2017年2月25日土曜日

対米従属の謎:どうしたら自立できるか (平凡社新書) 松竹 伸幸

 要約をザックリいくと

・戦後、ドイツと日本では占領の状態が違った。ドイツでは連合国が絡み合ったのでアメリカは好き勝手にできなかった。そこで日本の占領についてはアメリカが自国だけで占領できるようにした。その結果、政治家はアメリカの言うことをよく聞く者から構成されることとなり、そのためであれば戦犯であっても構わないということになった。これはナチ関係者が徹底的に断罪されたドイツと比べても、その違いが際立つ。

・アメリカが日本の軍事化へと路線を転換したのは、もちろん冷戦によるもの。アメリカは、日本における軍事行動に際しては当然日本からしかるべき主張が出てくることを予想していたが、それをしなかった。その結果、例えば核の持ち込みなども「慣習」化されることとなり、この「慣習」化によって日本の対米従属は構造的かつ永続的なものへと変質していった。

・「核」「抑止力」は冷戦が終結し、テロが脅威となった今日の世界では説得力を欠くようになってきている。それなのに、「核の傘」頼りの日本でいいの?

 という感じ。

 右翼でも左翼でもなく、それぞれに語りかける。こういう人の言論には説得力がある。しかも、一部の左翼がヒステリックにやってきたように、一方的に吉田茂ら保守政治家らの非を鳴らす、というようなスタンスではないのも、個人的には好印象。

 しかし、いっつも本の売り方とかにケチをつけてるみたいでアレですが、この帯はどうなんでしょうかね。もう売るためなら何でもやるってことか。もちろん、田中宇さんが展開しているトランプ確信犯説に立った上で本書のあとがきでサラリと触れられている内容を紐付けて、この帯を付けてるんなら秀逸ですが。


レジリエンス入門: 折れない心のつくり方 (ちくまプリマー新書) 内田 和俊

 15分ほどでサラリと読了。ちくまプリマーなので、高校者向けの入門書といった内容。ほぼ既知の事柄ばかりだったが、この手の分野に疎い読み手にはかなりもよい入門書。感情とどうやってうまく付き合うかということなのだが、古典的なものからマインドフルネスまで網羅しているし、感情について考えるときには必ずその根底に横たわっている自分の価値観や思い込みを見つめる必要があるのだが、カーネマン、サルトルなどの置石もされている。サラリと読めるし、いいんじゃないですか。これで物足りなかったら久世浩司さんがオススメ。


2017年2月11日土曜日

アイデア大全―創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール 読書猿

 「読書猿」の本ということで買うことには間違いなかったが、読む本が山積状態なのでしばらくしてからと思ったが、本屋でページをめくったら即買い!早くも今年のナンバーワン候補。自分には発想法や仕事術について「3種の神器」とも言うべき本があって、それは「知的トレーニングの技術」、「複眼思考の方法」、「ストレスフリーの整理術」なのだが、本書は間違いなくそこに連なる。

 一見、企画関係やマーケター向けのアイデア指南本の体を取ってるけど、そこで判断してはいけません。頭のこね方を微に入り細に入り手ほどきしてくれる。しかも手ほどきだけではなく、その方法の根底にある思想や考え方なんかも教えてくれるのだからありがたい。テーマによっては関連する本の簡潔なまとめとしても読める(ゴールドラットとか)。また、手を使って書くという身体性の効用がほぼ全編にわたって展開されている。

 紹介されている内容には少し玉石混交な感もあるが、これは今後の自分の関心や心の状態に応じて変わっていくのだと思う。それだけの深さを持った本。ただ、著者の読書量からすると、参考文献の紹介が意外と少ない印象。これはあえて抑えたのかな?

この本自体、著者がサイトでも重要書として言及している花村太郎の「知的トレーニングの技術」の発展的フラクタル(変な言葉?)と言えるか。

佐藤優辺りを震源地として最近は「技法」本流行りだけど、本書は間違いなく本当の技法を伝授してくれる本。ただし、本書はアイデアや発想がテーマなので、今後は他のジャンルでの続編を強く希望したい。

 それにしても、何で黄色なんだろう?表紙だけでなく中身のページも黄色。あと、ちょっと紙の独特の匂いが強くて気分が悪くなる時がある。

やり抜く力 GRIT(グリット) アンジェラ・ダックワース (著)

 週刊ダイヤモンドの店員書評で読みたくなった。具体的なトレーニングもあるとかって書いてあったので。さらに、Y村君との話で「グリット」がキーワードとして出てきたのだが、そういう「やり抜く力」は自分には足りないなあということを再認識したタイミングでもあったので、期待して読んでみたのだけど、しまった、飛びついて買うほどの内容ではなかった!!

 「やり抜く力」の中身については、中村天風さんを読んだことがあれば既視感がすごい。「やり抜くには、好きなことでなければダメ」なんていう、そりゃそうでしょうけど、それって、改めて力説して教えていただくようなことでしたっけ?と絶句してしまうようなお言葉も。しかも、どちらかと言えば「好きじゃないことでもやり抜ける力」の涵養方法を期待していた。さらには、ちょっと気の利いたライフハック系のサイトでは常識となっているようなTipsをアンソロジー的に蒐集してみたような側面も(「習慣化が大事」とか)。

 とは言え、本書はHONZやForbes Japanが主催している「ビジネス書グランプリ2017」の「ビジネススキル部門:で第1位。う〜ん、自分の感覚がズレてるんでしょうかね。



人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書) 吉川 洋

 週刊ダイヤモンドの新年号で、2016年の経済書ベストを発表してて、本書は堂々の第1位。しかも人口なので、これは読まないわけにはいかんでしょということで読んでみた。

 主旨は、(先進国の)経済成長は人口で決まるものではなく、イノベーションによるということ(P89)。人口が少なくても「大人の紙オムツ」のようにイノベーションを起こして市場を創出すれば経済成長はできるということ。

 感想としてはイマイチでした。イノベーションの例が「大人の紙オムツ」って辺りに、著者の年齢的制約を感じるというのは別にしても、統計資料をもとに説明した後に出てくる結論に、論理的な接合を感じられなかった。人口学の歴史の概説にも統計の説明にも文句はないし、主張したいことにもそれほど異論はないけど、両者はつながってないですよね?という感じ。
 なお、もう一つ、違和感を感じた例を。著者がイノベーションの例としてイノベーションの例としてスターバックスを挙げてる(P77)のだけど、これでつぶれた町の喫茶店多数なんだろうから「市場の創出」ではなく単なるゼロサムでの取り合いじゃないんでしょうか?(創出した側面もあるけど)
 また、本書では、ピケティの「格差拡大を是正するために再配分が大事」という主張は、今や肯定する人が少ないと記述している(P88)が、そうなのか?決めつけが過ぎるような気がする。それに「生産性より分配の問題なのだ!」という意見(お師様)の方が自分には説得力がある。

 これで昨年の経済書No.1っておかしくない?と思ったが、著者は結構エラい先生らしい。「ダカラカー」。だったらつまらんぞ、週刊ダイヤモンド!(正確に言うと、選考は編集部じゃなくて大学の先生やアナリストによる投票結果らしいけど)

ビッグデータと人工知能 - 可能性と罠を見極める (中公新書) 西垣 通

 西垣センセーの情報学のテキストは、難しそうな面構えの割に読みやすい印象があったので、本書も期待して読み始めたのだが、人間と人工知能との比較検討が乱雑。特に中盤から終盤にかけてはその印象が強い

 例えば。

 芸術は過去にないものを創り出すものだが、人工知能は過去のパターンから持ってくるだけなので、よって芸術は人間によってしか可能たり得ないというくだりがある。著者のお仕事と本書の性格から言って、では、人間が芸術を創り出す時の知能のプロセスが、人口知能のそれと、どう違うのかということを提示してくれて然るべきでわ?

 ただし、人工知能肯定派(カーツワイルとか)は、まだ解き明かされていない人間の知能の働きを、モデル化という形で単純化したまま、処理速度の向上を以ってシンギュラリティの強力な論拠としているが、それでは知能の働きの大事な部分がこぼれ落ちたままになるという主張には強く同意。とは言え、色々なものの解像度が粗くなっていくのは、例えば音楽のアナログ→デジタルへの移行やインスタント食品なんかとも共通な現象なので、文明の発展の必然なのかもという気持ち(諦念に近い)もあるけど。

 それと同時に、人工知能に感情や心がないと断定はできんでしょうとも思う。人間だって、人体を構成している物質は分かってるけど知能や心の働きは未解明。もしかしたら未知の物質なり引力・斥力の働きによる動的生成なりで動いているのかも知れない。だから、トランジスタやシリコンでできているものにも「心」の動きがあるかも知れない。戦国魔神ゴーショーグンで「機械は友達!」とかって言ってたアレだ(違うか)。

 AI礼賛なバラ色SF未来への批判的論旨をふむふむと首肯しながら読み進めていったら、あれれ?肝心なところの紐解きはスルーですか?というのが散見される印象。ただし、読む価値はある本だと思う。