2016年9月24日土曜日

秘録 CIAの対テロ戦争――アルカイダからイスラム国まで – マイケル・モレル (著)

 CIAの長官代行まで務めた叩き上げのスタッフによる回顧本。網羅されているのは9.11、アルカイダ〜イラク戦争からスノーデン、ISまで。大統領へのブリーフィング担当を務めた著者の体験による関係者の言動は、ある程度割り引いて読んだとしても面白い。

 自分の中でのCIAというのは、いわゆる映画(それもアクション映画)に出てくるイメージがほとんどなのだが(中には「アルゴ」みたいなのもあるけど)、CIAだって官僚的組織なわけで、実際はこんな感じでやってます〜というのが、ある程度の説得力を以て描かれている。だが、本書で書かれているのは、表沙汰にして問題のない(あるいは既にバレてる)部分だけだろうし、しかも言及されていること全てが快刀乱麻を断つように明快にまとめられているというわけでもない。

 例えばイラク戦争。開戦前には大量破壊兵器の有無が焦点となり、そのレポートはCIAが作成した。本書や他の本でも触れられているように、当時のCIA長官のテネットが大統領に「(大量破壊兵器があるのは)スラムダンク(確実)」と言ったというのは、かなり有名なエピソードなのだが、本書では、それは事実だったとした上で、そのレポートが適切性を欠いていたとは認めている。ただ、なぜ、そのようなレポートができあがることになったのかという経緯があまりにも細かすぎる。「レポートの執筆担当者が帰宅した後に、別の分野の専門家が全体を勘案しないままの一文を追加して、そのことを他の者に伝えていなかった」ために、そのような報告書が出来上がってしまった、というのだが、こうなると最近頻出している国内不祥事の言い訳のようなうさん臭さが漂う。

 疑ってばかりでもつまらないので、ある程度素直に読み進めるならば、アメリカは、多分、我々が考えている以上に「世界の警察」としての責任を自覚しており、それを法治国家の枠組みの中で遂行する努力を放棄してはいないという姿が見えてくる。法の執行時には裁判所の令状が必要なのと同じように、CIAの活動は議会の監視下にあり、その承認には相応のプロセスが必要であり、大統領の認可が必要というのが本来のルールであることも分かった。

 だが、本書を読んでいて著者のあざとさが見え隠れするように感じるのは、自分が著者のことをCIAの副長官まで務めた人間だからと身構えるあまりの下衆の勘繰りだろうか。
 結局、関係者自身による回顧本というのは、書かれた内容をそのまま鵜呑みにすることはできない。ただ、こういうアメリカ関連のテーマは、ボブ・ウッドワードをはじめとした様々な立場の人たちが取り上げている。登場人物も重複してくるわけで、複数の本を読んで、そこから読み解くと、また浮き彫りになってくるものがあるだろう。

2016年9月3日土曜日

ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 (幻冬舎新書) 東 浩紀, 大山 顕

 「ショッピングモールは世界中で普遍的な、新たなコミュニティ形態の最先端の実験場」との見立てで行った対談集。

 「モールは、コンパクトシティの理念をもっとも正確に実現している。逆に言えば、コンパクトシティというのは、じつは市街地全体をモールにするという発想なんですよね。 (P39)」
 「要するに、ショッピングモールは、「人間にとって最適な環境をどうつくるか」というひとつの実験場だと思うんです。(略)しかも、国や地域の文化に影響を受けない実験場であるという部分が、とくに面白いと思うんですよね。どんな文化でも受け入れてくれる。 (P240)」

 ただし、あくまでも対談で「色々な視点で見てみる」という域を超えているわけではない。自分としては「ショッピングモールを地元の商店街に対する悪としてしか見立てないのはおかしい」という問題意識こそが、本書を読んだ一番の収穫。

 なお「先行形態」についての言及があり、同時期に読んでいた柄谷行人の「憲法の無意識」でも、結構重要な概念として紹介されていたので、奇妙なシンクロを感じた。今風に言えば「セレンディピティ」ってやつですか。

 ちなみに、本書のベースとなっているのは「ゲンロンカフェ」なる場での対談だったらしいが、こういう面白い催し物を札幌でも盛んにしたいなあ。ついでに出版までできたらいいなあ。