしまった。

・紐解いていくと、元々ヨーロッパにはあんまり関わりを持ちたくなかった孤立主義的傾向の強かったアメリカに覇権主義の動きが出来たのは、戦後すぐにチャーチルがアメリカで「鉄のカーテン」演説で共産陣営の脅威をあおり、アメリカ中枢に人員を送り込み、アメリカをイギリスの「傀儡化」した時からの流れ。加えてアメリカにはイスラエルからも人員が送り込まれ、主として「ネオコン」層として機能している。中近東の憎まれっ子イスラエルとしてはアメリカに後ろ盾になってもらうことで自らの安全保障とすることが死活問題だった。

・本書は誇大妄想的な陰謀論説と言えなくもないが、根拠、出典が示されているものが多く、さすが田中宇という感じで、大変面白く読ませてもらった。単純な陰謀論説ってわけでもないしね。手嶋龍一さんや佐藤優さんの知見も知りたい、すごく知りたい。「トンデモ本」と一言で片付けられる可能性もあるけど。
 なお、「覇権主義 vs 多極主義」という構図は田中さんが2004年に出した「アメリカ以後」でも示されている。本書は2011年12月だからその7年後になるわけだが、その構図が変わったわけではなさそう。ただし、そうなると、堤さんの「貧困大国アメリカ」でルポされていた戦争産業や刑務所産業のための貧困層の創出という流れはどういう説明になればいいんだろう?

・意外なことに、ニクソンは多極主義。覇権主義側にウォーターゲートで失脚させられたが、その前に訪中を果たしている。多極主義的世界観において中国は欠かせないピースの一つ。田中角栄の日中有効の働きかけは、ニクソンとも通じた動きだったとも。

・アジアブロックのバランスを司る大国は中国。日本ではない。日本はそのポジションを狙えるだけの実力があるのに、戦後の対米追従のラクさ加減になれ過ぎてしまったと著者は見ている。また、欧米に対して、覇権を狙う野心はもう持ちません、という恭順の意思表示で、諜報活動を封印してきている。こう考えると、前の政権時に安倍さんが日本版CIAを創設すると言ってたのは意味深なような。あるいはそこまで考えてなくて、単なる覇権への右翼的野心なだけという可能性もあるが。そして、多極主義への流れは中国でも敏感に察知している。BRICSもそうだが、上海機構は隠然と、しかし着実に足場を固めつつある。今は投機筋からの攻撃を警戒して人民元を解放していないが、部分的に人民元建ての決済も始めている。

・日本はどうなるのか。アメリカからの自立を目指した小沢・鳩山は官僚によって潰された。官僚はアメリカの意思を「忖度」している根っこの部分、つまり外務省の力が大きく、「アメリカがいないと」「アメリカに逆らうと」日本は大変なことになるというパラダイムでずっと来ている。でも実は、田母神さんがtweetしている通り、自衛隊の実力は中韓よりも上だと考えた方がいいのかも知れない(決してその姿勢に賛同はしないが)。日本はわざとフラフラすることで、覇権主義にも多極主義にも与せず、上手に渡り合おうとしているのかも知れないという田中さんの指摘が面白い。実は以前にオスプレイ配備を巡る日本の動きについて、実は優柔不断を装いながら、米中、どちらからもバランスよく距離を取ってるんじゃないかと友人と(冗談半分以上だが)話したことがあったので、この指摘はそんなに奇異なものには感じなかった。

詩歌と戦争―白秋と民衆、総力戦への「道」 中野 敏男 (著)

・戦争への道は単に軍部の暴走によって導かれたのみではない。国民側に、それを受け入れ、推進していく精神的環境が十分にあったということを、北原白秋と彼の作る歌、そして、それを受け入れていった国民の精神的な姿勢の変遷と共に論証している。いわゆる「空気」の醸成は決して体制側からの押し付けだけで成されるものではない。そのことを検証した、出版元に言わせれば「瞠目の書」。いや、ハッキリ言って賛同します。

・司馬遼太郎は太平洋戦争への道をほとんど軍部、特に陸軍の暴走にその責を帰している。加えて、そのような陸軍を、日本近現代史の中で理解しがたい特異点と位置付けている。読んだ時に、他に反証材料もないから鵜呑みにしていたが、微かな違和感を感じてもいた。本書を読んでその違和感が解きほぐされた感じがした。

・関東大震災後に盛り上がった「互助」「絆」。3.11後の日本と重なる。体制からおしつけられたわけではなく、民衆から自発的に始まり、拡散していった全体主義的な「空気」。これもまた、今の日本とダブルところがある。

・そのような事態の後に「絆」の大切さに皆が意識を向けるのは当然のことだ。だからこそ、本書で展開されている検証に重みがある。今の僕らの状態、時代の空気は、もしかしたら大戦前夜に近いのかも知れないのだから。AKB48の各地版なんかが、構造的には近いのかも知れない。こいつらが各地の賛歌を同期して歌い出したりしたらちょっと危険信号。いや、正確に言えば、それだけでは危険信号ではないのだが、そこに我々が同感しまくって排他的に盛り上がったりしたら危険信号だ。

2013年3月7日木曜日

Newtype THE LIVE (ニュータイプ・ザ・ライブ) 特撮ニュータイプ 2013年 04月号

・今号で休刊だそうな。今まで購入してたわけではないので「休刊は残念」なんて言えない。だから買ったわけではなく、高寺Pのtweet(あれ?白倉Pだったかな?)で知って、高寺Pの松田賢二との対談に興味を持って購入した。期待してた以上に面白かった。こんな場所でもやっぱり響鬼の降板理由は明らかにしないんだな、高寺Pってば。

モバイルミュージアム 行動する博物館 21世紀の文化経済論 西野 嘉章 (著)

・リーブルなにわで見て興味を持った。何と言っても僕の社会人生活は博物館の内装屋からスタートしてるのだ。ずっとIT畑で働いてきたが、超低賃金の過酷労働であったにも関わらず仕事の達成感が高かったのはそちらの方。未だ北見の緑のセンターを超える満足感を味わったことがない。

・本書はこれからの博物館のあり方への一つの提言と言ってよい内容なのだが、どうも前半はしっくりこない。「博物館かくあるべき」と主張していることがおざなりと言うか紋切り型の陳腐な話にしか感じられなかった。また、経済的な視点について何度も触れている割には、具体的な数字の提示がないのでステレオタイプな印象を持ってしまった。ただし、後半の具体的な話になると少し面白くなってくる。

・モバイル・ミュージアムとは収蔵物を可搬モジュールにして、移動巡回展、企業への収蔵物の貸し出しなどを行うことにより博物館の資産である(と著者が主張するところの)収蔵物の活用度を上げて、博物館の社会への寄与、プレゼンスを高めようというもの。読んでみると、どうやらある程度の収蔵物の規模がある中型以上の博物館が主たる対象となりそう。札幌で言えば開拓記念館や青少年科学館辺りということになる。

・僕自身が興味があるのは、どちらかと言えば道内市町村の小規模な博物館なので、本書で書かれていることを実践すると言うより、本書でインスピレーションを得たアイディアを実践してみたいと思った。ただ、博物館が提供する最大のものは、通常の空間では不可能なほどの大規模な展示物が包みこんでくれる空間感だと僕は思っているので、それがもっとオープンになればいいのになと思う。大英博物館に行った時、子供から若者達まで、ジーパン姿で展示物の前で座り込み、スケッチしたり宿題をやっているのを見たのが強く印象に残っている。

2013年3月4日月曜日

ルポ 貧困大国アメリカ II 堤 未果 (著)


・前著に引き続き、あまり愉快な気分にはなれないアメリカのお話し。ただ、冷泉さんの「アメリカは本当に「貧困大国」なのか?」を読んだ後なので、のめり込み過ぎずに読んだ。

・とは言え、やはり衝撃的な証言の数々には慄然とする。保険制度の改正については、推進派、反対派、そして現場の医師などに対する取材により、単に国民皆保険にするだけでは問題が解決しないという複雑さを浮かび上がらせている。

・前著では国民貧乏にすりゃ、徴兵しなくても入隊するしか選択肢がないという状況に慄然としたが、今回もそれに匹敵するインパクトの取材が。その名も「刑務所ビジネス」。囚人達は最低賃金を遙かに下回る賃金で働かせることができ、それを企業が労働力として利用する(!)。更に、その賃金の低さに加えて、民営化された刑務所(!)ではトイレットペーパーの使用料まで囚人から徴収し、出所したら、ムショ暮らしの間に借金ができてしまっているという、出口ナシ状態。更に加えて、アメリカでは刑の軽重に関わらず3回、有罪判決を受けたら問答無用で終身刑だそうで、この制度の名が「スリー・ストライク」。ふざけてんじゃないかというネーミングだが、刑務所暮らしにさえコストがかかり、出所したら既に借金まみれって、絶望的におかしくない?

・アメリカがこんな大変な状況なのだとしたら、それを打開するために自らの経済的権益を拡張する手段としてTPP(不勉強だが)などを強行推進するのも、もっともな話だと思えてくる。我々が思ってる以上にアメリカはアメリカで追い詰められているのかも知れない。


2013年3月3日日曜日

ウルトラマンマックス 視聴記-19(第29〜30話)

第29話 「怪獣は何故現れるのか」

 出だしからウルトラQな雰囲気満載の今回。ゲロンガのデザイン、何かバカみてえ(笑)。

 いきなりカイトとミズキ、デート?自分が怪獣の牙を折ったとか言ってる喫茶店のマスタ、何者?と思ったらウルトラQの一平じゃないか!

 1964年にタイムスリップ。何と満田監督自らカメオで監督役で、「アンバランス」の撮影現場。「胡蝶の夢」に続き、メタフィクション!?「アンバランスからウルトラQ」とはリアルなお話し。音楽も今回は何となくそれっぽい。

 テレビで「怪獣はどこから来るんでしょう」の討論会。古来より人間が夢想してきたものが具現化したのが怪獣との見方が提示される。環境バランスについての言及は今回、特にナシ。

 マックスに牙を折られて苦しんでるゲロンガの目に涙。なぜか、ちょっとウルッときたじぇ。そのまま奥多摩山中に運ばれたとのニュース報道。行き先は怪獣墓場ではなかったのね。これって、マックスが運んだのをDASHが確認してプレスリリースしたってことか。奥地に返されておとなしくしてるんだったら最初っから出てくんなという気もするが、シカクマと同じで、人間の領域にやってくると痛い目見るよ、と学習させることで、処分することなく自らの領域に帰してやって共存を図るということ。おぉ、多様性保全!宇宙人は外来種だが怪獣は地球の多様性の一部なのだ。

 今回のラストシーンはウルトラQの三人組。いや、ジーンときます。だって、オリジナル・キャストなんだもん。こういうオマージュは最高だ。

第30話 「勇気を胸に」

 夢の中でカイトが観る、もう一つの、あったかも知れない世界。それはマックスに助けられなかったカイト、という世界。なぜマックスがカイトを選んで助けたのか。そして、マックスに助けられていなければ自分は死んでいたということに改めて気付き、底知れない恐怖と不安を感じるカイト。
 場所は変わって、いきなり怪獣グランゴンの死体が、体の一部を喰われている状態で発見される。グランゴンは第1話で出てきた怪獣で炎系の方。怪獣というのは腐敗が早くて、それ故に化石が発見されていないのカモ、という辺りがSF。強烈な匂いに辟易している隊員達をちゃんと描いてるのはさすが。映像からして腐敗臭漂ってるからなあ。さすが、相変わらず手抜きがありません。同じく第1話で出てきたラゴラスと対で出現しており、しかもラゴラスに捕食されたのではないかとの見方がこの段階で提示される。
 自分はマックスの力に頼ってばかりとカイトが悩むのが新しく感じた。こういうのって、大抵、他の隊員がいじけて言うものだからなあ。
 また、それに呼応するように「僕は今日はじめて怪獣を恐いと思った」というショーンのセリフがリアル。どうやらラゴラスは自分が強いことを知っており、人間を見下してるってのが。グランゴンを捕食することで能力を強化させるって、使徒かよ!そんなラゴラスは、今回「ラボラス・エヴォ」という、何だかランサーみたいなネーミングを拝命して再登場。
 新兵器開発に行き詰まって悩むショーンとカイトの会話。カイトの決意、ショーンの決意。それを横で聞いてるミズキの表情がまたいい!何というか、このシーン、いいなあ。何というか、このシーン、いいなあ、って二回言っちゃうほどいい。こういう場面を丁寧に描くのってすごく大事だと思う。その後でミズキがカイトに「あたしにも話してほしかったな」ってスネてみせたりして、もう何スかあーたがた、完全にイイ仲ッスかー!ちなみに、もう任務中でも「カイト」「ミズキ」になってきちょる!周りも完全公認ッスかー!!
 ショーンのためにラゴラス・エヴォを足止めして時間を稼ぐDASHメンバー。その姿はマックスに頼らなくても自分でできるとこまでやるんだというカイトの姿ともシンクロする。ちなみに、今回はダッシュバードの操演の仕方が独創的だったかも。
 そんなDASHからの攻撃を平然と手で受け止めるラゴラス・エヴォ、敵ながらかっこいいぞ!
 マックスとカイトの対話。マックスは地球を観察していたとカミングアウト。本来は干渉しないというのが原則らしいんだが、カイトの気持ちに動かされてしまったというマックス。改めて両者の絆が確認されたところで、いっくぜいくぜいくぜ!(←キャラが違う)
 酸いも甘いも、ではなく、熱いも冷たいも使い分けるラゴラス・エヴォの火球を手で落とすマックスがまた力強い!今回のマックスは最初っからクライマックスだぜ!(だからキャラ違うって) 着地の際に飛び散る土砂の量もおざなりじゃない。苦戦している時に「マックスまで喰われちまう!」というコバのセリフがリアル。そう、怪獣だから喰っちゃうんだよね。しかもこいつ、既に他の怪獣喰ってるわけだから、余計にリアル。

 マックスの攻撃が決定打を欠く中で、遂にショーンの新兵器が完成!ミズキが「やったわね、ショーン!」」というのがステキ。ちゃんと主人公以外の隊員でもお互いの健闘や達成を喜び合えるというのが、絆を丁寧に描くってことでしょう。そして何と、今回はショーンの新兵器だけで怪獣をやっつけた!素晴らしい!

 「勇気を胸に」なんて、ありがちなタイトルだけど、今回の作劇だとこのタイトルの重みが味わい深くなる。

 マックスとたまたま同一化したカイトだけど、もしかしたら他の人間と同様、死んでいたかも知れなかった。そのことを自覚したカイトにとって、人間の肉体の脆さは、マックスのパワーを体感した今となっては一層不安な要素であるはず。そんなカイトだからこそ、無力感に悩む他の隊員の気持ちも分かるし、それゆえに「勇気を胸に」各人の資質を武器に、一歩前へ進んでいくことの尊さが分かる。そして、カイト=マックスに薄々気づいてるミズキ(多分)だからこそ、カイトとショーンの会話でカイトが持つ強さと優しさを感じ取ることができるのではないか。だからこそ「あたしにも話してほしかったな」と可愛くスネてみたくなったのではないか。

 ついでに言えば、寒い系の怪獣だったラゴラスは熱い系のグランゴンを取り込むことで熱いも冷たいもいけるようになり、強くなった。カイトは人間としての己の脆さを自覚することにより、物理的な強さと精神的な強さの両方の価値を見出した。こんな構造を読み取るのは、ちょっと行き過ぎか?
 これまでのウルトラシリーズでも、仲間との絆を描いた作品はあったのだが、弱さに気付く主軸が主人公であるカイトだったことにより、奥行きがグンと深いものになったように感じた。

2013年2月27日水曜日

混迷するシリア――歴史と政治構造から読み解く 青山 弘之 (著)

【要約】
・現在のシリアの状況は、アサド政権が残忍な弾圧者として報道されているが、事態は単にアサド政権が退陣すればよいという単純な問題ではない。トルコ、パキスタン、イスラエルからロシアまでの周辺諸国との複雑な地政学的観点から見た時に、現政権からバトンタッチされるに足りるだけの勢力がないのも事実。アラブの春以降、アサド政権は、それまでに反対勢力が掲げていた要求をある程度は認めて法律も施行しているという事実もある。

【ノート】
・10年来、アレッポの石鹸を愛用している。洗顔洗髪から体を洗うのまで、全てこれ一つでやっている。アレッポがシリアだというのは知っていたが、シリアがどこにあるかは知らず、何となくイタリアの近くにあるのかと思っていた。これは多分、アレッポの石鹸がオリーブからできているのと、シチリア島と語感が似ていたからだと思う。だからというのも変だが、シリア内戦のニュースを聞いた時から気になっていた。それと同時に、そこまで国民を弾圧、虐殺したと報道されているアサド大統領や現体制について、果たして、本当に、そんな映画に出てくるような分かりやすい悪者なんだろうかというのが気になり始めた。

・本書では決してアサド政権の弾圧姿勢を容認してはいないが、反対勢力が分裂、批判し合い、周囲のきな臭い国々に対抗できるだけの体制像を描けているわけでもないという状況を伝えている。お隣りのトルコやレバノン、イラクに加えてすぐ近くにはイスラエルもあるわけで、そうなるとアメリカの影もチラつく。反対勢力の中でも、シリア国内だけでケリをつけるべきだとするグループと、国外からの支援も取り入れて、現政権の打倒を実現するべきだとするグループもある。加えて、アラブ民族主義、マルクス主義、シリア民族主義、クルド民族主義、イスラム主義と、イデオロギーだけでも5つの勢力が対立し合っている。何か、アサド大統領、思ってたより大変なんじゃないか。少なくとも市民を虐殺して、その上にあぐらをかいて宮殿で毎日パーティー、というわけではなさそう。

・10年以上も前にやった初代プレイステーションのゲーム、メタルギアソリッドで、クルド人であるスナイパー・ウルフというキャラクターがいた。彼女は内戦の中を生き抜け、スナイパーになったのだが、そんな彼女が死ぬ間際に言ったセリフ、「世界は我々(の惨状)を無視した」。この言葉が今になって心に響いてきている。

・本書の著者は「シリア・アラブの春(シリア革命2011)顛末記」というサイトで日々、状況を伝えてくれている。これからずっと注視したい。

2013年2月24日日曜日

武士に「もの言う」百姓たち: 裁判でよむ江戸時代 渡辺 尚志 (著)

・江戸時代の農民と言えば、強権的な武士に対して無力で、「生かさぬよう、殺さぬよう」搾取されるだけの惨めな存在。そんな印象を持っていたのだが、そうではなかった。江戸時代のどの時期かにもよるが、農民は決して「物言わぬ」存在ではなかったし、農民が公的な場で自分の利害を主張をするだけの社会的環境も整えられていた。

・具体的には、農民にも訴訟は認められた権利であったということ。現代以上に訴訟が盛んだったらしい。本書は、ある訴訟の記録を紹介することで、当時の様子を垣間見せてくれる。質問状やらそれに対する回答状などのやり取りがあったため、当時の様子を知ることができるわけだ。これらの訴状や質問状なども全て現代語訳してくれているので読みやすい。「自分に悪意はなかったんだけど、お騒がせしたことについては申し訳ない」なんて言う、本当に謝ってんだか謝ってないんだか分からないような言い方が、この頃から使われていたのが分かるのもまた面白い。ちなみにこの裁判、足かけ5年というから、当時に対する先入観も変わる。

・郡奉行から職奉行、評定所とヒートアップして周りを巻き込んでいくこの訴訟で、巻き込まれる側の武士達が、判決前に、藩の威光を保つためにどのように決着させればよいかを示し合わせている過程まで分かるのが面白い。帯刀という形で暴力の行使を許されてはいるが、やってることは官僚。なお、意外だったのだが、彼らの基本的な方針というのは、明確な判決を下すことではなく、関係者(この場合は農民)全員が納得して円満に解決することが重視されたという点。判決を一方的に言い渡しておしまい、ではなかった。意外と農民が大事にされていた事実が見えてくる。

・それにしても、何で、江戸時代の農民は搾取されるだけの惨めな存在というイメージが教育的に採られたんだろう?

ウルトラマンマックス 視聴記-18(第27〜28話)

第27話 「奪われたマックススパーク」

 タイトルからはセブンの傑作「盗まれたウルトラアイ」を連想させるけど、特にそういうことはありません。ミステリードラマっぽい冒頭。アパートの一室の不気味な生物、エレキングの幼体。ちょっと気持ち悪いぞ。これが、色々なご家庭所で飼われている兆候が示される。「(街全体で)どれだけのエレキングが育てられてるんだ」とは、恐い想像。今回はスタート時からライティングとBGMが不気味。ちょっと不快なアンバランス感を醸し出してる。一瞬、実相寺さんかと思うぐらい。

 あれ?今回、ミズキとカイトが主軸の話?と思わせる序盤の展開。カイトに対する挙動がちょっと不審なミズキ。一緒に見ていた家内が「告りたくなってんじゃないの」と。

 怪しげな空間では銀のお皿の上にエレキング幼体。ちょっとグロいです。そこで、「地球人の男性は可愛い女性に弱い」ことをセブン時代に学習したピット星人。そんなピット星人に見事にやられてマックススパークを奪われてしまうカイト。傍らでは昏倒するミズキ。ミズキはエレキング幼体に魅入られていた!この辺り、金子監督ならちょっとしたエロスを感じさせる映像にするんだろうけど、今回はそんなこともなく、健全に気持ち悪いだけ(?)。

 取り憑いてるエレキングをはがして、身体を張ってミズキを助けるカイト。ちょっと演出が安っぽいのが残念。幼体エレキングを無力化する方法は他に幾らでもあるでしょ、という感じなんだが。せっかくのカイトの頑張り、現場に向かうミズキの決意が、この辺りの演出のため、ちょっと安っぽくなっちゃったな。

 ダッシュバード3に乗り込み、月を背負って登場するミズキ、カッコいい!しかもエレキング1体を倒した!

 一方、映画並みの無謀なアクションで円盤に乗り込むカイト。序盤で「あの頃は無謀だったからなあ」とミズキに語ってるが、今でも十分無謀ですから!
 円盤の中で変身した(と言うより元の姿に戻った)ピット星人相手に強いぞカイト!ってか、何でピット星人、女性に擬態しないでわざわざ変身を解いたんだろ。

 今回のマックスのアクションはみどころいっぱい!エレキングの光線攻撃を手刀で叩き落す力強さ。そして、側転からのキック攻撃の時のカメラのローアングル、カッコいい!見たことないアングルでの巨大ヒーローの戦いっぷりを間近で見せてもらったという感じ。

 何だかマックス=カイトに気付いちゃったミズキ?
 自分の感想としては、1. カイトがエレキング幼体からミズキを助ける時、もっと説得力のある描写をする 2. その上で、マックスがミズキを助ける時にも、単に空を飛びながら機体をつかむのではなく、体を盾にしてエレキングの攻撃からミズキのダッシュバードを守る、というような流れが王道だとは思う。でも、今回のように、ちょっと端折ってる感のある流れでも、ミズキの表情できちんと語ることができているのでいっか。ちなみに、自分はミズキ・ラブなのであって、長谷部瞳・ラブではありません。誤解なきよう(笑)。


第28話 「邪悪襲来」

 いきなり星ごと滅ぼしてしまう怪獣(凶獣)登場。スターウォーズのデス・スター並みの破壊力を持つルガノーガー。見た目も鳴き声もちょっとアレなんだけど破壊力は凶悪。ちなみにデザインは一般公募で、8歳の子供からのものが採用されたらしい。

 お正月休みなカイトは自分が縁のある孤児院へ。そこには冒頭で故郷を滅ぼされた異星人、リリカの姿が。どこかで見た顔だなと思ってたら、映画版ガイアで、訳あり少女を演じてた斉藤麻衣だった。

 ルガノーガー、地球に襲来!キーフの時と同じく、リリカもカイトがただの人間ではないことを見抜く。合流したミズキに避難誘導を任せて攻撃のサポートにまわるカイト。ダッシュ・ドゥカで、まるで仮面ライダーばりのバイクアクションってか、星をも滅ぼすほどの凶獣が、ダッシュ・ドゥカからのミサイル攻撃程度を気にするかなあ?

 今回のマックスもアクションの見所がいっぱいサマーソルトキックだって出しちゃうぜ!もしやと思われたリリカちゃん死亡フラグも発動することなくハッピーエンド。何か、それほど苦労することもなく、マックスに普通に倒されてるルガノーガー。リリカちゃんはマックスに文句ないのかな?何で地球は守ってるのに自分の星は守ってくれなかったの?って。安保条約が結ばれてなかったのか。

 「邪悪襲来」だなんて思わせぶりなタイトルだった割りには小粒な佳作だった。ラストシーンでリリカちゃんがカイトの耳元でささやくのがちょっと微笑ましくてよかった。カイトの慌てっぷりも相まってリリカちゃんのコケティッシュな一面をうまく引き出してる。